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【第53回】グッドデザイン賞 金賞受賞特別セミナー「SALWAYのブランディングデザインの裏側」
第一線で活躍しているクリエイターをゲストに迎え、クリエイティブのヒントを探るトークセミナーシリーズ「CREATORS FILE」。
第53回 クリエイティブナイト
出演:山根優一氏(株式会社名優 代表取締役)、西澤明洋(株式会社エイトブランディングデザイン 代表)
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「SALWAY」が2024年度の【グッドデザイン賞金賞受賞】を受賞。受賞記念の特別編・クリエイティブナイトとして、同ブランドの立ち上げをご担当された株式会社名優の代表取締役 山根優一氏にご出演いただきました。
再生処理プロダクトブランド「SALWAY」とは?
西澤:今回は僕たちがブランディングデザインをお手伝いした医療器材の再生処理プロダクトブランド「SALWAY」がグッドデザイン賞の金賞受賞という名誉を受けたということで、株式会社名優の山根優一社長をお招きして受賞の裏側に迫りたいと思います。
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まずは最初に「SALWAY」とはどのようなブランドなのか、山根さんよりプレゼンテーションしていただきます。
山根:よろしくお願いします。SALWAYは医療機器の再生処理プロダクトブランドです。「日本の再生処理を『再生』する」をブランドコンセプトに活動しています。「再生処理」とは、医療機関の手術や診療で使用した医療器材を再使用するための処理のことです。次の患者さんにも安全に使えるよう、医療器材の洗浄や滅菌を行っています。
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実はこの再生処理、2019年に衝撃のニュースがありました。日本の歯科の約半分がハンドピースと呼ばれる歯を削る機器に対して適切な再生処理をおこなえてないという事実が明るみになったのです。ほかにもオーストラリアの事例では、歯科の不適切な再生処理によって約1万人にHIV感染の恐れが及んだという事件も起きています。
医療機器の再生処理が適切におこなわれないと、治療を目的とした医療行為が感染を引き起こしてしまうリスクが高まります。再生処理は患者さんの命に関わる極めて重要な業務なんです。
しかしながら、日本の再生処理は先進している欧州より約20年遅れをとっているといわれています。例えば、病院で医療器材を滅菌する滅菌器。この滅菌器が正常に作動し滅菌できているかを検証するバリデーションは、ドイツで99%の医療機関が実施しているのに対して、日本の医療機関での実施はわずか5%程度と言われています。
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また、教育の面でも、ドイツは再生処理の専門学校を設置しているのに対して、日本にはまだありません。再生処理の法的規制においても欧州では製造業と同様の考え方で、品質保障の国際規格ISO 9000に則った運用が求められるのですが、日本では整備されていません。
日本でも現場の職員さんたちは「絶対に感染を起こしてはならない」と懸命に取り組まれています。それなのに、なぜ欧州に対して大幅に遅れをとってしまうのか。私たちは「再生処理の重要性がきちんと理解されてないこと」が原因だと考えています。
再生処理の重要性が世の中に認知されていないがために、法的規制や教育制度が整備されない。その結果、現場では人手や予算が不足したり、正しい知識が不足してしまう事態が起こっています。こうした現状を改善して日本の再生処理を先進する欧州の基準に引き上げたい、というのが私たちの願いです。
ブランド名の由来とSALWAYの取り組み
デザインの話に移ります。SALWAYというブランド名は医療器材の安全性の定義「無菌性保証水準sterility assurance level」の略語「SAL」と、目指す道「WAY」をつなげた言葉です。医療器材の安全への道を私たちが示し、お客さまと一緒に歩むという想いを込めて名付けました。
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ブランドロゴは、青い四角が2つ重なった部分に白い空間があるデザイン。この白い空間部分は滅菌状態を表しています。滅菌状態の空間にブランド名であるSALWAYを置くことで、「SALWAYによって安全な滅菌保証が実現します」というメッセージを発信しています。
SALWAYの取り組みは大きく分けて3つです。
・適切なプロダクトの提供
・正しい知識やノウハウの発信
・再生処理の重要性の啓蒙
まずは「適切なプロダクトの提供」について。そもそも再生処理は「洗浄・組み立て・包装・滅菌」の4つのプロセスで構成されます。この1つでも欠けてしまったり、適切に実施できていなかったりすると、安全な器材を提供することができません。そこでSALWAYは業界初の再生処理プロセスを網羅する製品ブランドとして、再生処理の質を上げたり、コスト削減につながったりするような製品を提供しています。
2つ目が「正しい知識やノウハウの提供」。再生処理について学ぶ研究会は全国で実施されていますが、会場が遠くて参加できない、または病院から参加の許可が降りないという方がいらっしゃいます。そこで私たちは無料で誰でもアクセスできるオウンドメディアを作って、再生処理に関する正しい知識を発信しています。
最後が「再生処理の重要性の啓蒙」。これは私たちが最も力を入れている取り組みです。現場の方へのインタビューを実施して記事を作成し、オウンドメディアで展開しています。このインタビューは一般的なユーザーインタビューとは趣旨が異なります。「弊社の製品を使ってどうでしたか」といった自社の宣伝ではなくて、「その人がなぜ再生処理に真剣に向き合うようになったのか」という業界に携わる「人」にフォーカスした内容で、再生処理の重要性や真摯に取り組んでいる人々を知ってもらうことを目的としています。
こうした取り組みの成果として、SALWAYのウェブサイトのPV数は月間1.8万を超え、現在2万PVに達しました。この数字、少なく聞こえるんですけど、実は再生処理に関連する資格に「滅菌技士(滅菌技師)」というのがあって、滅菌技士(滅菌技師)の資格所有者は日本に約1万人しかいないんです。なので滅菌技師(滅菌技師)が全員見てくださったとすると、月に2回は見てくれている計算になります。こうした角度から見ると2万というPV数は評価できるのではないかと思っています。
また、SALWAYのローンチ後には、新たに11万人の患者さん相当の手術の滅菌保証、つまり手術に用いる医療器材の安全を保証することができるようになりました。2030年までには200万件を保証できるようになりたいと考えています。ただ、200万件の滅菌保証ができたとしても、実は全然十分ではありません。日本では年間500万件以上の手術がおこなわれているので。ゆくゆくは全ての手術の安全を保証して、誰もが安全な医療を受けられるような社会を作っていきたいと考えています。
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西澤:ありがとうございます。さすが金賞。このプレゼンを審査では4分で披露されたとのことですが、何回ぐらい練習されたんですか。
山根:125回ですね。
西澤:プレゼンテーションもデザインの1つなので、僕らもお手伝いさせていただきました。山根さんには「最低100回は練習してくださいね」って言ったら、もう見事ノルマ達成してくれて。
山根:100回じゃだめだと思いました。
西澤:経営者が自らデザインとプレゼンに真剣に向き合った結果が、今回の受賞につながったんですね。
\ 引き続き、"SALWAYのブランディングデザインの裏側"に迫ります /
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