客が豹変して危険な事になった話
煙草屋で勤務中、オヤジがいちゃもんをつけた挙句「店長を出せ」と怒鳴ってきたので、店長はもう勤務を終えたと伝えたが
「店長はもう……」
と妙な所で途切れ、深刻な雰囲気が漂った。
「え…どうして急に…」
と、客が狼狽え始めた。
店長の息子さん達が店長を休ませようと早めに店先に迎えにきて、強制的に下がらせた事を説明したが
「お迎えが来たので」
と、会話のセンスが皆無な為に、事態はより悪化した。
「そうか……俺もいつお迎えが来るか……」
と、何やらオヤジが弱気になっている。
私は、オヤジの待ち合わせ相手がなかなか来ないという意味かと思い
「煙草でも吸っていれば割とすぐ来ますよ」
などと申した為に、何の慰めにもならぬどころが喫煙でもして昇天を早めよとでもいうような追い打ちを与える結果となった。
オヤジが「……あの店長が……」と、明らかに意気消沈しているので、原因を探るべく先程までの会話を頭の中で復唱した結果、店長が天に召された説が浮上している事にようやく気がついた。
当の店長は奥の部屋で酒を飲みお祭り状態であるが、こちらは店先でお通夜状態である。
早急に誤解を解かねばならぬが「まだ息の根はあります」などとダイレクトに言い放てば、このオヤジの性質上、勘違いさせられたと、怒りが再燃されることが予測された。
どうすれば良いか分からぬなりに、頭を働かせた結果「店長が生きてる姿を見せた方が早い」と判断し、私はその場に立ったまま、店奥の自宅スペースにいる店長を大声で呼んだ。
しかし、オヤジからすれば
「てんちょぅぅう!てんちょおおぉう!」
などと突如叫び出す不気味な店員となった。
店長は少々耳が遠い為、全力のシャウトである。
もはや店長を偲んでの遠吠えのようであった。
人間界では主流ではない弔い方である為、オヤジは怯えた目をしてタバコを持ち、早急にこの場を立ち去ろうとした。
しかし、支払いがまだであった為、私はオヤジの手を掴み止め、店長を呼び続けた。
道連れに地獄に連れていかれると思った事だろう。
すると、奥からほろ酔いの店長が襖を開けて現れた。
客が一瞬止まった。
数秒後
「まだ死んでねえじゃねえか!」
と、ようやく理解したので「そうなんです」と肯定し、誤解を招いた事を謝罪しようとした結果
「そのようですね!すみません!」
と、仕留め損なった時の会話のようになってしまった。
命でも狙っていたかのような発言となった。
「コイツら、人が飲んでる時に何やってるんだ」と店長は思ったという。
【追記はこちら】
しばらくnoteの方に掲載できず申し訳ありません。
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