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【第41回】「新しい市場のつくりかた」
第一線で活躍しているクリエイターをゲストに迎え、クリエイティブのヒントを探るトークセミナーシリーズ「CREATORS FILE」。
第41回 クリエイティブナイト
ゲスト:三宅秀道氏(経営学者)
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経営学者 三宅秀道先生の思考法や仕事術を紐解きます。ものづくりではなく「文化」をつくることが、新しいマーケットを切り開くと述べた三宅先生の著書『新しい市場のつくりかた』をもとに、新市場の創造に成功した企業を数多く見てきた氏ならではの考えや取り組みに迫ります。
「コンセプトが新しい」とは
西澤:今日は『新しい市場のつくりかた』を中心にお話を聞きたいと思っています。
三宅:その前に、私の自己紹介を少し。早稲田大学3年生の終わり、就活がはじまる頃に阪神淡路大震災が起こり、実家が被災しました。親が「これで不本意な就活をするなら」と、院への進学を許してくれました。「郷里の復興に役立つような経営学、中小企業、地場産業、地域産業の研究をして、就職するのもいいかな」と思ったわけです。
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西澤:専攻は?
三宅:最初はビジネスヒストリーでした。ある地域がどうやって発展してきたか、つまり、「産地」と呼ばれるものができる歴史の研究です。「経営学」というと大企業の研究が主流ですが、町工場の研究の第一人者である鵜飼信一(うかいしんいち)先生が面倒を見てくださることになりました。ある時、鵜飼先生から、三菱総研の時の部下だったという東京大学の藤本隆宏(ふじもとたかひろ)先生のゼミに「週1で通え」と言われて行ったところ「鵜飼さんは、上司ではなくて同僚だった」と言われました(笑)。藤本ゼミは午後2時~午後10時まで、その後駅前の居酒屋に飲みに行って終電までのコース。
西澤:いいゼミですね、それは(笑)
三宅:鵜飼先生からは職人の要素技術に近い分野を、藤本先生からは製品開発論や、部品点数が多く複雑度の高い人工物をいかに効率よく、不良品の出ないように優れたものを作るかという組織論を叩き込まれました。「職人の要素技術の鵜飼先生フレーム」と「組織力の藤本パラダイム」の両方を学び、私は頭の中がパニックになりました。でもときどき、そのどちらにも入らない事例を見つけるわけです。職人の要素技術も部品点数もそれほど必要としない中小企業の製品が、爆発的にヒットする。それらは「なぜこんな商品が今までなかったのだろう」と思うような、コンセプトが新しいものばかりでした。そう言ってもピンとこないでしょうから、実例をお目にかけましょう。
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三宅:世の中には、交通事故や病気が原因で首が動かない方がいらっしゃいます。そうした方々は、飲み物を飲む際に首をうまく動かせません。こうした症状の方が普通のコップで最後まで飲み進めようとすると、向こうのへりに鼻がぶつかってしまいます。しかし、この『レボ・Uコップ』なら、飲み口が斜(はす)に切ってあるので、首を動かさなくても、鼻にぶつからずに飲み干せます。
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三宅:これは、オーラルケア製品全般を製造する品川区のメーカー・ファイン株式会社のヒット商品です。ここで考えてみてください。これを作るのは、難しいと思いますか?
西澤:うーん、どうなのでしょう。難しいようには見えませんね。
三宅:僕は最初、この商品を見た時にショックを受けました。それまで「ものづくりで勝つ」ということは、製品そのものが駆使する技術、あるいは生産技術のどちらかが抜きん出て優れる、としか考えてこなかったからです。樹脂を流し込む金型の形を普通のコップとちょっと変えて、飲み口の縁が、斜(はす)に切れているだけなので、技術的にはこのコップを作ることはきわめて簡単です。なぜ僕がショックを受けたのか。それは、商品そのものが世の中にない「新しいコンセプト」だったからです。
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〈当日のスライド画像より〉ファイン株式会社の「レボ Uコップ」のイラスト
問題設定こそがクリエイティブ
三宅:開発のきっかけは、清水会長(当時は社長)が特別養護老人ホームを訪れた時でした。
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