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夜からの手紙【毎週ショートショートnote】
夜から手紙が届いた。いや正確にはハガキだ。さらにいえば往復はがきだった。なかなかの達筆だ。ぎりぎり判別できるぐらいの流麗な毛筆だった。
返信面に記載された住所を確認すると〝山口県周南市〟の〝夜市(やじ)〟にある郵便局の私書箱だ。
〝いかにもという…でき過ぎた感がうさんくさい…そもそも日本郵便ということは日本国籍なのか?〟
怪しさ満点の郵便物だったが、内容を見て少し合点がいった。
私はショート・ショート作家なのだがそのタイトルに対するいわばクレームだった。返信等のハガキはそのフィードバック用らしい。
実は私の作品のタイトルには『夜の~』から始まるものが多かった。
つい最近も『夜の自己紹介』というタイトルで一本書いたばかりだ。そして私の最大のヒット作は『夜の自由研究』だった。ちなみに現在執筆中はライトなドタバタ劇『夜のおかず』だ。
文面によると夜の主な主張は〝夜の地位向上に配慮してくれ〟とのことだった。
「夜の営み」や「夜の女」などの慣用句は許容範囲で、「夜の蝶」や「夜の桃」などの一流作家によるタイトルだったら歓迎ということだった。中でも「夜と霧」は夜の地位向上に最大限寄与した傑作だと大絶賛していた。最後にだいぶ昔の名曲「夢は夜ひらく」を例にとってこの私にレクチャーだ。
〝うるせーわ…〟
そしてオーストリアの作品にも言及しているところをみると夜は各国でこのような活動をしているらしい。
私のような小物作家でも相手にしてくれるというのは少々気分が良かったが、私は返信用のはがきに自分の主張を展開することにした。
タイトルを『夜の~』にするのは私のスタイルであってアイデンティティーなのだ!口を挟まないでほしい!少々強い口調だったが私は夜に反駁した。
しばらくして、夜宛の返信用ハガキが戻ってきた……
〝えっ!受け取り拒否?〟
そうではなかった。
ただの料金不足だった。
この10月1日からの郵便料金改定を失念していた。
〝くそっ!〟
差額分を追加せねばならなかった。
(800文字超え😭)
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