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31歳独身男、ホストクラブのお兄さんになる②
前回のお話
↓《31歳独身男、ホストクラブのお兄さんになる①》↓
https://note.com/911218_taka/n/nd76b2a09d614
いざ体験入店、、、!?
紹介されたホストクラブの偉い人、面接官の方曰く、人間的にもものすごくしっかりしていて、とても信頼のおける人物。ホストクラブに対して偏った見識しかなかった井上は、正直驚く。
「いや、そうは言っても、ゴリゴリでギラついていて、理不尽に怒鳴ったり、時には鉄拳制裁とかあるんでしょ、、、?」
と正直思った。だって僕が今までテレビで見てきたホストの世界は、酒、金、暴力だったから。面接していただいた方に取り次いでもらい、ホストクラブの人事担当の方と繋がる。数回メッセージをやりとりする、明るく簡潔でフレンドリーな文体。思ったより怖くない。
そうして、いざ体験入店当日。
井上はその日ダンス公演のリハーサルがあったので、体入の時間は遅めの時間の21:30からに設定してもらった。
正直な話、完全未経験の僕はあまりの緊張と話の急展開に頭が追いついておらず、体入が決まってからの数日はほとんど何も手がつかなかった。やらなきゃいけないことも考えなきゃいけないことも、ほとんどが頭の中を通り過ぎて、札幌の冬の始まりを告げる肌を刺す冷たい風に溶けて消えてゆく。
16時
ダンスのリハーサルが始まる。アップの最中、
「BARの面接に行ったらホストクラブの体入することになったよ」
でみんなの1びっくりゲット。「リハが終わったら体入だけど、リハが19時で終わるから、リハが終わらなければ19時にならないから、今日はリハが終わらないことを期待する。」という謎理論を展開する。
17時半ごろ
リハに集中してはいるものの、どこかでソワソワして、今までしたことのない場所で振り付けをミスるなどする。
18時50分ごろ
なぜかリハが終わる。キリのいいところまできたので今日はおしまいだそうだ。
どうして?
どうしてなの?
終わったら、俺、体入だよ?見捨てないで???
面接時にちゃんとおだてられて、自ら体入行ってきますと宣言した男の気持ちとは到底思えないフレーズばかり頭に浮かんでくる。
なぜ時は止まらないのか。神は私を見捨てたか。
井上は怖かったのだ。
「何から何までできねえやつめ」「ポンコツめ」「ホスト舐めんなおっさん!!」
想像の中のホストたちが、私の頭の中で罵詈雑言を浴びせてくる。自分で勝手にプライドをへし折っていた。
しかし、井上はもういい大人である、知っているのだ、その時は確実にやってくるということを。いくら喚いたところで、結果は変わらない。私は体入に行く。「バックれれば何も怖いことはないぞ」という悪魔の囁きも、いい大人になった井上の心には響かない。むしろ「こんなことで尻尾巻いて逃げるなんてムカつくから、やるだけやるぞぉ!」と、心の中で呟き、体入までの約2時間を、徘徊したりタバコ吸ったり麻雀アプリしたりでひたすら無駄に過ごした。決意したもの自分を落ち着かせることで精一杯だった。
緊張も相待って、少し寒くなってきた。試される大地とよく呼ばれるが、冬の入口のすすきのはまるで、
「お前にこの冬を超えることができるか?」
と訴えかけてくるようだ。段々と体温が下がってくる。体入のその時も、刻一刻と迫ってくる。手が悴んで上手くスマホを操作できなくなってきた。
そしていよいよ体入まで15分。
「ええいままよ!」
と言わんばかりに無理矢理にも自分を奮い立たせ、井上は北の歓楽街すすきのの、その中心へと吸い込まれていった。
イケメンの園
ホストクラブのあるビルまでたどり着いた。実はそのビル自体は馴染みのあるビルだ。これまで何度も訪れている。しかしホストクラブがある階はいつも素通りするのだ。通るたびにウェイウェイヤー!の雄の雄叫びが聞こえてくる。いつも、おっかねえぇぇぇぇと思っていた。だけど今日は、その、雄叫び部屋に、単身、突撃、しなければ、ならないッ、、、!!!
エレベーターで上るほんの少しの時間が恐ろしく長く感じた。きっと走馬灯もこんな感じなんだろう。汗や油や埃の匂いの入り混じった変な匂いのするエレベーターの中の束の間の孤独が、井上を落ち着かせ、開き直らせ、奮い立たせた。
「吉幾三!!!」
と心の中で呟き、エレベーターを降りる。
するとそこには、
イケメンたち!!!!!!!!!
イケメンや!!!!!!!!
イケメンやーーーーー====ーーーー!!!!!!!
かっこいい、かわいい、そして何より優しい!!!!!!!
井上はちょろい、好きになりそうだった(〃ω〃)
「あのー体入なんですけど、、、」
「ああ、ちょっと待っててくださいね😉」
まじで柔らかくて優しくてイケメンで何より可愛い男の子に対応してもらった。お金払おうかなと思った。体入に来たのに。
やや待って、面接担当の方がやってきた。これまたイケメンがやってきた。まじなんか、イイ。引き連れられて、店奥まで通される。その距離わずか15mほどだが、ひしめくイケメンたち。
「こりゃわしがメスなら通うわ」
と思った。思っていたけばけばしさはなく、落ち着いたバーのような、洒落た純喫茶のような雰囲気の素敵空間だった。そうしてVIPルームにてしばし待機をし、面接に当たっての要綱などに目を通して待っていた。
ん???
面接???
あ、でも体入でも一応するのかなそういうことは???
うっすら頭の中にクエスチョンマークが浮かびながらも、目を通して必要事項を記入して待っていた。
出されたドリンクをちびちび飲み緊張をほぐしつつも、しかしやはり、不安があった。キャストの人たちはこんなふうに優しいけどやっぱりそれは営業スマイルであって、面接は、、、面接を担当する人は、圧倒的破壊的圧迫面接を仕掛けてきてふるいにかけてくるんじゃないか。
平然を装いつつも、内心は戦々恐々。どんなことが起こっても、命だけは取られないようにしなければと、悟られない程度の殺気を身に纏いながらその時を待っていた。
③へ続く。