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おいしい においは あったかい

うわっ! たいへん! 間に合わない!


現在朝の7:35
私は慌てて玄関を出る
今日はそのまま仕事にいかないといけないから、車で行かないと!
急いで家の鍵をかけ、車に向かう

しまった!
車のフロントガラスをみると、凍ってしまっている
あー!時間がないのにー!
車のエンジンをかけ、温めている間に
庭にたまたまあったビニール袋へ水を入れ、運転席側のフロントガラスに急いでかける
ま、このくらいでいいか
時間がないし…と心のなかで思いながら
運転席に乗り込む
やっぱり今日は寒いんだ
ワイパーで水を払うと、フロントガラスの脇に溜まった水がまたみるみると凍っている

冬の旗当番はやっぱり憂鬱だ


旗当番を みなさんはご存知だろうか
小学生の登校時間に、交通量の多い横断歩道で安全を見守る活動のことだ
現在私の住んでいる地域では、地区ごとに1から2カ所担当を割り振られている
立哨当番りっしょうとうばんともいう

地域によっては、当番がないところ
年に数回のところなどあるようだが
私の住んでいる地域では、毎日地区の誰かが必ず当番になる
この共働き時代になんとも大変な作業だが
他ならぬわが子たちの安全には代えられない
よって本日も慌てて現地に向かっているのだ

目的地は小学校にほど近い、交差点
小学校に近ければ近いほど、通る児童の数は多く、
当番の開始時間は遅くなり、そして長くなる
みんな班ごとにまとまって来てくれればいいけれど、そういうわけにもいかない
もう終わりかな?と思ってみると
遅刻組の子が一人で遠くからのんびり歩いてくるのが見えたりする
自分の子どもなら
「遅刻するよ!!!!走ってきな!!!」くらいのことを言うかもしれないが、そこは他所よその子
「間に合いそう?」くらいでとどめておく

ほんの20分たらずの朝の活動なのだが、
その後に待ち構えている仕事の時間が気になり
ヤキモキしてしまう
しかも、冬の朝は寒い!
吐く息は白く、
20分近くほぼ動かずに吹きっさらしの中を立っているのは、なかなかツライ

そして小学校へ到着
別の横断歩道を担当する当番さんが先に来ていたため慌てて車を降り、今度は小走りで目的地まで移動する
他の当番さんにあいさつをしながらようやく定位置についた
よかった 間に合った。とひと安心したが…

しまった!車に手袋忘れた!
車に取りに行こうかな…
と考えている間に、1番最初の登校班が角を曲がってやって来てしまった

…仕方ない我慢しよう
これから20分だし多少寒いのは仕方ないか

子どもたちに朝の挨拶をしながら横断歩道の信号を見て誘導する
赤・青・赤・青
静かに信号を待っている子
可愛い声で挨拶をしてくれる子
顔見知りの子は少しはにかんだ顔で小さく手をふってくれる
みんなかわいい

「ん?」
しばらくして気がついた
なんかいいにおいがする
おそらく横断歩道のすぐ角の家が発生源と思われる
これは卵焼きの匂いじゃないかな?
ふんわりとした、香ばしいにおい
子どもたちは気がついていないのか、おしゃべりをしている

そうして、卵焼きのおいしいにおいにつつまれながら、旗振りをした。
朝ごはんを食べては来たけど、今日はトースターしか使ってなかったなぁ
匂いにつられて、フライパンのジュージューした音や換気扇の音、おまけに湯気をたてたお味噌汁とご飯、あたたかい朝食の風景まで思い浮かんできた

ところで、発生源と思われる家の玄関先の高い所には、大きな時計がかけてある
ちょうど横断歩道で待っている時に、時計が見える位置になっていた
旗当番は今年で7年目だが、時計はいつもきれいにしてあり、時間も正確に刻んでいる
もしかしたら、朝登校する子どもたちが時間を確認できるよう、その場所にかけてくれているのではないかと、以前から ひそかに分析していたのだ。

時をしらせる時計に、たまたまかもしれないが、登校時間に合わせたようにただよう卵焼きのおいしい匂い
まるで、「いってらっしゃい、今日もがんばってね」と送り出してくれているようだ

考えすぎかな
でも、おいしそうなにおいには、そんな優しさとあたたかさを感じる


そう思ったら、ふんわりと胃のあたりも温かくなり、口元もなんとなくゆるむ


あぁ…いいにおいだな
改めてそう思う

おいしいにおいに包まれて、朝の寒さもこころなしか和らいできた気がする

そんなことを考えている間に、気づけば最後の登校班が通過
卵焼きの匂いももうだいぶ薄くなっていた
終わったんだ

車に乗り込み仕事に向かう
よし、今日もがんばろう



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くいたろう
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