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記憶冷凍【毎週ショートショートnote】

「要は記憶冷凍庫から記憶が盗まれたということで良いですかな?」
「はい」

「そして御社のずさんなセキュリティが世間にバレるので表沙汰にしたくないと?」
「はあ……」

「盗まれた冷凍記憶の属性は?」
「東大志望のある男子高校生の『数学Ⅲ』と『物理基礎』、『ヒアリング』の3点です」
「おお!いかにも王道というか!」

「そうですね。そもそも記憶を冷凍保存する目的の一番がこういった使い方です。記憶が薄れてしまったときのバックアップというか」
「なかなかのサービスですな」

「あと色あせて欲しくない素晴らしい体験、楽しい記憶、美しい景色など。情動も合わせて保存可能ですから。つまり恋愛にまつわる記憶の保存がその次に多い需要ですね」

「なるほど。逆に嫌な体験や怖かったり不快なものはないんでしょうなあ」
「そうですね。後々の争い事や犯罪の証拠になるものだけです。全体の1%にもいたりません」

「ところでこの冷凍された記憶というのは他人のものでも共用可能ですか?」
「はあ…公式にはうたっておりませんが。ネットで調べるといろいろな方法が出回ってます。実は簡単なんです。解凍だってレンチンです。500Wで2分ですから。ハンドリングも楽です。クール宅配便もOKですから。解凍後は帽子をかぶるというか、ヅラを変える要領で簡単に記憶をインストールできるんです。すべて当社の高い技術力によるものです」

「なるほど。盗まれて二週間ですか?」
「そうですね、オークションサイトなど監視しておりますがいまだ行方が…」

「すでに使われてしまった可能性のほうが高いですね」

結局、1回も事件を解決したことのない名探偵の小籠包蒸(ショーロン・ポームス)はこの件に関わることになった。まったく存在がエキセントリックだと舞い込む案件も奇妙なものが多い。

ポームスは記憶冷凍庫に出向くなり犯人を特定してしまった。その冷凍庫の払い出し記録に手がかりがあった!というのだ。

犯人はなんと事件の依頼者の娘さんだった。都立高校に通うその娘さんもなかなか優秀でやはり東大志望だったのだが確実な合格判定圏にはもう一歩だった。そして関係者の娘ということでセキュリティにも熟知していたらしい。

「決め手は何だったんだ?」
「小林君。土下座してまで頼むことじゃない!そんなにまでしなくても教えてあげよう!」
いや別に土下座なんかしてないが面倒くさいのでスルーした。

「で…?」
「ああ、例のブツが盗まれた直後に、くだんの女子高生がやはり自身の冷凍記憶を引き出していたんだ。その記憶には『図書館の思い出』というインデックスが付いていた。記憶を盗まれた男子高校生も同じ都立高校生だったんだ」
「ふーん」

しばらく僕たちは無言になった。

「なあ、その娘さんを罪に問うつもりがあるのか?」
「まさか。盗んだのは記憶だぞ!ハートだって盗んだからって逮捕されるわけがないだろうが!」

ポームスはどうやら映画のワンシーンのことを言っているらしい。

〝お前を逮捕する!〟
〝何でよ!〟
〝俺のハートを盗んだ罪だ!〟

よくあるベタなやつだ!

「ああ、映画でよくあるやつか…」

もの想いにふけっているのかポームスは遠くを見つめていて反応がなかった。

「えっ!お前まさかリアルでそれやったことあるのか?」

ポームスは答えない。

あとで問いただしたところによると、ポームスはその恥ずかしい記憶を冷凍したらしい…。

(😭😭😭)

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