グリム童話ATM【毎週ショートショートnote】
グリム童話銀行とイソップ物語銀行とアンデルセン童話銀行がEUで覇権を争っていた。
だがアンデルセン銀行は昨今の金融危機のあおりを受けて破綻に瀕していた。シリコンバレー銀行と同じく経営陣は素人ばかりだったのだ。「はだかの王様」状態だった。
急遽経営陣を入れ替え、マッチを一本一本摺るかのごとく急場をしのごうとしていたが、とうとう残り最後の一本というところでグリム銀行に救われた。グリム銀行は「ハーメルンの笛吹き」M&A統括部が先導して破綻寸前の銀行を次々と傘下に収めていた。
そうなると実質グリム銀行が規模で圧倒し、イソップ銀行は苦戦を強いられるようになった。さらに運営面でもグリム銀行は一歩抜きん出ていた。
グリム銀行「白雪姫」営業開発部が考案したフィンテックミラーは富裕層に大当りする。鏡にオススメの金融商品を聞くとたちどころに回答が得られるというもので、それはすべての顧客に同じ商品をイチ推しするという内容だった。
富裕層が金に糸目をつけずに一斉にそのオススメを購入するとその商品は爆上がりする。ただし売り時だけは顧客データをもとに数学的に利益を最適化するタイミングをそれぞれに通知するというものだった。
高額のサブスク料を支払うことができて、会員条件を満たした富裕層のみが儲かるという仕組みだ。当然、損は非会員がかぶることになる。
また同じく「シンデレラ」マーケティング部が考案したシンデレラストーリーという金融商品は庶民に大当りした。キャッチコピーは「カボチャを馬車に変えませんか?」だった。貸し出し金利が絶妙に設定されていたためか、名称といいキャッチコピーといい〝いかにも〟で〝あざとすぎ〟だったが商品の売れ行きに陰りはなかった。
ここに紹介したのはほんの一例だがグリム銀行は向かうところ敵無しだった。
だがイソップ銀行もただ黙って手をこまねいていたわけではない。「酸っぱい葡萄」広報部のつぶやきで負けを認めたかと思いきや「アリとキリギリス」事業推進課の堅実なプランで起死回生を目論んでいた。
ところが「狼少年」戦略課のツイッターに放った一撃が功を奏した。トレンドワード一位に輝いた切り札だった。
「いよいよグリム銀行が危ない!」 #グリム銀行破綻
どこのグリム童話ATMにも長蛇の列ができた。本店や支店の窓口にも人々が殺到していた。
根も葉もないウソで取り付け騒ぎを起こしたのである。こうして破綻に追い込まれたグリム銀行はイソップ銀行に吸収されたのだった。
そして、このエピソードは「盛者必衰の理」として人々に語りつがれるようになった。
とさ。
(およそ1000字)
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いや平家物語かよ!
物語はこれで終わりではない。
イソップ銀行はいい気になりすぎていた。7つの大罪の「強欲」にあたるとして神様の怒りを買った。神様はイソップ銀行を試すことにした。
「お前たちが最近投資したのは、金か銀か銅か?」
イソップ銀行はすぐさま重役会を招集し神様への回答を検討することになった。実のところ最近投資をしたのはアルミだったのだ。
だが2020年のパンデミック、2022年のウクライナ戦争、昨今のインフレ事情、台湾有事懸念などから金が暴騰し続けており会議をするまでもなく神様への回答は一択だった。神様への回答はやはり取締役頭取が担当した。
「私たちが最近投資したのは、プラチナです!」
「なに~!この、たわけものどもっ!」
ウソの回答は神様の逆鱗に触れてしまった。
イソップ銀行は神様のお沙汰によりお家取りつぶしとなってしまった。
そして、この解体を引き受けたのはなんとディズニー銀行だった。実はアンデルセン銀行破綻からEUにおける銀行第一位の座を虎視眈々と狙っていたのだ。そしてダークホースであり本命だった。
ファンタジーの衣をまとった意識高い系のディズニー銀行。実は神様に扮して一芝居うったのもディズニー銀行だった。グローバリスト、左派、社会正義マンの巣窟ディズニー銀行として神様を偽装することに何の抵抗もなかったのだ。
こうしてEUの金融界を見事ディズニー銀行が一気に手中に納めたのだった。
さて、イソップ銀行からディズニー銀行に看板が架け替えられた日のこと。メモリアルとしてパレードがとり行われ、花火が打ち上げられ、それはそれは盛大にお祝いがされたのだった、とさ。とっぴんぱらりのぷう。
筆者としてはディズニー銀行の今後にも引き続き注目していきたいと思う。
目が離せん…