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バンドを組む残像【毎週ショートショートnote】

「あろれ~。ほんまにねぇ~。なにいうてんのキミは~。それは、あかんよ。あろ、ほんっぱにボクはね~。新幹線でね~食べたゆで卵が9個!」

その言い回しが耳について離れなかった。お見合いの席でお相手が突然見せた一発芸だった。ものまねのようだったが、似てる似てない以前にそもそも誰のものまねかわからなかった。〝バンドウなんとかって……誰?〟それよりも〝ここからはお二人で〟と告げられた後で本当に良かった……

お見合いの席で聞いた限りであるが、お相手の趣味は音楽鑑賞だった。中でもヘビメタに心酔とのことだった。誠実そうで大人しそうな彼にはおよそ似つかわない。だがその後何回めかのデートに現われた彼を見て私は驚いた。

「お待たせ~」
「えっ?……誰かとお間違えなのでは……」
「いやいやボクだよボク!」

にこやかな顏は白塗りだった。そして目のまわりはパンダのようにまっ黒だった。いやパンダではない。どちからというとジョーカーだ。そこには大きな星が二つ描かれていた。髪の毛は逆立ち普段の倍のボリュームがあった。

上半身は裸でネックレスに見立てたチェーンがぶら下がっているし、下半身はピチピチの黒のレザーパンツで厚底のブーツだ。

私が呆気にとられてると彼は言い訳をした。

「あっボクは社会人バンドでボーカルとベースが担当なんだ。公演が近くて実践さながらのリハーサルをしてたんだけどおしちゃって……着がえもそこそこに駆けつけたという訳さ!」

その日のデートは肌寒い中彼はその出で立ちで通したのだ。

そうこれが今から15年前のことだった。今で言うギャップ萌えというやつか。〝私のハズバンドはこの人!〟と確信した瞬間だった。

今や二人とも10万45才となってしまった。相変わらず厚化粧でゆで卵を頬張る夫を見てデ・ジャブかと思ったがそんなことはなかった。


(750字ぐらいです😭😭😭)


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