【実話怪談ですよ18】押入れから「開けて！開けて！！」

　　平成に入って少し経った頃の出来事。
　あの頃は昭和から平成へと代わり、阪神淡路大震災があったり、どこぞの教団のお無差別殺人事件があったり、なかなか落ち着かないことが多かった記憶が残っている。
　そんな私はまだ中学生とか高校生とかで、本当に思春期真っ只中だったのは間違いない。そんなある日の出来事。

夢の中なの現実なのか

　私は布団で眠っている。
　起床時間まで少し感がある。
　あるあるなのだが、目覚ましが鳴るまで…と布団と親友になる。

　トントン、トントン…

　最初は寝室のドアではなく襖タイプと扉がノックされたのかと思った。父か母が起こしに来たのだろうか。
　モゾモゾと上半身だけ起き上がり、「何？」と声をかける。

　「アタシ！アタシ！！ココ開けて！」

　その声が自分の足元側にある部屋の出入り口からではなく、右側にあった押入れの襖から聞こえる。

　「え？誰？」

　そんな言葉が自分から漏れ出した。
　聞いたことのない若い女性の声。

　トントン！トントン！

　「アタシ！アタシよ！ココを開けてってば！！」
　「だから、誰！？」

　ドンドン、ドンドン！

　軽いノックの音が激しく襖を（どうやら押入れの内側から）叩く音に変わる。途端、私は苛立ちと怒りを覚えた。

　「そんなん誰か分からんのに、何で開けなアカンのよ！」

　ドンドン！！

　最後の叩く音と私の怒鳴り声が同時に終わる。

母から聞いたこと

　そんな不毛なやり取りを終えた瞬間に私は目が覚めた。
　そのまま両親のいるリビングで一緒に朝食を取ったり、朝の支度をしながら変な夢を見た。と母親に話し、私は学校へと行った。

　その日の夕方か夜だったか、はたまた数日後だったか。母親と私と当時家にいた犬といつものように和みつつ、たわいもない話をしていた。

　「アンタさ、変な夢を見たって言ってたでしょう？」
　「押入れから、ノックして開けてとかいうヤツ？」
　「あの後、大変だったのよ。お隣のお姉ちゃんが『押入れから幽霊が出て来た！』って大騒ぎして、ちょっとノイローゼ気味なのよね」

　今思い出そうとしているのだが、私が中学生か高校生だった頃の出来事である。当時は公営団地に住んでいたので、左右対称に部屋が配置された作りの建物なので、私の部屋の押入れの壁はお隣さんの押入れの壁になっている。

　「あ…行っちゃたんだ」

　ボソッとそう言って、私は母のたわいもない話を聞きながら、犬のブラッシングをしていた。

書いてしまえば

　書いて終えば、そんなこともあるよねっていう感じの小さな怪談話だが、実はこの話には、十数年後に「本当に出たんだろうな」とゾッとしたことがあった。
　この件の団地は、老朽化などもありこの十数年で取り壊されたり、新しく立て直しされたりしたのだが。そんな直前、入居者たちは新しく建て直された団地や新しくできた違う団地へ引っ越して行く。中には田舎に帰る者や自分の物件を持つ者、老人ホームに行く者もいたと思う。

　そんな引越しラッシュの続く団地は、どんどん人が減って行き、夜になると灯りのついていない部屋が徐々に増えて行く様子は、まさしくお化け団地。訳あり物件にしか見えない。挙句に誰もいなくなった建物にはコンパネを貼り付けて出入りできないようにしてしまったり。
　想像以上に人のいない昭和のマンモス団地から人が消える現実こそが怪談のようだった。

　その頃はもう母も空の住人となっていたので、父の引っ越しを私は手伝いに行った。まずは不用品を出すとこからスタートしたのだが…。

　「あれ！？」

　学生時代に私は寝室に使っていた4.5畳の部屋の襖の柱にお札が1枚貼ってあった。

　「これ、お父さん、知ってる？」

　色々と片付けをしている父親を件の部屋に連れて来て、部屋を見せた。

　「俺、知らんで〜。お母さんちゃうか〜？」

　初老というか、既におじいちゃんになっている父親はよぅ、分からんなぁと数秒見てから、剥がそうとする。

　「ちょ。ちょ。ちょ！」

　この人に怖い物がないのか、豪快に剥がそうとすることに驚く私。

　「いや、もうココから出て行くし、こんなんいらんやろ…」

あのお札

　件の部屋の、件のお札がそうなったのか分からない。
　もっというと、あの後どうしたかも覚えていない。
　何なら、あの建物はすでに建て壊されたので、どうなったのかも分からない。

　今となって、「何でお母さん、あんな所にお札貼ったんやろうなぁ。」という父親がいる。何かあったのかもねぇで平和に私たち父子の皮は終わるのである。

八山さん家の怪談
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（注意）
この作品は八山家の怪談…八山法龍が個人的に体験したことや聞いたお話になります。登場人物などは特定されないよう、偽名・イニシャルなどを使用しています。また場所や地域・ご神仏などを特定されないためにしておりますので、これを読んで勝手な憶測で他人様のご迷惑などないようによろしくお願いいたします。