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フアンくん と シナキャちゃん と かけないさん

さて、noteでも書こうかな

そう思ってPCに向かうと、必ずやってくる彼らの話をしようと思う。

まだ真っ白な下書きページに向かってあれこれと考えていると、
「ねえ」
小さな声が遠慮がちに私へ話しかけてくる。
隣をみると、いつの間にか6歳くらいの小さな男の子がとなりにちょこんと座っていた。
彼の名は『フアン不安』くんだ。

おとなしそうな、小さな声で
「おばさん、なにかをかいているの?」
「それっておもしろいのかな?」
「だれも よんでくれないかもしれないよ」
遠慮がちに、でも、心配事を次々と口にせずにはいられないらしい。

「そうかもしれないね」
答える私も少し不安になってくる

「もうちょっと じょうずになってからのほうが いいんじゃないの?」
「こんなことかいて だれかおこらないの?」
不安げな眼差しに、私の手も止まってしまう。
…うーん。どうしよう。

「駄目かな」
フアンくんに言っても仕方のないことなんだけど、段々自信がなくなってくる。
「…わかんない。でも、ふあんなんだもの」
ポツリとフアンくんは呟いた。

そのとき
「あー!」
ものすごい大声とともに、遠くから一人の女の子がかけてくる

「またフアンくん ぐちぐち言ってるー!」
バタバタと足音を鳴らしてやってきたのは、『シナキャしなきゃ』ちゃん。
いつもせっかちで、大きな声の女の子だ。

やってくるなり、私のPCを覗き込む。
「もー!おばさん全然書けてないじゃん!フアンくんのせいだよ!」
「…だって。ふあんなんだもの」
シナキャちゃんに責められて、フアンくんの声も体も一段と小さくなる。

「おばさんはさ、ただでさえ書けないんだから、邪魔しちゃ駄目じゃん!
あと、おばさんもさ、いちいちフアンくんに付き合わないでよ!」
フアンくんに言うだけでは足りなかったのか、私を振り返り、腰に手をあててまくしたててくる。

「シナキャちゃん。ごめんね。でもね…」
「もうすぐ6時30分だからおばさんはもう、洗濯しなきゃだよ!あと、朝ご飯の準備だってしなきゃなんだよ!わかってる?今日は仕事にいかなきゃいけないんだからね!」
ごもっともです。

勢いのついたシナキャちゃんは、止まらない。
「しなきゃいけないこと、たーくさんあるんだからね!もう時間ないから書けないよ!あとさ、いちいち考えてたら駄目なんだよ!いっぱい時間かけたって、どうせ書けないんだから!」

ああ、そんなに何度も『書けない』と言ったら、あの人が来てしまう…


「私をお呼びですかな」
真後ろから低い落ち着いた声が聞こえて、私は飛び上がった。

ほら、あんなに書けない書けない言うからやっぱり来てしまったではないか。
振り返ると、白髪の老人がニコニコした顔で立っている。

「『かけない書けない』さん。おはようございます」
私は少し緊張して挨拶をする。

おや、おはようございます。とかけないさんも返事をして。
「朝から随分にぎやかですね。あんまり私の名前を呼ぶ声が聞こえたので、散歩を中断して来てしまいましたよ」
ニコニコした表情のまま、かけないさんは草履を鳴らして近づいてくる。

私の肩越しにひょいとPCを一瞥し
「あぁ、noteですか。貴女も好きですね」
ええ、まぁ。とぎこちなく返事を返す。
あまりじっくり読まないでほしい。

「おや、これはどうしたのかね。」
ここ、とPCの画面を指で軽く叩いてかけないさんは言う。
「話がうまくまとまっていないようですね。何を一体書こうとされているのか、よろしければ伺いましょう」
いつの間にかいなくなったファンくんの場所に、かけないさんが腰を下ろす。

あー。とか、えーとか私は困った顔で返事をする。
それを見たかけないさんは、ため息をついて、
「…またわからないのですか。貴女はもう少し本を読んだりしたほうが、良いのではないかと思いますよ」
おっしゃるとおりです。私は正座に座りなおして俯き、小さく返事をする。

かけないさんはPCをひょいひょいと操作して、なおも続ける。
「それから、今まで書いた物も少し見直しをしたらいかがですか。ちょっと分かりにくい箇所があると私は思いますよ」
はい。と更に私は肩をすくめて小さくなる。

「そもそも…」
かけないさんが言葉を続けようとすると、
「ね、かけないさん。もうおばさん時間ないから、終わりにしていい?」
シナキャちゃんが話に割り込んでくる。
「どうせ書けないから大丈夫だよ」
大きな声で、はっきりと言う。

かけないさんは少し目を見開いて、驚いたような顔をした。
「おや、書けないのですか」
「うん、書けない書けない。全然ダメ」
シナキャちゃんたら、ひどい言いようである。
かけないさんは顎のひげをそうっとさすって、
「では、今日はもう『書けない』ということでよろしいのですかな」
私にわかってるくせに聞いてくる。

「…はい。書けません」
よろしい。と返事をして、去っていくかけないさん。
私はがっくりと肩を落として、ついでにPCの電源も落とした。

今日も、書けなかったか…


京(kyo)さん。勝手にテーマをお借りしてしまいました。すみません。

私がフォローしている、京(kyo)さんの記事に出てきた「不安」と「しなきゃ」。
キャラクターみたいっていう文を見たら、湧いてきた私の中の『フアンくん』と『シナキャちゃん』と『かけないさん』を、ぜひ紹介したくなって書いてみました。

いつも私は3人に惨敗です。
無念。

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くいたろう
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