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銀行員のノルマと忖度

 ぼくらは、本当に使い捨ての兵隊だった・・・・。
 
 鹿児島支店から転勤した福岡支店の上司の佐野支店長は、大蔵省等役所担当経験者で周りからもエリートの評価で私もとても気軽に話せない雰囲気はあった。まるで役員のように末端の担当には決して数字を押し付けることは無かったが、その支店長はいつも、「いい大人なんだから、大人の対応をしてください。」とだけ。

 ただ、私はなぜか気に入られており、「数字をあげればいいということではないんだよ。役人は頭が良くて、必ずいわなくてもわかるでしょ。大人の対応をお願いします。といわれてましたよ。」と教えてくれたこともあった。実際に、この支店長は同期トップで役員になった。今だと役人のする忖度だとわかるが、この当時はまったくわからなくて私は、初めて何か違うものを感じた・・・。

 すごく業績(数字を伸ばした)をあげた前の支店長は、役員にはなれなかったが、業績をあげてるわけではないが当然のように役員になれる人もいる。

 銀行では、本店信仰や役員信仰は強い。まさに、本部や役員は神様で、本部から視察や指導や監査に来ると支店では日頃の業務が停まって、これに対応するほどだ。ばからしいともおもえるが、本当のこと。では、役員にはどうしたらなれるのか。

 目に見えない何かで上にあがっているように思えた。実際は、力のある役員からスカウトがあると聞いた。

 支店長と、役員は天と地ほどの差があるように見え、役員は神様で、支店長は兵隊の長というより鬼軍曹。たまに、役員が現場で、末端の担当者を励ましたりすると、担当はとたんに舞い上がって士気が上がる。本部の中堅の幹部は、「役員はたまに現場に来て担当をほめたりするのは大切な仕事なんだよ」といっていたが、なんとなく、旧日本軍の参謀本部と現場の兵隊のイメージがうかんだ・・・・。

 また、本部経験のある職員と違い、現場の離職率は高く、二割程度はあるとのことで、減るとまた採用すればいい。本部はそう考えているみたいで、一向に現場のノルマを減らすことにはならなかった・・・・。

 私も、入社4年後には同期から1年遅れで融資の担当者となった。するとノルマというものがとたんに大きくのしかかってくる。ノルマは結構きつい。学生時代のリクルーターに聴いてたときとはぜんぜん違った。「当時は、毎月数字に追われるけど、やりがいあるし、給与やボーナスは高いよ」という話であったが、いざその場になるとバブルの崩壊後でボーナスは下がる一方ノルマは増えるということで、ぜんぜん違っていた。

 どんなノルマかというと例えば、定期預金月5千万円獲得、融資月1億円増加等から、中には生命保険や投資信託の販売やクレジットカードやリースのセールス、デリバティブ他様々なものがあった。すべては、融資の残高と、収益の獲得が目的であり、その時期その時期の流行で商品は変わるのだった。

 さらにどういう風にノルマを管理するかというと、預金を達成するために4月の最初に支店全体でキャンペーンをする。但し、キャンペーンとは言っても内部のキャンペーンで特にお客さんにプレミアムがあるわけでもなく、ようは達成のための強化月間なだけだ。そして、次長等が目標と実績を毎日確認し、獲得が予定通りでないと呼び出され、理由と達成が可能かを延々と説明されるのだ。担当としては、精神的にも肉体的にもつらい・・・。

 お客さんに、「社長、今月どうしても数字があるのでなんとかお願いします。」はまだいいほうで、融資の見返にお願いは、5000万円融資するので、そのうち1000万は預金でお願いします。など、法的な問題ある行為も「融資は当月で、預金は1ヵ月後でいいです。」等違反を指南するようなこともよくあった。 

 融資のノルマは更にきつい。貸したい取引先はなかなか借りてくれないが、借りたい先は財務内容が悪く、融資が返ってこないとさらにマイナスの評価になるだけだ。伸ばすためには、内容のいい先にたくさん貸すのがいい。その為に、6ヵ月後に必要なら今借りてくれ等のセールスはまだいいほうで、今月貸すから、半年たったら返してもいいです。など意味の無いことや、財務内容をよく見せる偽装等もあり、大問題にも発展することが多くあった。(これについては、また別途詳細に述べたい。)

 実際には、取引先の社長に融資のバーター(融資する代わりに何かを見返りにする条件取引)とするなどは当たり前だったと思う。

 われわれの銀行は問題にはならなかったが他の有名な銀行では、ローン組ませてゴルフ会員権を買わせるがバブル崩壊で会員権の相場の下落で大きな損失を与え借金だけ残ることになったり、変額保険の販売で説明不十分で理解していないまま契約後為替や景気の変動の影響で大きな損失が出たり、現実の必要額以上に無理やり契約したデリバティブ取引が為替や商品市況の変化で損失が会社の経営を揺るがすことになる等、現在に至るまで一向になくならない。

 なぜだろう。銀行員は、外部から見た感じはエリートで頭がよいと思われているが、実は末端は完全に体育会系で、ノルマのために何でも動く兵隊のようだ。

 最先端のデリバティブもノルマとして、末端の銀行員が取引先の中小企業に売りまくる。但し、セールスする銀行員もよく理解できていないし、取引先はもっと理解できない中、やむなく契約させられるのだ。銀行としては、デリバティブをセールスする証券外務員の資格を取れというが、根本的な理解まではフォローしていない。

 まったく大きなものが見えないものの中で、ある一点のみの目的を遂行するだけに動く(まさに木を見て森を見ず)のは、軍隊のようであり、われわれはまさに兵隊だった。

 そして、ノルマ達成の為毎日会議と称した、いじめ(私は、上司とは部下の能力を見抜きできるものか判断して目標を与えるものとしてやってきたが、まったく逆が実際の現場であった)があり耐えられない兵隊は辞めていくのだ。

 厳しい支店は二割の新人が毎年やめて5年後に全員いなくなるケースもあった。だからそれ以上に毎年新人が入ってきていた。組織として、ギリギリの状態が続いていたと思う。

 「ノルマが、すべて銀行を狂わしている。」私は、そう感じた・・・。

 デリバティブにしても、保険や投資信託の販売でも、そして融資についても常に
なぜするのかを理解できていないままさせられていた。顧客ファーストではなく、かといって銀行ファーストかというとそれだけでなく、お上(経営陣)ファーストが実際だった。銀行をお上(経営陣)が閉鎖的な組織にして、いいように動かしていたのだと思う。

 末端の担当者は兵隊であるから、兵隊を早く抜け出してお上になりたいから、まずノルマをこなす。数字をあげると役員の目に留まり出世する可能性が出てくる。意外と銀行員は給与よりも出世を目指す人が多かったのは、このためかもと思っている。

 東西産業銀行でも大きなノルマは、半年毎に本部から支店にノルマが割り当てられる。本部が決め、それを支店長が各担当者に担当割するよう命令し、組織は動いていく。その中で、私が鹿児島支店で上司であった岩崎支店長は、私が「支店長、この割り当ては達成はかなり難しいです。」と会議で発言した時、岩崎支店長は「これは割り当てではありません、あくまで計画で本部はしろと命令しているのではない。計画として自主的にやりましょう」と言ったのだ。

 お上(本部的)としては、「やれと言っていない、ノルマ達成のためにやっているのはあくまで現場だ。上は知らない」ということだ。

 所謂忖度が私がいた銀行も20年以上前から根付いていたのだ。

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