アン・ビョンジクの転向 大高未貴報道を告発

「私は、もともと『慰安婦』の証言について“慎重派”の立場を取ってきました。ですが、昨年に日本軍慰安所の管理人の日記を発見してからは、これまで語られてきた『慰安婦』の実態について確たる証拠をつかんだとの思いに至りました。


『文春』、大高未貴氏による“でっちあげ”報道を韓国人教授が告発──安教授の当惑「みなさんとても悪い人ですね」
2014年9月25日7:41PM 週刊金曜日

1990年代に行なわれた「慰安婦」の聞き取り調査について、韓国人教授が誤りを認めたとの記事が今年4月、『週刊文春』に掲載された。だが教授は「事実を歪曲された」としている。

問題となっているのは、『週刊文春』4月10日号に掲載された大高未貴氏執筆の記事。「現地直撃5時間 慰安婦『調査担当』韓国人教授が全面自供!」との見出しで、4ページにわたり掲載された。

この記事の要は、ソウル大学名誉教授の安秉直氏(78歳)による証言だ。安氏は、90年代初めに韓国で行なわれた日本軍「慰安婦」たちへの聞き取り調査に参加した中心人物の一人。調査は韓国の挺身隊研究会が主体となった。調査結果は『証言 強制連行された朝鮮人軍慰安婦たち』(明石書店、93年11月)にまとめられている。記事では、同書が元日本軍「慰安婦」たちの被害について世界各国でロビー活動をする「反日活動家」たちの“バイブル”になっているとし、「こじれにこじれた慰安婦問題の“原点”」と位置づけている。

記事の中で、安氏は「慰安婦」の証言について「今思えば、本当に事実かどうか自信がありません」「当時の調査方法は、反省してみますと、全然ダメです」と語っており、安氏が「実質的な“調査失敗”を認めた」と記事では解釈されている。また安氏の発言を引き合いに、記事では元軍「慰安婦」の証言に基づく河野談話は根拠が薄弱だとの主張が展開されている。

さらに、「強制連行」について、「性奴隷、奴隷制度といった言葉は、手錠、足枷をかけて強制連行したようなイメージが浮かびますが、それはありえません」などの発言や、韓国の“活動家”が自身の運動に、「慰安婦たちを利用している側面があるかもしれません」との安氏の見解も掲載された。

寝耳に水の『文春』記事

『文春』記事をめぐる事件の流れ 調査当事者が、これを否定する発言をしたとのセンセーショナルな記事は、関係者の話題を集めた。

だが、安氏は「そもそもこういう趣旨の発言をしていない」と事実関係を否定。「証言の聞き取りは相手の恥ずかしい部分を聞き出すことで、大変だし時間もかかる。そうした面での調査の苦労話や問題点を語っただけで、『実質的な“調査失敗”』を認めただなんてまったくの捏造です」としている。

安氏は取材時、「性奴隷という表現についてどう考えるか」との質問に対し、「奴隷にも限定された範囲内での自由はあるのだが、自由に『慰安婦』をやめることができなかった点で性奴隷だ」という趣旨の回答をしたという。しかし記事では、安氏が「慰安婦」の強制連行を否定する意味合いで、奴隷制を語ったとされている。

運動団体が「慰安婦」を利用しているとの発言については、「そういう発言は確かにしましたが、記事では、運動体がもっぱら『慰安婦』を利用しているかのように拡大解釈をしています。私の発言の文脈を無視している」とした。

安氏によると、記事の元となる取材が行なわれたのは今年1月16日。安氏はソウル郊外の喫茶店で、大高氏と同行の日本人男性O氏、現地コーディネーターの韓国人男性S氏の3人と会った。

その後、4月10日号の発売日である4月3日が過ぎてから、大高氏が掲載を知らせる短いメールを送ってきたと安氏は記憶しているというが、怒りでメールを削除したため正確な日時はわからないという。さらに、知人からの指摘で記事の内容を知り、「驚きと怒りで頭が真っ白になった」と話す。

安氏はこうも抗議する。

「私は、もともと『慰安婦』の証言について“慎重派”の立場を取ってきました。ですが、昨年に日本軍慰安所の管理人の日記を発見してからは、これまで語られてきた『慰安婦』の実態について確たる証拠をつかんだとの思いに至りました。そのため昨年からは、日本のとくに右派メディアからの取材には慎重に対応するようにしていました。私の発言を都合良く切り貼りし報道してしまうためです。

ですが1月の取材は、『文春』という媒体名を出さずに個人名で、取材目的もぼかして面会要請があったため、『報道しないことを前提』に、S氏を介してメールで二度も念を押してから会ったのです」

安氏は現在、大高氏らと『文春』を詐欺および名誉毀損で司法当局に告訴することも検討している。

「結論」ありきの取材

安氏への取材をめぐっては、「結論」ありきの姿勢が見て取れる。

安氏によると、安氏との面会を希望する日本人がいると昨年末にS氏から複数回電話がきたため、目的を知らせるよう要請したという。すると、「慰安婦問題を長年取材して」いると言う「鈴木美貴」と名乗る女性からメールがきた。この女性が大高氏で、『産経新聞』などで執筆するジャーナリストだ。保守系ネット放送「チャンネル桜」のキャスターもつとめている。

安氏によると、大高氏は面会時にも「鈴木美貴」との名刺を渡した。さらに面会目的は、「慰安婦」に関する本を書くための取材であるとし、『文春』に掲載するとは一言もいわなかった(4月に出版された大高氏の著書には、安氏の発言や写真が無断で使われている)。また同行者O氏は、安氏に断りなくビデオを回し始めたともいう。

安氏が反駁文を日本の知人らに送り、大高氏や『文春』に抗議を始めると、大高氏はビデオ映像の一部を「チャンネル桜」で公開。反駁文は、それをツイッターで流した山下英愛氏(文教大学教授)が捏造した、との主張を展開した。

これらの内容に関し大高氏とO氏はビデオ映像を根拠に「安教授ご本人が私の発言は発言として何を書いても良いと自ら発言している」などとし、問題はないと説明。ただS氏は、「(安氏は)会う前も、後も“報道しない前提”と言ったのが正しいと記憶しています」と回答した。安氏は「O氏から送られてきたビデオ映像をみても、私が彼らに報道を許可する発言をした部分はない」としている。本誌編集部も映像を確認したが、報道許可と受け取れる発言はなかった。

こうした件に関して『文春』は「記事の作成過程については従来よりお答えしておりません」としている。安氏は、大高氏側と『文春』に動画の配信停止や記事に対する反論の掲載を求めたが、要求はいまだに拒否されたままである。安氏はこうつぶやいた。「みなさんとても悪い人ですね」――。

(渡部 睦美・編集部、9月12日号)


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