Plot:1stシーズン*千秋の章
【プロフィール】
憧れの都会生活をはじめて数年。「幸せってなんだろう」「私にできることってなに?」自分らしく生きる事に疑問を持ちはじめた千秋は、海外放浪の旅へ出る。発展途上国の暮らしは決して裕福でないけれど、子供達はとても幸せな笑顔で暮らしていた。帰国した彼女は、長野県の八ヶ岳のふもとの町へ移住。地域おこし協力隊員として挑戦をはじめる。
【わたしにできること】
八ヶ岳西麓の富士見町で地域おこし協力隊員として生活して3年目の春を迎えた千秋。地域の人達とも交流が深まり、相談事を受けたりして、やりがいと自信を感じられる様になってきた。ようやく信頼関係を築くことができているのかもしれない。「わたしにできることをやってみよう」と千秋は一層意欲的に、田植・農泊体験・蕎麦作りサポーター制度・セルリー&トウモロコシ収穫体験、等を次々と企画。地域の魅力を発信すべく、SNSやホームページ等の原稿を執筆して八ヶ岳に暮らす魅力を発信していた。
そんなやる気をみせる千秋ではあったが、少しずつ空回りしはじめる。ある日、同僚で後輩の新井広人(ひろと)から「千秋さんは、誰のためにそんなに一生懸命になってるんですか?」と言われて落ち込む千秋。『わたし、いったい何してんだろう』。
そんな折、学生時代からの友人の早苗が、都会育ちの息子の潤を連れて、田植え体験をさせてみたいと富士見町へ遊びにやって来る。5月、田んぼには大勢の人達が集まってきた。
【なんとなく恋の予感】
富士見町の地域おこし協力隊の二年目の広人は山を愛する男だ。年齢は2歳年下だが千秋にとっては何故か気になる存在。
夏のある休日、広人に誘われて千秋は八ヶ岳の赤岳へ登山に出かける。学生時代には運動部で活躍した千秋だったが、久しぶりの登山は息が上がる。休憩をこまめに取りながら何とか頂上に到達できた。快晴の八ヶ岳ブルーの下、山頂で広人が荷物から取り出したのは、茅野市で最近話題のクラフトビール「8Peeks」の小瓶。喉が渇いていたせいなのか、こんなに美味しいビールを飲んだのは千秋の人生で初めての経験だった。夜は行者小屋に泊まり、広人の山小屋仲間と一緒に武勇伝を聞いて大笑いする千秋。山小屋の外には満天の星空が広がっていた。
しばらくしてクラフトビール工房8PeaksBREWINGに勤めるリナと知り合い、醸造体験をさせてもらった千秋。社長の藤久保和馬の情熱を知った千秋は「人ってこんなに何かに夢中になれるんだ」と舌を巻いた。千秋の気持ちの片隅で、何かがもう一度動きはじめる気がした。
【ボランティアなんて嫌い】
レストラン・ケープジャスミンのマリちゃんに誘われ諏訪湖花火大会に行ったり、富士見町のフリマのお手伝いをしたりと、忙しさの中に日々は過ぎてゆく。いつもの様に街の公園『ドリームパーク』を整備する広人の手伝いをしていた千秋だが、ずっと心の片隅にあった疑問を口を滑らせてしまう。「こんな小石を拾い集めて、どんな意味があるっていうの?私のやりたいことはこんな事なの?」。広人はそんな千秋の言葉を黙って聞いていた。
台風が通り過ぎ、八ヶ岳鉢巻ライン周辺では、電柱が倒れ停電が続いていた。千秋は被災した家の片付けを手伝う。心の片隅にある疑問はまだ解けない。
ある日の休日。夏海に誘われて八ヶ岳絵本美術館を訪れた千秋。一冊の絵本に意気投合した二人は美術館のカフェでお茶を飲みながら話は尽きない。ところがしばらくして夏海が席を外した合間に千秋は帰ってしまった。「人は見たいものしか見ない。でも見えないものも、よく見るの。よく見ればわかるから」と書いた手紙を残して。
【粉雪パァーン】
年が明け、千秋はスキー場の初日の出イベントを観に行く途中で、鹿の群れに遭遇する。薄暗い闇の中に雄々しく鹿が立ち塞がる。その真っ直ぐな瞳に眼が合わさった瞬間、鹿の声が千秋の胸に響いた。「まっすぐ進みなさい」と。その瞬間、大自然と一つになって溶け込んでゆく感覚に千秋は包まれた。
2月。地元のおばあちゃん達との「凍み大根料理教室」は好評だった。アイスキャンドル祭りの準備をする中、過労がたたり風邪でダウンする千秋。心配したそらがアパートへ見舞いに訪れる。「しっかり寝て、しっかり食べる。それが出来てようやく一人前なんだからね」。そらの言葉に勇気づけられる千秋。
3月。帰宅すると、JICA(海外協力隊)から二次選考の結果通知が届いていた。封を開けて「よしっ、いよいよだわ」と呟く。
晴れた冬空のもと、林道を歩く千秋。林道を抜けるとき、木の枝に積もっていた雪を手で払う。キラキラと粉雪が舞う。新しい人生の扉の鍵の開く音が聞こえた。そう、もうすぐ春がやってくる。
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