家の前にタバコの吸い殻を連日捨てられ放置していたら怖い目にあった話
友人は連日に渡り自宅の前にタバコの吸い殻を捨てられ、為す術なく困っていた。
ある夜、私は自販機に飲み物を買いに外出すると、友人宅前で見知らぬ男が吸い終わったタバコを捨てている現場に遭遇した。
私は思わず
「捨てないでください……」
と、反射的に声をかけてしまった。
男はこちらに振り向くと、凄まじい形相で私を見た。
男はその時、暗がりに佇み月明かりに照らされる麻呂眉の落武者を見た。
T字のカミソリで眉頭を整えようとした私の末路である。
前髪を上げ両眉のバランスを整える事に尽力した結果、無事であった眉毛も麻呂となった。
両者共に夢であって欲しい光景であったと推測される。
しかし、望み通り夢であったとしても、大量に寝汗をかく類いの和製悪夢である。
私はこの男のどこか怯えたような表情は前述の「捨てないでください」の前に「タバコ」という主語が抜け、別れ話のようになった事が原因だと解釈し慌てて言葉を付け足した。
しかし、男が僅差で先に何者かと問いかけてきた為
「誰?」
「あなたのタバコです」
と、「先日助けられた鶴です」のような展開
となった。
タバコの化身が降誕してしまった。
鶴ならば助けられたという恩であるが、捨てられたタバコならば恐らく怨の方である。
迂闊に敷居を跨がせれば、機織りで生計を立てるどころか住宅全焼の危機が潜んでいる。
妙な緊張感の漂う雰囲気に耐えられず、私は一先ず笑顔で誤魔化す事にした。
しかし、何の脈絡も無く突然目の前で落武者が不気味な笑みを浮かべる恐怖の事態と化した。
近くでカラスが鳴き出した。
両者動けぬまま時が過ぎていたところ、友人宅の扉が開いた。
中から気の抜けた格好の友人父が現れた。
友人父は不気味に微笑む落武者と男のただならぬ雰囲気に当てられ動きが止まった。
祖先の霊が子孫と交流しているのだろうか。
数秒無言の時が流れた後、友人父は郵便物のの箱を取りそのまま家の中へ戻っていった。
関わらぬ方が良いと判断したのだろう。
私はこの場に友人父もいた方が良いと思い、追うように扉を叩きに行ったが、段差に躓き一通り気持ちの悪い動きを見せつけた後に、そのまま門にヤモリの様に付着した。
その様がよほど病的に見えたのか、男は逃げた。
友人父も出てこなかった。
今のところ友人宅前にタバコは捨てられていない。
【追記】
帰宅した後、手を洗う際に己の風貌が鏡に映り、非常に心臓に悪影響をもたらす思いをした。
友人父はあの後に
「落武者みたいのが外にいたけど、あいつがタバコを捨てているのなら下手に刺激しない方が良い」
と、家族に語ったという。
男の存在は抹消されたのだろうか。
喫煙していたのは男であり、落武者は吸っていない。とんだ冤罪である。
後に真実を聞かされた友人父は
「ごめん、不審者だと思ってた」
と、私自身にも衝撃が走る発言を残した。
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