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魔剣召喚した勇者の話(仮)

「覚悟しろ、魔王アステリオス!!!」


そう叫ぶと勇者ロッドは天井まで跳び、魔王の頭上に剣を振り下ろした。

長い旅の末、ようやくたどり着いた魔王城。
王の間への途上で、仲間は皆息絶え、もう戦えるのは勇者ただ一人。


『ハッハッハ! 今の一撃はなかなかだったぞ、勇者!!』


牛頭の魔王は高らかに笑った。その声からは、圧倒的な余裕を感じる。


すきを見付けては果敢に斬り込むも、勇者の剣は一向に魔王の頑強な皮膚に刃を刻む事ができないでいた。

次第に削られて行く体力と気力。
負けられないという気持ちとは反比例して、徐々に剣を握る指から力が失われて行く。


『勇者よ! そろそろ終わりにしようぞ!』


魔王が吠え、鉤爪の並ぶ手を勇者に向けて振り下ろした。


!!!


------頭上に空気の裂ける音。

その刹那、勇者は決意した。今こそ、命を懸けた【切り札】を使う時だと。


「来い! 征服者ダーインスレイヴよ!!!」


------眼前の空間に黒光りした刀身の剣が現れる。


勇者ロッドはすぐさまその黒剣を握り、自らの頭頂目掛け降って来た魔王の爪へと打ち付けた。


!!!!!!


落雷を思わせる激しい光と、重い金属音が響く。

間一髪で魔王の攻撃を逃れた勇者はその場を飛び退いて、先程召喚した剣を強く握り直した。


『その黒剣は、、、ワハハハ、勇者よ貴様、死を覚悟したか!!!』


地の底で響くような笑い声。しかし、魔王の目は決して笑っていない。


「ああ、そうだ。しかし、無駄死にはしない! お前も道連れだ!!!」


叫んで、勇者ロッドは黒い刃を頭上高く、真横一文字に構えた。


---
この世界では、勇者として選ばれた者にたったひとつ、死と引き換えにした『奇跡』の力が与えられる。ある者はどんな物も焼き尽くす爆炎魔法を、ある者は仲間全員を蘇らせる究極の蘇生魔法を。

勇者ロッドが授かったのは、『魔剣』なら、この世界に存在するどれでも好きな物を一太刀召喚できる、『魔剣召喚』の魔法だった。

そして、勇者ロッドは呼んだのだ。
この世界で最も強いとされる伝説の魔剣の名を。
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心臓がバクバク鳴っていた。死のカウントダウンが、魔剣の召喚と同時に始まったのだった。押さえ付けるような胸の痛みに耐えながら、勇者ロッドは走り出した。


巨大な魔王の足元へと滑り込み、まずは一撃、象のごとく太いその足首を薙ぐ。


『んぐふぅぅっ!!!』


赤黒い血液を溶岩のように噴出しながら、アステリオスは膝を折る。


「・・・流石、魂と引き換えなだけはある!」


剣を握る手に確実な手応えを感じた。
魔王の方へと向き直り、黒剣を縦一文字に構え、腰を沈める。


「うぉおおおおおお!!!」


雄叫びと共に天井目掛け跳ぶ。
崩れかけた壁や折れた柱を足場に、二度三度と跳躍し、再び魔王の頭上へと舞った。


『おのれぇぇ!!! 勇者めぇえええええ!!!』


最後のあがきとばかりに勇者へと腕を振り上げる魔王。


「魔剣ダーインスレイヴ、、、俺の魂、来世も含めて全部持って行け!!!
代わりにこいつをぶった切るチカラを、、、!!!」


心臓が激しく脈打ち、全身に血がたぎる。
頭の中まで、赤い奔流が渦巻く。


《委細承知・・・ 征服せよ、万物を切り裂く刃で!!!》


頭の中で、誰かが囁いた。

振り下ろされたダーインスレイヴの輝きが、更に妖しく増す。


------!!!!!!


襲い来る魔王の腕。毛むくじゃらの巨大な塊と、黒い魔剣の刃が相打つ!!!


「えっ!?」


鋼のように硬い魔王の腕に斬り付けた。勇者ロッドは当然ながら衝撃に備えていたが、黒い刃は何の抵抗も無く魔王の腕に減り込んだ。


いや、感覚的には、

するりと擦り抜けた。


眼前を、肉の塊が左右に分断され、、、
続いて背後には、真っ赤な血飛沫と、宙に踊る腕だった物。


『許さん!!! 人間ごときが、許さんぞぉおおおお!!!』


最後のあがきと言わんばかりに咆哮する魔王。
勇者に喰らい付かんと、裂けるほどに口を開き、待ち構えている。

勇者ロッドは真正面に剣を構え、重力に引かれるがまま、魔王の頭部へと降下した。


『ぐあっ!!!』


全世界を脅かした魔王アステリオスの断末魔は非常に短い物であった。

再び、何の抵抗力もないまま、ダーインスレイヴの刃は紙切れでも裂くかのように魔王の脳天中央へと埋まり、そのまま肩の辺りまで左右に割いた。


続けて、面白いほどにするりと、心臓を裂き、次々と内臓も切り裂いて。
三十秒も掛けず、勇者は魔王の頭部から胴体までを、一刀両断したのだった。

ぐしゃりと力なく落下する勇者ロッド。


「・・・・・・・・・流石に世界最強の魔剣だな・・・」


言って、勇者もそのまま地面に膝を付いた。

頭上から、真っ赤な雨が降り注いでいる。


「やり遂げたぜ・・・・・・・・・。 へっ、ざまあ・・・」


言い終わらないうちに、勇者は最後の鼓動を打ち終え、その場に倒れた。

------

目覚める刹那聞いたのは、自分のみぞおちに硬い何かがめり込んだ音だった。


「ぐはぁあ、痛ってぇ・・・」


「おや、主(ヌシ)さん、ようやくお目覚めかえ?」


倒れているロッドの眼前には、ぬるりと黒光りした革の靴が見えた。爪先がいやに尖っており、細く長い踵は、更に鋭利に尖っている。

自分のみぞおちに食い込んだのが何だったのか瞬時に理解し、ロッドは恐るおそる視線を上方へ移動させた。

脚のラインから女性である事はすぐさま判った。
靴の素材と同様に恐ろしくぬるりと照かった黒い薄手の革鎧が、女性の体をぴっちり締め付けている。

更に上方へと目線を泳がせると、豊かな白い胸元には、しなやかな黒い髪が肩口より溢れており、透き通るような首筋へと視線を誘った。

勇者ロッドはつばを飲んだ。自分でも聞いた事がないほどの大きな音がした。
両眼には、見た事もないほどに端正な美しい顔が映った。例えようがない、完成された美貌である。


しかし、その額には、刃のような鋭い角が二本、天へ向けてそそり立っていた。


「お、鬼(オーガ)!? ヴァルハラ(天国)になぜ鬼女が!!!」


天国と言えば、美しい女神や愛らしい天使が付き物だ。だが、目の前の女はどう見ても女神には見えない。女神級に美しいが、絶対に違う。


「ここは天国じゃござりんせん」


鬼女は口端を少し上げて微笑むと、勇者へ手を差し出した。

みぞおちが痛むのに耐えながら、ロッドは鬼女の手に支えられつつ立ち上がった。

周囲を見渡すとそこは、魔王の城から数キロ離れた平原だった。未だ禍々しい気配を放つ城塞が、草っ原の遥か先に見える。


「・・・はは、俺死ななかったのか・・・」


安堵の溜息とともに項垂れて、ロッドが言う。だが、その横で、


「いんえ、確かに主さんは一度、死になさりんした」と、鬼女が静かに返した。

「は? いや、この通りピンピン・・・」

「わっちが主さんを生き返らせたのでありんす」


ロッドの顔を覗き込むように、鬼女が意味ありげに微笑む。


「主さんは、わっちと契約を結んびなんした。助けるのは当然のこと・・・」

「は? 契約? 何の話だ、俺は・・・・・・」言い終わらないうちに、ロッドの顔は真っ青になった。

「オマエ、まさかダーインスレイヴなのか!?」

「はい? 主さん、ずーっとわっちの名前を間違えていんす・・・」
「わっちは、ダーリンスレイヴ、最強の魔剣、征服者『ダーリンスレイヴ』でありんす・・・」


ダー、、、リン??? 勇者ロッドの頭は混乱した。


「うーん・・・ どうやら、誰かがオマエの名前を聞き間違いして、それが言い伝えられて来たらしいな・・・。まあ、最強だって部分が間違いじゃなくて助かったけど・・・」

「助かったのであれば、それは上等。わっちも嬉しいでありんすえ」


美貌の鬼女が艶めかしく微笑う。対してロッドは、彼女から視線を反らした。


「と、ところで・・・」


ロッドはずっと考えていた。


《ダーリンスレイヴ・・・つまり最愛の奴隷、って意味か!? 契約したって言ってたし、つまり、この美女が俺の??? 俺の・・・!!!》


口の片端をだらしなくゆるませながら、


「へ、へへ。あー・・・契約したんだよな。俺とキミは・・・ 」


勇者の鼻息が荒くなっている。


「契約しなんした。これからは、ずーっと一緒でありんす」


ロッドは心の中で勝利の雄叫びを上げた。
魔王を倒したことで名声を手に入れただけではなく、絶世の美女を手に入れたのだから。勝った。もう完全なる勝ち組なのだ。

これからはずっと一緒! お風呂も一緒! 寝るのも一緒! 全部一緒!!!


完全に蕩け切っている勇者の表情に、甚だ残念と言わんばかりに大きく嘆息して、


「主さん、何か勘違いしていんなさる・・・」


ロッドの方へと一歩踏み込むと、鬼女は俊敏な動きで逆側の脚を跳ね上げた。


------!!!!!!


一切の躊躇が感じられない完璧な蹴りが、勇者の股間を襲う。煮込んだ豚軟骨を噛み砕いた時のような音がした・・・気がした。


「!!!!!!」


息ができない。勇者の罵倒は言葉にならず、ただその場にへたり込んだ。


地面を踏み躙り、勇者の前に立つ。ダーリンスレイヴは優しくロッドの髪をつかむと、くいと彼の顔を上方へと向け、言い聞かせるような口調で宣言した。


「あっちは『征服者ダーリンスレイヴ』・・・ 契約通り、主さんの『全て』は来世までぜーんぶ、あっちの物・・・」


周囲の草木が不安げにざわめいた。


「徹底的に支配し、屈服させ、血の一滴、汗のひと雫まで、何もかんもわっちの物にさせて頂きなんすからの?・・・」


耳元でそう囁かれた声は、魔性の者のそれであった。しかし、


「お覚悟を、主さん・・・」言って、鬼女はスキップするように、一歩下がった。


酸素不足で霞んだロッドの視界に映るダーリンスレイヴの瞳は、何故か恋する乙女のように潤んで見えた。


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ダーリンスレイヴ!
~魔王を倒した勇者の俺が、なぜかドS美女にM男調教される屈辱的な日々なんですが、多分「夢」ですね?~

第一話 完


生まれて初めて書いたお話ですので、稚拙な面はお許しください。
反響があれば・・・ いやいや、読んで下さる方がいれば、続きを書きたいと思います。

タイトル画像:https://pixabay.com/
画像製作者:Torulus https://pixabay.com/images/id-3144759/

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