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ボカロ通史⑥ ニコニコを襲った未曾有の大事件【リアルタイム更新中】

ボカロからニコニコが消えた世界

2024年6月8日、ボカロ界最大のプラットフォームでもあるニコニコをサイバー攻撃が襲った。
このサイバー攻撃ではニコニコ動画のみならず、KADOKAWAが提供するその他のサービスまでもが被害を受けた。
そんな状況下のボカロ界であるが、ボカコレの開催中止やストリーミングアプリ「ボカコレ」のサービス停止などといった措置が取られ大打撃を受けた。
ニコニコがサイバー攻撃から復旧するまでの一時的な措置として、最低限の機能を備えた「ニコニコ(Re:仮)」のサービスが開始された。このサービスでは、各年代の人気動画中心のラインナップを定期的に更新する形態で行われた。そのような流れで黎明期のボカロ曲に再び注目が集まるなど、過去作品のリバイバル現象も起こった。
そして同年8月5日、晴れてニコニコは正式に復旧しサービスを再開した。これに伴いニコニコでは「ぼかえり」と称した1ヶ月間に渡る長期的な投稿祭を開催してシーンの復活を後押しした。
この間ボカロP達はYouTubeに活動の場を移したり、各種SNSのショート動画に注力する者が現れるなど、さまざまな活動形態の模索を余儀なくされた。
このサイバー攻撃で、ボカロ界におけるニコニコの存在感の大きさを改めて知らしめる結果となった。

重音テトの逆襲

上述のサイバー攻撃もあってか2024年前半のボカロシーンは動きに乏しかったが、楽曲やMVにおいてはこれまでとはさらに形を変えた作品がヒットを記録した。
聴覚や視覚に訴えかけるような、所謂「情報量の多い音楽」がシーンを席巻するようになる。2023年にDECO*27氏が「ラビットホール」でその先鞭をつけた後、翌年投稿されたサツキ氏の「メズマライザー」でその音楽性は決定的なものとなった。
リリースカットピアノなどの使用で一躍ブームになった2020〜2021年の音楽性とは微妙に異なるそのスタイルは、ボカロシーンにおけるダンスポップ復権を決定的なものにした。
また、この時期のボカロシーンにおいて強大な存在感を示したのが「重音テト」だ。
重音テト自体は2008年のエイプリルフールに当時の2chにて創作された「架空のキャラクター」が当時サービスを開始したUTAUによって合成音声化されたもので、キャラクターとしては古参にあたるものなのだが、初音ミクはもとよりその他のピアプロキャラクターズやGUMIなどに押され、知名度こそあるもののライブラリとしては比較的マイナーな存在として扱われていた。
そんな重音テトに転機が訪れたのは2022年、Synthesiser Vのライブラリ「重音テトSV」として発売されたことで一気に利用人口が増加。
CeVIO AIに始まったAIを利用した合成音声の一角であるSynthesiser Vでの重音テトは、それまでとは異なり一躍ボカロシーンの中心的存在となった。既存のUTAU版重音テトも広く利用されるようになり、UTAU版でヒット曲を出すボカロPや、重音テトSVと併用するボカロPまで現れている。
まさに「重音テトの逆襲」である。
重音テトSVが利用された楽曲でヒットを記録したのは前述の「メズマライザー」、そしてマサラダ氏の「ライアーダンサー」、吉田夜世氏の「オーバーライド」がある。「オーバーライド」では、ミームを利用したMVが話題となった。

この他にも、VOICEVOX音源「ずんだもん」に代表される新たなキャラクターのブームや、「歌愛ユキ」(2009年発売。最新版はVOCALOID4)が数多くのボカロPに利用されるなど、音源の発売時期を問わず現在でも利用される音源の幅は広がり続けている。

よみがえる平成ボカロ

2024年9月30日、ハチ氏が「ドーナツホール」の2024年バージョンをリリースした。
GODIVAとのコラボレーション企画としてMVが新規に制作され、よりストーリーを明確化したものに生まれ変わった。
それに追随するかのように翌日kemu氏が「熱風」を、「カゲロウプロジェクト」で全盛期のボカロを牽引したじん氏が「Summering」を投稿した。wowaka氏が主宰するバンド「ヒトリエ」も彼の未発表曲を演奏するなど、2017年以来となる全盛期を彩ったボカロP達が奇しくも一堂に会することとなった。
また楽曲以外での出来事として、同時期に「カゲロウプロジェクト」の権利問題が表面化した。全く無関係の企業がプロジェクトの名前を使用していたことが発端となったものだが、原作者たるじん氏も「詳細を認知していない」と発言するなど、全盛期の負の側面である「ボカロと企業」の禍根が未だ尾を引いていることを印象付けるものとなった。

ボカロ曲の海外バズ

さて、ニコニコのサイバー攻撃にも関わらずその人気を拡大し続けたボカロ曲たちだが、ここにきて海外リスナー増加によるYouTube上でのヒットが目立つようになった。
「ECHO」がYouTubeで1億回再生を記録したのを皮切りに、椎名もた氏の「少女A」、きくお氏の「愛して愛して愛して」、ゆこぴ氏の「強風オールバック」、サツキ氏の「メズマライザー」が続々と1億回再生を突破し、今もその数を増やし続けている。
特に、「少女A」「メズマライザー」は2024年になってから急激に再生数を伸ばした。
これについて、RealSoundの記事ではこのように解説されている。

 「少女A」は、2023年9月時点の再生数自体は約2700万回。その後2024年7月に1億回再生を突破、12月25日時点で1億2000万回再生という点を鑑みると、いかに今年1年間、特に上半期の伸びが異常だったのかがわかるだろう。「メズマライザー」も2024年4月の投稿から1億回再生に至るまでの期間はたったの6カ月強。投稿1年以内にこの大台を突破した曲はボカロ史上本作のみであり、この最短記録はおそらく今後も容易に塗り替えられることはないだろう。

新世代の台頭、1億再生曲続出、二次創作推奨手法……“拡張”の年となった2024年ボカロカルチャー情勢考察

現在、J-POPにおいても軽々と1億再生を達成する曲が続々出始めており、日本国内のメジャーシーンにおいてボカロ曲「そのもの」が同じ立ち位置を確立しつつあるという考えもできるだろう。
しかし、YouTubeでのコメントには海外からのコメントが目立ちつつあるのが実情だ。
元々海外で人気を博しているきくお氏がワールドツアーを開催したこと、Ayase氏(YOASOBI)やAdo氏といったボカロ(およびその周辺文化)出身アーティストの世界進出といった海外でのファン層拡大の動きや、近年のシティポップリバイバルのように海外の音楽マニアが日本の音楽をディグる過程でボカロ曲に行き着いた可能性も否定できない。上で引用した記事では、Billboard JAPANのチャート「Global Japan Songs Excl. Japan」による世界的な邦楽情勢の可視化や、Spotify公式プレイリスト「Gacha Pop」による影響を指摘している。

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