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映画『mellow』は日常の延長線上

「あなたのマイベスト映画はなんですか?」

もし誰かに聞かれたとしたら、何と答えますか?
私は真っ先にこれ!という作品を選ぶことができない。

「パッと思い浮かぶのはあれだけど、本当にこれでいいの?」「あの時期はこれが好きだったしな...」「今忘れているだけで大好きな映画があったかもしれない...」

誰に聞かれたわけでもないのに、ぐるぐるしちゃって一生決めきれない。でも、“あれ”や“これ”の中に必ず入ってくる作品がひとつ。『mellow』という映画だ。

とある町の小さなお花屋さんと、廃業寸前のラーメン屋さんを中心に繰り広げられる、不器用な片思いたちの物語。温かくて、ちょっぴり切ない、『mellow』の世界をほんの少しご紹介。

今泉作品の温かさ×田中圭の柔らかさの融合

2020年1月に公開された『mellow』。岸井ゆきの×成田凌で話題となった『愛がなんだ』を始め、最近だと稲垣吾郎主演『窓辺にて』や、有村架純主演『ちひろさん』の脚本・監督をされている、今泉力哉さんのオリジナル作品だ。今泉さんの作品の特徴は、「もしかしたら、この主人公は、私の住む町にもいるかもしれない」と、私たちの【日常】の延長線上にあるお話なのだ、と思わせてくれるところにあると思う。

主演は言わずと知れた俳優・田中圭。彼の説明は、いらないだろう。長年、主人公の親友役をしていた彼が、ひとつの作品で大ブレイク。その後、主演・助演、どのポジションでも存在感を放つ。わたしの推し俳優のひとりだ。

この他にもGP帯の助演や深夜ドラマの主演を務めるなど、少しずつ活躍の場を広げている岡崎紗絵がヒロインとして出演。志田彩良、白鳥玉季、ともさかりえ、小市慢太郎なども脇を固めている。

今泉力哉監督×田中圭はこの作品が初タッグとのことだが、今泉作品の温かい雰囲気と、田中圭が元々持っている柔らかさが、とてもよくマッチしていた。田中圭演じる、町イチバンのオシャレなお花屋さん店主・夏目誠一は、人懐っこくて、みんなの心を溶かして行く、でもどこか不器用で、大事なことは言えない。まるで田中圭に当て書きされたかのような、愛おしいキャラクターだ。『mellow』における、夏目誠一は田中圭にしか醸し出せない何か、があったように思う。今泉監督も後日談として「田中さんがキャスティングされてから、なぜか登場人物の片思い矢印が全部夏目にいくようになってしまった」と仰っていたが、夏目誠一が田中圭であることで、一段と魅力的な人間に変化したのだろう。

【日常】を描く=「音」へのこだわり

前段でも書いたように、今泉作品の特徴の1つに『【日常】の延長線上にある物語』がある。「フィクション」である映画の中に「日常」を入れるのは、意外と難しい。ドラマや映画、いろんな作品で「日常感」を演出しているものを見てきたけれど、私は今泉監督が描く「日常」が一番好きだ。

『mellow』で「日常」を感じる要因の1つに、「音」へのこだわりがあると思っている(ここでいう「音」は音楽ではなく、現場で生まれた音)。実は『mellow』に関するブログを書くのは、これで3回目。「音」に関しては、2回目の記事にも記載している。

作品作りにおける「音」へのこだわり方について、最近ドラマ『silent』の風間監督の記事を読んだ。風間監督は「『silent』は劇場でも見ても遜色ないくらいこだわって整音(作品における全ての音を整える作業)した。「映画っぽい」と言われる理由の1つだと思う」と仰っていた。映画やドラマを見る時に、どうしても画の美しさや撮り方、演者の表情など「映像」に注目しがちだけど、実は「音」というのも、作品の方向性を決めるのに非常に重要な要素なのだ。

『mellow』においてもそれは同じで、「花をラッピングする音」「麦茶を飲む音」「窓に息をかける音」「コーヒーカップを置く音」「タバコを吸う音」「後輩に『ファイト!』と掛け声をする音」「ラーメンを作る音」「手紙をめくる音」…。1つ1つの音が、私たちの日常生活を彩る音であり、どこかで聞いたことのある音。だからこそ『mellow』にどこかしら「日常」を感じるのではないかと思った。

出演者の声も「音」を彩る1つの要素だ。主演の田中圭の何かに包み込まれたような柔らかな声も『mellow』の世界観に寄り添っていたと思うが、もう1人。ラーメン屋の店主である、岡崎紗絵ちゃんの声もまた、「日常」を感じる『mellow』の世界を作り上げていたように感じる。彼女の声は、若手女優さんの中では比較的低い。聞こえ方次第では、ハスキーにも聞こえる。もしかしたら、本人の中ではコンプレックスかもしれないが、『mellow』の古川木帆は、岡崎紗絵ちゃんの声だったからこそ「日常」の延長線上であり、私の町にもあるラーメン屋店主像になった。「声」で古川木帆を作り上げていたように思う。

「ありがとう。でも、ごめんね」に込められた意味

ここまで、作品全体の漠とした話をしてきたので、最後は少し内容に触れていく。『mellow』の中で、たびたび出てくるのが「ありがとう。でも、ごめんね」という言葉。文字にすると、ただの断り文句にしか見えない。けれど、この言葉をもらうには、人に何かを伝えることをしないといけない。「断り文句なんていらない」と思うかもしれないが、この「ありがとう。でも、ごめんね」には、言葉からは見えてこない、大きな愛が詰まっている。

『mellow』にはいろんな人が出てくる。男性のお花屋さん、女性のラーメン屋店主、女子中学生、同性が好きな女子中学生、不登校気味の小学生、既婚者なのに片思いしている妻、妻の思いを知って支える夫…。この作品は、全ての人を否定しない。だからこそ、温かみを感じる作品なのだ。その、人を否定しない温かさがあるから、「ありがとう。でも、ごめんね」が生まれる。断り文句に見える「ありがとう。でも、ごめんね」は、人の温かさが起因となっているのだ。この言葉には、いろんな解釈があると思うけど、私はこう思った。


映画『mellow』。これはきっと、あなたを取り巻く物語。ラーメンを食べて、お花を買って、自分の居場所に帰ろう。

*『mellow』は現在FODのみで配信中

文責:ミノえもん。(@8minoemon8)
*普段はTwitterでドラマ実況しています。うるさいです。


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