洞窟の奥はお子様ランチ【毎週ショートショートnote】
シーン1
SNSである投稿が話題になっていた。投稿者はかつての南極観測隊のおつきの料理長だった。
「ウチの店のお子様ランチに立っている旗はなんでしょう?」
画像は大人向けといっても良いお子様ランチだった。いかにも美味そうだ。旗の部分にモザイクがかかっている。
「んなもん、日の丸に決まっとるやないか…」
投稿はこんな一文で締めくくられていた。
「ヒント:我が国の国旗ではありません」
シーン2
俄然興味をそそられた私は早速チームを組織して旗が何であるか見定めることにした。なぜチームかというと投稿の店が「アマゾン奧地店」となっていたからである。
さんざんな思いをして2ヶ月かけてようやくたどり着いたところ貼り紙がしてあった。廃墟を目の前にして我々は呆然としていた。
「移転のお知らせ。このたび下記の通り移転することになりました」
なんということだ!仲間の一人を失いながらもようやくここまで来たというのに!
我々は早速「ゴビ砂漠中央店」に向かった。
が時既に遅しだった。店はまたもや移転した後だった。またもやチームの貴重な人材を一人失っていた。
その後我々が目指したのは「ウユニ・レイクサイド店」「コート・ジボアール海の家店」「猫カフェ・イリオモテ」「チョモランマトップヒルズ店」「アートラウンジ・なすか」など枚挙にいとまが無い。
移転が早すぎるか、行程がキツすぎるのだ。中にはもう2日早ければ間に合ったという店があった。
それにしても「マリアナ海溝ディープブルー店」では潜水調査船「しんかい」をチャーターしたうえ潜水病になりかけた。
また「オービタル周回軌道店」には閉口した。我々のチームはまずNASAで数ヶ月の過酷な訓練を受けねばならなかった。その後アマゾン創業者のジェフ・ベゾスに頼み込んでブルーオリジンのロケットで国際宇宙ステーションまで連れて行ってもらったのに……クルー向けの食堂はすんでのところで運営が変わってしまっていた。
そして私はようやく洞窟の前までたどりついた。この名も無い洞窟は地図にも載らない無人島にあった。そして中央に位置する滝をくぐらねばたどり着くことができない。
ここまで長かった。これまでに8人のチームメイトを失い、最初に思い立ってから9年が経過していた。当時小学一年だった娘は高校一年生となり私はまったく相手にされなくなっていた。
シーン3
私は洞窟の奥に向かった。
「よくぞここまでたどり着きましたね…」
店主は笑顔で私を迎えた。
私のオーダーは一択だ。
充分時間をかけて私の前に出されたお子様ランチは見事だった。
そして見たことのない旗が立っていた。
いやひょっとしたらどこかで目にしたことがあるかも……
私は店主にこの旗がなんなのかを尋ねた。
「これはね……新宿区の新の字を元にした紋章なんですよ。新宿区旗です…」
私はしばらく言葉が出てこなかった。
ようやく声を振り絞った
「なんでまた新宿……」
「ああ、私が最初に店を出したのが魔境新宿東口の……」
私は店主がすべてを言い終わらないうちに店を後にした。
(😭)
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