FinTech新規事業の特殊なところと醍醐味
最近、会社サイトでも募集している通り、新規事業を仕込んでいる。今まで何個か事業を立ち上げてきたけど、FinTechの事業はけっこう特殊で、こういうことにおもしろがれる人と働きたい、という想いを込めた記事。もちろん、これからFinTech領域の事業をやりたい人向けにも役立つようにまとめたいと思う。
アジェンダ
・0. 新規事業の汎用的な側面
・0.1. プロダクトを設計する
・0.2. 収益計画をたてる
・0.3. 提携先と交渉する
・0.4. チームを作る
・1. まずはとにかく法整備が必要
・2. 想定以上の時間かかるので多めの資金調達する
・3. 外部システムやオペレーションのブラックボックスと戦う
・4. 差別化しにくい苦悩と当たればスケールする市場のでかさ
まず、FinTechに限らず、プロダクトを作ってスケールさせるという事業において、汎用的なところを軽くまとめる。
0.1. プロダクトを設計する
これは敬愛する @yamotty3 氏のこのポストを読んでほしい。全部詰まってるから。これはバイブル。
0.2. 収益計画をたてる
良いプロダクトができそうであれば、次は収益計画をたてる。そのプロダクトが事業としてどこまでスケールするのか、を確認するのに必要な作業。どれだけのユーザー・顧客がいたらどの程度儲かるのか(規模感の確認)?どの数値が最も売上・利益に影響するのか(KPIの確認)?この時点で精度は必要ないが、ざっくりどの程度の規模(桁感)になるのかは自信を持って言えるようになりたい。資金調達の時にもいくらでExitできるのか言える必要がある。細かいところはこの記事に書いた。
0.3. 提携先と交渉する
提携先が前提となる事業の場合は、その会社と一緒に物事をすすめる必要がある。色々な方法があるので一概にまとめられないが、前の事業のCLO(Card Linked Offer)をやった時のポストがあるので、事業提携をしたことない人はこちらを参考にしてもらいたい。
0.4. チームを作る
とにもかくにも、「採用と同期」である。採用に関しては色々な記事が出回っていると思うのでそちらで。メンバーは集まっている前提で。
最近、意識しているのが「同期」で、まあ要はメンバー間で同じ情報・考え方を共有して意思決定のブレを無くす、ということなのだけど、情報・考え方にも確固たるモノとふわふわしているモノが存在する。自信があるもの/覚悟が既に座っているものが前者、まだ自信がない/言語化できていない/こだわりがないものが後者。
新規事業の場合、当初は確固たるモノの比率が低く、ふわふわしているモノの比率が高い。おそらく、確固たるモノはやりたい理由と1個の仮説くらいしかなくて、ほぼ全てふわふわしたモノで、新規事業のチームビルディングとは、チームで確固たるモノの比率を上げていく作業なのだと思う。
具体的な同期の方法は、それはそれで1記事書けるくらいなことなので別に回すが、この2つは意識している。
①確固たるモノは最初からわかりやすい形式で保存・共有しておき、常にブラさないようにすることである。できればスライドに落としておきたい。ただのメモよりもスライドは使い回せるし、資料単体で独り歩きしやすいため。
②具体的な仕事の進め方とアウトプットを、リーダーが先陣切って見せることである。例えば、事業計画の作り方も三者三様だけど、自分はこういう考えでこう作る、というものを一度作業のプロセスを提示して、共有しておくとズレが少ない。UIのイメージもそう。弁護士とのMTG方法もそう。
なお、同期という言葉を意識し始めたのはこの本を読んでから。"結論よりは、その結論を導いた理由を見るように。"
一応過去にも共通言語という言葉で過去にまとめたりもした。
というのが、一般的な新規事業で意識していることで、ここからが本題である(長い)。FinTechの新規事業をやる際に追加で意識しないといけないことをまとめた。
1. まずはとにかく法整備が必要
金融は規制産業、とよく言われるが、要は何らかの許認可や登録が必要な事業が多い。国/自治体に承認された事業じゃないと行うことができない。他の事業でも法整備は重要だが、FinTechの事業ではあらゆる観点で適法であることを証明する必要がある。オペレーションや組織体制も含めてだ。特にスタートアップで事業を立ち上げる場合、過去に事例がないことも多く、利用規約のコピペだけでは始められない。
よって、まず弁護士に相談することから始まる。ただ、弁護士の方でも、あくまでその絵が適法かどうかを判断する役割なので、こちらである程度、具体的なやりたいことをまとめないといけない。弁護士にざっくりやりたいことを聞いてもヒントくらいしか返ってこない。このスキームなら適法ですか?というところまで問いをまとめられてはじめて事が進むイメージ。
やりたいことをざっくりまとめて、関連する法律を洗い出し、自分の中でやれそうなスキームを作る。この時点である程度、対象の法律に詳しいことが求められる(既に似たような事業をやっている事業者の法務/事業開発担当に2,3人ヒアリングすればある程度インストールできるくらいのレベル)。ただ、初回でOKなことはほぼなく、何回かMTGをしてまとまってくる。また、細かい仕様を決めていく過程で、やり直しも多い。3, 4回やりとりしてると法律にもがぜん詳しくなる。
許認可が必要な事業であれば、途中から許認可を取得するには?という観点も出てくる。これだと攻めすぎ、今の流れに沿わないから時間がかかるかも、といったことも見えてくる。そして、アウトプットとして申請書類と、組織の必要要件が出てくるので、穴埋め・対応する。純資産の下限とか、専任コンプラの採用とか。
また、リリース後も法改正に敏感になる。FinTech系の法律は注目が集まっており、年に1件くらいのペースで法改正がある気がする。直近だと犯収法の改正(e-KYC周り)とか。
醍醐味:とにかく面倒くさい部分も多いが、その分先行事例がほぼなかったりする。なんというか、法律をHACKしている感覚。世の中にないものを生み出している実感も湧いてくる。リリースできたらまず一番乗りが確約される。新しい法律に人よりも早く詳しくなると、それだけで競争優位になれる可能性がある。情報得るための官僚・弁護士ネットワークができる。こういうTweetも内から湧き出てくる。
2. 想定以上の時間かかるので多めの資金調達する
許認可の取得や、提携先との連携が前提になると、リリースの意思決定者が外部に存在するため、想定より時間がかかる。例えば、バンドルカードも想定の9ヶ月遅れてリリースされた。ただ、これは特定の誰かが悪癖を持っているというわけではなく、ちょっとずつ皆が想定していないことの確認が発生して、結果遅れることが大変多い。2週間の遅れ×18回、みたいな感じ。関わる人間が多ければ多いほど遅延リスクは多くなる。
ここで問題なのは、リリースが遅れて商機を逃すかもしれないことよりも、現実的にのしかかってくるのは、今いるメンバーの人件費が出ていくという点。他に事業をやっていれば小さな問題だが、0→1のスタートアップだと死活問題で、想定の2倍は調達しておいたほうが安全。足りないと不要なブリッジファイナンスや受託で稼ぐ、というのが発生してしまう。
醍醐味:ただ逆に言えば、コンセプトをブラッシュアップしたり、ユーザーテストしたり、メンバー間での議論を詰むことで、プロダクトの精度もそうだが、チームの密度を高めることに時間を割くことができる。また、時間がかかればかかるほど、それが参入障壁になると捉えることもできる。たぶん、自分がもう一回バンドルカードを立ち上げろ、と言われたら1回やったことだとしても1年はかかると思う(初回は1.5年)。
加えて、得られた許認可や大手との提携は、それだけで資産になることがある。スタートアップの場合、ユーザー数・顧客数がまず資産として挙げられるが、許認可取得/提携に時間をかけたくない企業が買収するパターンもある。よって、投資家からすれば、ダウンサイドのリスク(要は投資したときよりも株価が下がってしまうこと)が低減されることで、調達がやりやすくなったりもする。(※本当に価値がある許認可/提携なのかは検証必要。水物だし。ただ、ダウンサイドリスク低減は精神衛生上良い)
3. 外部システムやオペレーションのブラックボックスと戦う
お金を扱うサービスなので、決済代行やATM、外部ネットワークと接続することが多く、それぞれ個社仕様だったりするので、そこをひもとくのにコストがかかる。特に、先方も新しいシステムを提案してきたり、更新も頻繁にあるので、仕様書と実装が違ったりすることがままある。それだけで2週間・1ヶ月遅れる。
また、オペレーションも実際に始まってみないとわからないことが多い。例えば、バンドルカードの場合、いきなり4,000万以上のVisa加盟店から伝票が送られてくるわけだが、加盟店ごとに癖が違ったりして、それを一つ一つ潰していく作業が発生した。これ初見殺しだろwという大量のオペレーションノウハウが蓄積される。
醍醐味:外部との接続をする過程で、普段得られないであろう知見が得られる。実際にお金を移動させている世の中の仕組みが分かる感。これは普通のWebサービスやアプリを開発しているだけでは得られない領域で、オタク心をくすぐる。例えば、カードで言えば、カード会社にもイシュア・アクワイアラ・ブランドという役割分担があり、なぜプリカ・デビットで使えない店があるのか?クレカでサインが必要な時と不要な時がある理由、ATMの仕組み等。
また、自分の作ったサービスが世の中と接続するのもやりがいがある。バンドルカードも、初めてAmazonやセブンイレブンで決済できた時は感動ものであった。セブン銀行ATMと接続した際も、ATMが10個並べられた謎の部屋でテストしたのも良い思い出である(イメージ画像↓)。隣でATMのデバッグ作業をしていたり。端的に言えば、世の中に自分のシステムをデプロイしている感覚。
4. 差別化しにくい苦悩と当たればスケールする市場のでかさ
最後に、FinTech領域のプロダクトは差別化しにくい。規制産業が故に、できることに限りがあるためだが、コモディティ化が早い。例えば、銀行の違いを言える一般消費者の人はほぼいないのではないだろうか?おそらく、家・職場からの近さで銀行を選んでいる人がほとんどだと思う。Pay系も、使える店を除けば、使い勝手はほぼ一緒だと思う。
醍醐味:ただ、細かい機能や使い勝手のちがいが大きな差別化につながる、とも言える気がしている。はたから見ると違いがわかりにくいが、いざ使ってみるとなじんできて他に移りにくくなる。バンドルカードユーザーの動きを観察していても感じるし、自分が今使っているネットバンクもそう。メガバンのオンラインサイトの使いにくさを実感する。また、保守的な業界なのでマーケの差別化は定期的におきている。例えば楽天カードマン。人材の流動性も低いので、他業種から新しいマーケ手法を取り入れることで差別化できる部分もある。
また、とにかく市場がでかいのも魅力である。カード業界であれば、トランザクションで年60兆円程度、売上で見ても3兆円程度あると見込んでいる。これはクレジットカードだけで電子マネー、Pay系を入れるともっと大きい。その市場に1000社以上のプレーヤーが存在しており、チャンスも多い。さらに、扱うのがソフトウェアとお金とデータだけなので、少人数でも伸ばしやすい(コンプラ・AML等のバックオフィスは必要)という点も外せない。
市場がでかいと世の中へのインパクトも複利的に起こしやすく、こういう未来を想像して、その未来に事業を繋げられるのも面白いと思っている。
まとめると、金もかかるし極めてめんどいけど、世の中に直結するでかいものを作っている実感が得られる領域だと思う。
ということで、新規事業をリードしていただくエンジニアを探しているので、よろしくな!!