服をゴミに出したら怖い目にあった話
近隣の者が我が家に苦情を言いに来たが、庭に面した網戸越しに顔を出し返事をしたところ、勢いあまり網戸を突き破りダイナミックな登場を果たす事となった。
しかも「お待ちください」と声かけする途中で網戸に顔面が押し付けられた為
「おまえぇぇええええええ!!」
などと、来客を「お前」呼ばわりしながら飛び出す凶悪な住民と化した。
下手をすれば通報されかねぬ事態である。
「足を躓きまして……」と、苦し紛れに説明したが、足よりも人生に躓きかけている。
しかし、有難い事に相手も混乱したのか
「うちの子がお宅のおじいさんに突然怒鳴られたようで……」
と、目を泳がせながらも、とりあえず当初の苦情の内容を語り始めた。
お怒りになるのは御もっともである。
しかし、うちの祖父は既に他界している為、ホラー展開となった。
供養が足りぬのだろうか。
特に思い当たる節はないが、強いて言うならば、お盆の胡瓜の馬の足を爪楊枝で代用した為に多足になり、壁などを這い回りそうな風貌になった事くらいである。
原因は不明であるが、現段階の情報を寄せ集めた結果、網戸を突き破る狂った孫と、わざわざ近所の子供を怒鳴る為だけに蘇ったフェニックスのような祖父という、陰湿な一族が浮かび上がった。
気まずい空気が流れた。
「万が一に蘇っていたら、キツく言っておきますので……」
と、声をかけると、相手も何故か「すみません」と謝罪し、足早に去っていった。
恐らく大分序盤あたりから我が家から去りたかったのだろう。
足取りに迷いがなかった。
とりあえず仏壇に手を合わせたが、数日後、近所のホームレスの方が、私が捨てた学校の体育Tシャツを着用している事が発覚した。
ゼッケンを付けたままであったので、胸元にガッツリと私の名が入っていた。
蘇った祖父の謎は解けたが、今度はホームレスの方からどうゼッケンを回収するかで頭を悩ませる事となった。
結果、代わりのTシャツを数枚お渡し、ゼッケンをTシャツから取らせて頂けるよう打診する事にした。
背後から
「こんにちは」
と、明るく声をかけた後に
「着ている物を剥ぎ取らせて頂いてもよろしいですか?」
などと申した為に、フランクな追い剥ぎのようになった。
「なんだお前!?」
と、怯えた目で声を上げられた。
しかし、ゼッケンの話をして、祖父が蘇った説の話をすると、ホームレスの方もとい「タケさん」は若干震えながらも剥ぎ取る事に了承して頂けた。
一枚でも着る物は多い方が良いかと思い、Tシャツの方もゼッケンのみ外してそのまま使って頂く事にした。
しかし、タケさんが着衣したままゼッケンを外したので、結局胸ぐらを掴み追い剥ぎしているかのような光景となった。
後日、近所の噂好きのジジイから
「タケさんから、服剥ぎ取ったんだって?」
と、言われた。
「双方合意の上です」
と、答えたが、よく考えたら追い剥ぎについてを否定していないので、ジジイの中では恐らく合意の上の追い剥ぎというよく分からぬ事態となっている。
【追記はこちら】
警察まで現れたりなどした追記はこちらです。