電車でベビーカーの横でスマホを見ていたら知らない人が近付いてきて恐ろしい事になった話

電車でベビーカーを横に置きスマホをいじっていると年配女性が話しかけてきた。

赤子の年齢から入り、スマホをいじってはいけない、そのベビーカーの置き方では赤子が母親の顔を見えず良くないとご注意頂いた。
問題ないと伝えたが年配女性は納得がいかず酷く心配し赤子の様子を見ようとベビーカーを覗いた。その瞬間、年配女性の目には赤子ではなく赤子を模したリアルな人形が写った

ベビーカーは友人の物であり、その友人と赤子は運転席の方で外の景色を楽しんでいた。
私は何も考えずに年配女性に訊かれるがままに友人の赤子について「私にまだあまり話してくれなくて」などと返事をしていた為、人形を人間だと思い込んでいる者と化した。
しかし、私は自分が年配女性の瞳にどう映っているかなど知る由もなく、丁度良いので
「どうしたら喋ってくれるようになりますか?」
などと真顔でアドバイスを求めた為、よりホラー感が増した。

「〝ママ”とは喋るんですけどね。でも皆ママになっちゃうんですよ。可愛いですよね」
などと、友人の赤子について語りながらとりあえず年配女性の言う通りベビーカーを年配女性側に向けた。

更に友人達が戻って来た時の事を考え、人形を手に持ち赤子がすぐ座れるよう備えようとしたが、手を滑らせてしまい上空からベビーカーへ赤子人形を落下させてしまった。
その瞬間

「ボアアァァ…ァァ…バアァァ…ァ」

と、赤子人形が断末魔をあげた。
自我を失ったトトロが地の底から這い上がる際に発していそうな声であった。
別の友人が制作し赤子に贈呈した人形であり、衝撃を与えると「ママー」と喋るのだが、電池切れが近い為か妙な迫力を漂わせていた。

私が焦り更に振動を与えてしまったのか、地底のトトロは再び声を発した。
向かいに座るカップル達は赤子人形が呻き声をあげる度に下を向き震えている。
しかし、動揺を見せては恥ずかしさが加速すると思い、私はこんな事は何て事のない日常の一コマですよとでも言うように会話を続けながら再び振動を与える事によって、このデスボイスを止めようとした。

しかし、内心は焦っている為、中身の無い発言しかできず
「赤ちゃんて可愛いですよね」
などと言いながら、赤子人形の尻を殴打する異質な存在となった。
「可愛い…とても可愛い…」と呟きながら尻に振動を与える人間と、低い呻き声を発し続ける赤子人形という、蝋人形の恐怖の館にでも設置されていそうな不気味な空間が広がった。

すると、友人の赤子が笑いだした。
本来ならば赤子の笑い声で気が緩まるところであるが、文字で例えるのならば
「けきゃきゃきゃ!けきゃっ!」
と、笑い方が若干ホラーであった為、車両はより恐ろしげな雰囲気に包まれた。

どうやら友人の赤子はトトロの断末魔がツボのようであった。  
そして、友人は一向にこちらに来ようとはしなかった。
この状況にツボを刺激されたのか、背を向け小刻みに震え、私との関係性を他人で貫いていた。

静かな車両に、友人の赤子の笑い声と、赤子人形の断末魔だけが暫く響いた。

年配女性はその後、目を合わせてくれなかった。


【追記】
因みに、確かに電池切れが近く音が間延びしていたが、そもそも本当にデスボイスが録音されていたようであった。
好きに言葉を録音できる仕組みであったので、ご飯の時などに「一緒に食べよう」と録音したりと非常に重宝していたが、ある時旦那の悪戯によりデスボイスが録音され、それを赤子が気に入りしばらくそのままにしていたようであった。

私は友人の旦那を恨んだ。


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