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1年に1回くらいはデザイン仕事の話をする

平日は毎日仕事・制作をする生活をさせていただいているので、「2024年の総括」「振り返り」をやろうと思うと、どうしたって仕事の話が絡んでくる。12月になると人と会っては「今年印象に残っている仕事ってありますか」なんてトークテーマも自然と出る。だが今月はさほど人に会わなかったので(悲C)、ここにあれこれ思い出を書いてみる。どれもかけがえのないお仕事である、優劣はなく、いくつかピックアップして今年の仕事を振り返ってみたい。

なお、本記事に書いていることは出来上がった制作物そのものを詳しく紹介するというよりは、あくまで「制作当時に考えていたこと、起きたこと」としての自分用の振り返り・記録である。また、その作品や商品の公式の見解ではないことをご承知いただきたい。デザイナー目線の日記である。

2024.02 - “Awaken Now” - 松永依織 (Blitz Wing / RIOT MUSIC)

  • RIOT MUSIC / Blitz Wing所属のシンガー・松永依織さんのライブ “Awaken Now” は、毎年恒例となっているバースデーライブ・その2024年版。松永依織さんのクリエイティブにはCDやグッズなどにも何度か携わらせていただいており、久保プロデューサーには頭が上がらない。

  • ライブは生バンドを迎えるとのことで「とにかくロックで熱いライブにしたい」ということを制作前の打ち合わせでご説明いただいた。分かりやすい。最高だ。

  • ちゃっぴーさんによるキービジュアルイラストはとてつもないパワーがあった。嬉しくもあり、この素晴らしい作品を用いてキービジュアルを作ることへのプレッシャーを感じた。

  • そこから「どういうロゴを作ろうか…」とひたすら悩む日々が始まるのだが、やがて彼女の歌声やパフォーマンスの力強さを「塗り」というもので再現しようというアイデアでいこうと心が決まった。

  • 塗る、という行為はその対象や塗料・濃さによって自由な表現ができる。ライブを観た人によって、それまでの日常が一変するような日になったり、それこそ松永さんの活動コンセプトのように、ライブの翌日からの日々を支えるようなものになったり、観た人の感想を1つに絞ることにできない、いい意味でいろんな感想がある。

  • ロゴを作る上では、わかりやすさの中に、「なにこれ?」っていうものを盛り込みたかった。これは自分の勝手な発想である。ただただ尖っていて素直にかっこいい!と思えるものでもおそらく成立していたんだとは思うが、遊び心を入れたい気持ちがあった。キービジュアルとして世に出たときに、見た人が一度立ち止まりたくなるような、そういうものだ。

  • 「Now」は割とキャッチーな表現で、昔は「ナウい」なんてフレーズも流行ったし、Twitterでは文章を「〜なう」と締める投稿が大量に流れてくる時期もあった。遊ぶならこの部分だと思った。


  • ライブとあわせて、一部のグッズや配信楽曲用のアートワークも制作させていただいた。デザインの方向性はすべて統一しているが、アートワークの制作では「塗り」を重ねるのではなく、イラスト=アーティスト自身が塗られている過程のようなニュアンスの表現をちょっとだけ採用している。楽曲としてはもちろんバッチリ決まった完成形なのだが、アーティスト自身はまだまだポジティブに成長している過程であるという前向きさを盛り込みたかった。

2024.05 - “LIVE Primary 03 / Edelweiss & Oncidium” yuiko 3rd one-man live

  • 5月に行われた、作詞家でありボーカリストとして活動されているyuikoさんによるワンマンライブ。2部制のライブなり、それぞれ内容もコンセプトも異なるということから、「Part.1」「Part.2」と分けてタイトルロゴを制作させていただいた。

  • タイトルであるエーデルワイスとオンシジュームは、ロゴ中にアスタリスク記号で表現。それぞれ本物の花びらを模してアイコンを作るよりは、記号的なものでシンプルに表現したかった。5人に1人くらいが「あ、これは花に見立てているのかな」と思っていただけたなら、という塩梅。

  • ロゴの細部については、実際にyuikoさんからのアイデアもいただきながら仕上げていった。自分1人で作るよりも、ご提案などをいただきながら作る過程はほんとうに楽しいし、嬉しくなった。

  • yuikoさんには、過去の自分の同人活動における制作でお世話になったことがあった(友人・恩人であるハムさんを通じて楽曲の歌唱を担当していただいたことがある)。それから時間が空いていたタイミングでも、大事な機会にこうしてご依頼いただけたことはとても光栄なことだった。本当にありがとうございます…。


2024.09-10 - “effect” 長瀬有花 LIVE TOUR 2024 (汽元象レコード / RIOT MUSIC)

  • 汽元象レコード所属のアーティスト・長瀬有花さんによる大阪・横浜で開催されたライブツアーのアートディレクション、グラフィックデザインのお仕事。根幹となるデザインの方向性の検討から、Webサイト・グッズ制作を担当させていただいた。

  • 汽元象レコードのプロデューサーである矢口和弥さん・ウエダダイシさんから、私とデザイン事務所・RICOLの伊藤ユキノブさん宛にいただいたお仕事で、この体制は2023年に開催された同じく長瀬有花さんによるライブ “エウレカ” での制作体制から続くもの。継続してまたこのチームで制作できるということはとても喜ばしいことである。

  • コンセプトは汽元象レコード側でもちろんすでに決まっており、ではそれをどう表現するか、ということが自分と伊藤さん=デザインチーム側に課せられたミッションであった。自由度が高い内容だったが、自由であるがゆえに、とても難しい内容だった。

  • 宇宙飛行士が中央に浮くキービジュアルは、数回にわたって実施された打ち合わせを経て、最終的には伊藤さんが中心となって矢口さんとお二人で調整を繰り返すことで完成。長瀬さんらしく、今までにないような素敵ビジュアルが出来上がっていく過程は凄まじかった。


  • 制作物として自分が担当したのは、Webサイトとグッズの一部。特にWebサイトは、これは別の機会で取り上げて振り返りをしたい。それくらいに濃い内容であった。

  • グッズもWebも、かなりの頻度でプロデューサーの矢口さんに相談をしながらの制作となった。話し合いの中で生まれるアイデアは本当に貴重だ。悪巧みをするような楽しさもある。

"effect" 特設サイトより引用。自分が担当したのは、「CLEAR BOTTLE」「MUFFLER TOWEL」「MULTI CASE」「NGSticker Pack "effect"」


2024.09 - “蒼炎” 松永依織 4th Anniversary Live「蒼炎」(Blitz Wing / RIOT MUSIC)

  • 松永依織さんの活動4周年記念ライブのタイトルロゴ、キービジュアルデザインのお仕事。

  • 漢字2文字のロゴ、という課題はとても苦戦した。インパクトの強さをただ目指せばもっとストレートな表現をするべきだろうが、「自分にできるものはなにか」ということを踏まえながら、4年も活動を続けるということの大変さや偉大さ、そして彼女を応援しているファンの方々の力を考え始めてしまい、ここから長い時間をかけてしまうこととなる(みんなすごい……すごすぎるよ……)

  • キービジュアル用のイラストレーションはmiya*kiさんによるもの。格好良すぎた。躍動感の中に儚さすら感じさせるたくさんの「青」、大きいサイズで出力して仕事場に飾りたい。毎回、イラストを用いて何かを作る際は感激と同時に「どうしよう」と嬉しい悲鳴を上げることとなる。それくらいに感動した。

  • 頭を捻りまくって何回転かした頃、今回は「工程のすべてをコンピュータ上だけの作業にしたくない」という考えに至った。10年ぶりくらいに筆を握る決意をする。書道セットを買った。

  • 最初は2文字まるまる半紙に書きまくっていたが、それがそのままロゴにできるかと言えば自分は字を書くのが下手くそだった。断念。パーツのみを書きまくる時間が始まる。

  • いろいろトライして、最終的には「自分で書いた文字のパーツ」と「コンピュータ上で作ったフォントのパーツ」を組み合わせることで表現するという方針に至った。きれいに整ったかたちにはしていないし、歪さが残っているが、いろんなものが混ざり合って出来上がるかたちが自分の中で尊く、しっくり来た感触があった。


2024.12 - “POWER” 紅緒 (Dontsugel)

  • 友人でありイラストレーターの紅緒氏の同人誌のデザイン。同人イベントに参加することも、オリジナル創作のものを新たに作ることもやや久々で、これまでは「やるぞ!」といきなりスタートしていたものが今回はゆっくり話し合いをするところから始まった。いま考えてみればあればリハビリのようなものだったように思う。

  • 「POWER」は紅緒氏によるオリジナルのキャラクターデザインをまとめたもので、そこに小説家である龍流先生のテキストが盛り込まれた。キャラクター紹介だけでなくセリフが入ることで、このキャラクターがどういった性格なのかということが想像しやすい、一気に解像度が上がる。そして、僕らオタクは「声が出るなら声優は●●さんかな!」と妄想を膨らませられる楽しさもある。

  • 自分はページ構成とデザインにて参加。紅緒氏のオリジナル企画『ラックガール』など、過去の制作ではテキストを書くこともあったが、今回は掲載内容それ自体に関わっていない。イラストとテキストをストレートにわかりやすく読者に伝える作業に専念させていただいた。

  • 個人的に、今回の表紙は紅緒氏の「挑戦」のように感じられた。これまでずっとデザインを任せていただいているが、今回のようにキャラクターの正面アップの構図が表紙絵として描かれることはなかったと思う。

  • タイトルロゴは手書き文字のスタイルを採用。他にもいくつか作ってみたが、「POWER(パワー)」は扱い方を間違えるとやや面白さを持ってしまう言葉のようで(日本人だけだろうか。我々は某芸人さんを思い浮かべてしまった)、表現方法にやや悩んだ。

  • 表紙絵を「挑戦」と勝手に受け取った自分は、であれば「ロゴは別にぱっと見で読めなくてもいい」と潔く判断し、彼の絵を最大限に見せる方向に舵をきった。装飾文字も謎の記号類も不要、情報は必要最低限でいい。デザインが映える本も大好きだが、「イラストレーターから生み出されるキャラクター」の本で、今回は【キャラクターデザインを見せる】内容だ、何よりも絵を伝えることが大事。そう判断した。

  • 結果、紅緒氏からは褒めてもらえたし、自分もめちゃめちゃいい本になっていると思う。ずっと「読み終わるまで時間をかけたくなるもの」を目指していろんなものを作ってきた、そんなスタイルが好きな自分たちにとって今回はより満足度のいく本になったように思う。

★コミックマーケット105にて頒布した『POWER』は、現在メロンブックスさまにて委託販売されているようです(宣伝です)。
https://www.melonbooks.co.jp/detail/detail.php?product_id=2695360


おわりに

  • 日頃、SNSでは「お仕事をさせていただきました」「担当させていただきました」以上の発信をあまりしていない。「いまは長文投稿もできる」とかそういう話ではない。長々と語ったりすることを苦手であり、意図的に避けている。語り部を担うのは携わらせていただいた作品や商品や人の方である。自分ではない。

  • しかし今の時代はSNSをはじめとして自ら発信することも頑張らないとなあという思うことがある。noteには、過去のお仕事について触れる内容も数件あるのはその思いがあったからだ。

  • インターネット上で発言をしないと生きているかわからないと言われるこの時代、何も言わなければ存在を忘れられてしまうし、自分の仕事について熱心に語るアカウントと比べられれば自分は仕事について「語っていない=何も考えていない」とさえ受け取られるのではと恐怖した。

  • 誰かのもとに飛び込んで営業行為をすることがやや苦手で口下手な自分にとって、むしろSNS・インターネットの方が主戦場である。

  • note記事にまでアクセスしてくれる方に向けて「このときはこんなことを考えて制作しておりました」と綴る行為は、むしろやっていくべきと考えた。

  • 1年に1回くらい、仕事を話を能動的に語ってみてもいいだろう。来年もこういったことができるように、来る新年も日々邁進することを誓う。

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