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広告のおじさんと目が合う

電車に乗る。
電車の中は広告ハウスと言っても過言ではない。今は少し減ってはいるが。
私は吊り革を掴む。電車の中は少し窮屈で、後からその中に入った私はドア付近に位置を決めた。

前を向く、おじさんと目が合う。

いや、生身のではない。書籍の広告で作者紹介として載っている写真のおじさんだ。この書籍を執筆したであろう聡明なおじさんである。
そのおじさんはこの本を読めば何だか全てが解決するかのような笑みでこちらを見てくる。
私は目を逸らす。そのおじさんの目を直視するのに何だか居心地の悪さを感じたからだ。
そのおじさんに嫌悪感を抱いているわけではない。ただ、何となく気まずいのだ。
考えてもみてほしい、見知らぬおじさんとずっと目を合わせ続けることができるだろうか?しかもあちらは絶えず微笑をたたえている。無理だ。いや広告のおじさんなのだが。
私は目を逸らし続けた。スマホを見ているフリをしてシラを切り続けた。
やがて目的地に着いた。私は電車を出た。

あのおじさんはいまも誰かに微笑をたたえているのだろうか。預かり知らぬところである。

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