鳥獣戯画ノリ【毎週ショートショートnote】
世界中から天才とも呼ばれるハッカーが集結するデフコンという世界最大のハッキングイベントがある。そこでは、腕自慢のハッカーの能力を問うコンテストも多く行われる。
同時期に開催される〝地下デフコン〟というものがあった。デフコンが表の顔だとすればこちらは裏の顔だ。参加者は脛に傷を持つハッカー、高額な懸賞金に惹かれるが匿名で参加したいハッカーに限られた。
というのもいかんせんこのコンテストは難易度が高すぎるうえ、極めて違法性の高いものだった。
そして今年の地下デフコンの主催地は日本だ。コンテストの賞金は3千万、そしてそのテーマはなんと〝2020年のアメリカ大統領選の不正の証拠〟だった。
なぜ日本で?
実はアメリカで証拠を挙げて問題提起しても黙殺されるのだ。マスコミも司法もまったくといっていいほど機能していなかった。第三国から糾弾することで活路を見いだすという目論見だった。地下デフコンに大義名分があるというのも義侠心の厚いホワイトハッカーにウケた。
そしてその証拠の入手先もほぼ限られていた。悪名高きアメリカの投票集計システムメーカーのD社、CIA、その時の情勢で民主党にも共和党にも振れるスイングステートと呼ばれる激戦州の選挙管理委員会ぐらいだ。
最初にエントリーしてきたのはロシアのチームだ。データ量は3テラもあった。すぐさまこれは「高山寺」と名付けられ主催者側は審査に入った。
次に名乗りを上げたのは北朝鮮のチームだった。ひょっとしたら日頃のハッキングの成果や、自らが2020年の当時、まさに選挙に実際に干渉した記録などが盛り込まれているかもしれなかった。
だがいかんせんデータ量が10ヨタもあったのだ。物理的に参加は不可能だった。このエントリーには「三河豊田」と名付けられ名乗りを上げた履歴だけが残り、与太話として片付けられた。
次に参入してきたのはドイツのチームだ。データ量は2.7テラだった。すぐさま「仁和寺」と名付けられた。
実際ここまでくるとロシアとドイツの一騎打ちのように思われた。データ量でいくとロシアだったが、こと証拠としてどうかでは必ずしもデータが大きい方が有利とはいえない。
例えばタックスヘイブンの法律事務所からの流出でお馴染みの「パナマ文書」はデータ量2.6TB、2.6テラもあった。データ量が大きすぎてとても精査なんて出来ない。ざっと目を通すことすらかなわないのだ。
こうなってくると技術的に解決するしかない。全データを対象に検索可能なシステムの構築だった。そして1150万をこえるファイルのメタデータ化だった。簡単いえば検索に役立つように見出しをいくつもつけるイメージだ。あくまでも検索のためだった。
そこからさらに関連を視覚化するグラフ化という処理をパソコンにやらせるのだが煩雑になるので割愛する。
2015年の流出からここまでしてもいまだ全貌の解析が終了していないのだ。
とにかく「高山寺」、「仁和寺」に優劣をつけねばならない。審査側が苦慮していると、締め切りギリギリになって日本の精鋭チームによりハッキングデータが持ち込まれた。なんとそれはわずか10ギガしかなかった。
データ量だととても「高山寺」や「仁和寺」には遠く及ばない。それでも日本のチームのデータは「鳥獣戯画」と名付けられ一応形ばかりの審査が行われた。
ところがこのデータは洗練されていた。「高山寺」や「仁和寺」が生データだったことに比べ、こちらはあらかじめ加工されノイズなどの余計な情報が取り除かれていたのだ。不正な証拠そのものが10ギガだった。
これにより一気に日本チームが優位に躍り出た。
「高山寺」や「仁和寺」が争っている隙に「鳥獣戯画」が一位をかっさらった。ある意味「漁夫の利」ともいえた。
こうしてダークウェブでは「10ギガの利」、「鳥獣戯画の利」として今回のコンテストが伝説となった。
とさ……
苦ちかった……
(今回も1500字越えなので……)
たらはかに様の毎週ショートショートnoteに参加しました!
今週も参加できて良かったです。皆様の作品を確認せずに製作しましたのでネタ被っている方がいたらごめんなさい😭