釜揚げ師走【毎週ショートショートnote】
「ああ……忙しい!忙しい!」
このどこもかしこも忙しいとされる師走……ここ地獄も例外ではなかった。
唯一ただただヒマなのは誰もいない天国だった。最近では深刻な経営難に陥っていて、このままでは年越しまで持たないかも……という噂で市場では天国株の投げ売りが始まっていた。
一方大繁盛なのがここ地獄だ。地獄に送込まれる者があとをたたないため、第二地獄、第三地獄、地獄別館など拡張につぐ拡張が突貫で行われたが全然追いつくことができなかった。
だが朗報がある!この年明け、今までの100倍の規模の〝アネックス地獄〟がついにオープンする。
それに伴い旧地獄もこの年末、改装工事が予定されていた。つまり例年より稼働日が短いのである。今年の地獄グループはただでさえ忙しい12月に更に輪をかけて忙しかった。
「はよ決めろや!っ」
担当の赤鬼がこれまでに見せたこともないほど顔を真っ赤にして新参者の女子に決断を迫っていた。女子は髪をプラチナに染め上げなかなかの可愛らしい顔をしている。
「そんなこと言っても…あら、おじさん!トラのパンツがセクシーね。フェイクだとしても見事!よくできてるわ……なんかはみ出してるけど……」
「何っ?」
鬼はぎょっとして自分の股間を確認してしまったが何も問題無かった。鬼さえも手玉にとろうとする小娘に一杯くわされた……
「お前!調子にのるのもいい加減にしろ…お前みたいなヤツは……」
「もう一回説明してっ!」
女子は赤鬼を前にしてまったく怖じ気づく気配もなかった。
まったく脅しがきかない…こういった手合いにどう対処したらよいかわからない鬼は観念をして再び説明をはじめた。
「お前は閻魔様のお沙汰で釜ゆでの刑に処せられることになった。ここまでは理解してるな?」
「もちのろん!」
「そしてオレが担当する釜ゆでのコーナーだが、最近人権に配慮した〝茹で蛙ポッド〟が追加され3つから選べるようになった。茹で蛙の意味はわかるな?徐々に温度が上がることで危険に気づかない蛙がそのまま茹でられて死ぬという例のあれだ……まったく左翼の奴らはロクなことしか提案してこねえ!なにが人権だ」
「そして〝釜ゆで〟と〝釜揚げ〟だっけ?この違いは?」
「ああ。〝釜ゆで〟のほうはゆであがった後〝冷水でしめる〟という行程が入るんだ。釜揚げはゆであがった後そのまま釜から引き上げる!つまり〝冷水でしめる〟という行程が省略される……この三つからどれか選べってさっきから言ってるんだ!」
「まあまあ……ん~~!釜ゆでってなんかサウナみたいね!高温から冷水で〝整う〟ことができるみたいな……よしっ!釜ゆでに決めたっ!〝釜ゆでで整う!〟いわば釜整~!」
何だこの展開は……
「かまとと!かまとと!」と叫びながらぴょんぴょん跳ねる小娘を見て赤鬼はあっけに取られていた。
ウゼぇ!そしてあざとい!
赤鬼は知らなかった。
しょせん鬼がかなう相手ではなかったのだ……
この小娘こそがかつてYouTubeで一世を風靡した、
『頂き女子のるるちゃん』だった。
(😭😭😭)
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