「主戦場」監督 取材は通訳を介して
櫻井よしこさんら保守論客が「被害」 日系米国人のトンデモ慰安婦映画
映画週刊新潮 2019年6月6日号
慰安婦論争を多角的に検証した、というふれこみの映画「主戦場」。櫻井よしこさんをはじめ保守派の論客が大挙出演してびっくり、と思えば、みな日系アメリカ人監督に「騙し討ちに遭った」と怒り心頭で。
映画の公式サイトには、
〈ひっくり返るのは歴史かそれともあなたの常識か〉
という見出しの脇に、
〈イデオロギー的にも対立する主張の数々を小気味よく反証させ合いながら、精緻かつスタイリッシュに一本のドキュメンタリーに凝縮していく。そうして完成したのが、映画監督ミキ・デザキのこの驚くべきデビュー作、「主戦場」だ〉
等々書かれている。性奴隷としての慰安婦が存在したのかどうか、肯定派と否定派双方の主張を並べ、観る人に考えさせるなら問題はあるまい。ところが、
「“ひどい”の一言で、取材の客観性も中立性も保てていません」
と出演者の一人、ケント・ギルバート氏は憤る。
「デザキからアプローチがあったのは2年ほど前、上智大大学院の修了プロジェクトとして慰安婦問題を取り上げたく、バランスのとれた取材をしたいというので、快く応じました。撮影場所の上智大に行くと、かなり大がかりな機材が用意され、私が“慰安婦の証言に整合性がない”と言うと、“ないですよね”と同調するので、保守的な人かと思いました。その後、去年秋に突然“釜山国際映画祭で公開します”との連絡がありました。一般公開も寝耳に水でしたが、試写会に行って唖然としました」
その理由は、
「映画の冒頭から私たちを歴史修正主義者と呼んで糾弾。しかも、私たちが言い淀んだりした部分だけをピックアップし、相手側陣営に一方的に論破させるという、極めて卑怯なやり方でした。私は親切心で取材を受け、だから出演料ももらわなかったのに、私たちをあざ笑って金儲けをしようだなんて、どんな神経か」
そして悔いがもう一つ。
「櫻井よしこさんにデザキを紹介してしまったのは私で、映画に使われた彼女の談話はわずかなのに、チラシや予告編で大々的に取り上げられてしまった」
テキサス親父日本事務局の藤木俊一氏も、
「大学院修了プロジェクトで、私とテキサス親父ことトニー・マラーノにインタビューしたいと言われました。デザキさんが以前、ネットで炎上騒ぎを起こしたことも知っていたので、疑ってかかりましたが、“大学で勉強し、慰安婦証言があやふやで信用できないことも知った”と言うので、大学院の研究だし、と思って受けたのです」
しかも、藤木氏らは事前に合意書も交わしていた。
「公開前に見せ、意図と違う使い方をされたらフィルムの最後に、私が映画に不服である旨を記すことになっていた。ところが、公開するが事前に見せられない、という旨を、メールで一方的に知らされたのです。法的措置も検討したい」
なでしこアクションの山本優美子代表も、ほぼ同様の被害に遭い、
「大学院生からお金はとれません。学究に資するものと信じて取材に応じたのに、まさかこんな形で裏切られるとは、同じ上智の卒業生として悲しい」
と当惑。元拓殖大学教授の藤岡信勝氏も、藤木氏と同じ内容の合意書を反故にされ、おかんむりだ。
「この映画は私たちの議論のあと、向こう側の議論が延々と続き、私たちに再反論の機会が与えられていません。ディベートではなく、言葉によるリンチです」
映画はこれから6月、7月と、全国で公開されていく。記者が観たときは終了後も観客が残り、日本の右派の“不勉強”や“差別的姿勢”について、声高に非難を浴びせていた。
配給会社の東風に監督への取材を申し込むと、スケジュールが合わないうえ、
「英語話者なので、日本語での取材は受けかねる」
と答えたが、藤岡氏は、
「私へのインタビューでは、デザキさんは完全なイントネーションの日本語を話し、私は日系アメリカ人だと知らなかったほどです」
再度、東風に確認すると、
「日本語で複雑な議論は難しく、丁寧に回答したいという本人の希望もあり、取材は通訳を介しています」
ともあれこの映画の周りでは、常識がとことんひっくり返っているらしい。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?