鍼灸師10年目の「キャリア」を考える
今回は、「不妊治療と鍼灸」ではなく、鍼灸師のキャリアについてお話しします。日々勉強したことや感じたことをnoteに綴ろうと思い始めましたが、元々私はゴリゴリの臨床家です。普段の業務内容は来院した患者さんに対して適切な鍼灸臨床を実践することにあります。論文を読むのは体力が必要で普段やり慣れていないので違う話しを一回挟むことにしました。ただ、今回、お話ししようとしている「鍼灸師のキャリア」についても言ってみれば専門外です。しかし、キャリアコンサルタントなどの鍼灸を生業とされていない方よりも現場を経験してきたからこそ発信できることもあるかと思い、今回noteを書いています。したがって、キャリアコンサルタントの方のように系統的にまとめられた内容でもなければ、私見が入り混じった内容でもあります。内容にも偏りがあるかもしれませんが、少しでも鍼灸師としてキャリアを築きたい方のプラスになればと思っています。対象は鍼灸学生〜若手鍼灸師向けとなります。
大慈松浦鍼灸院および神保町十河医院附属鍼灸院の副院長として鍼灸臨床に携わっています松浦知史と申します。車と腕時計が大好きな29歳で11月にはついに30歳を迎えます。鍼灸師歴は8年目となります。保有している車はアウディQ3スポーツバックで、腕時計はロレックスのチェリーニとグランドセイコーです。26歳のときに一戸建ての注文住宅を購入し、27歳のときに男の子、そして29歳で女の子が生まれたため、二児の父でもあります。
さて、当院には鍼灸臨床研修制度があり、鍼灸師や鍼灸学生に触れる機会があります。そのような鍼灸師または鍼灸学生に対して「10年後どのような鍼灸師像を描いていますか?」と質問するようにしています。それは鍼灸師としての将来像を考えながら、自分に適した環境を考える時間を作ってほしいからです。ちなみに前述の質問に対して明確な答えを持っていて、実行に移せた研修生は今のところ1人しかいません。それだけに10年後の鍼灸師像を具体的に描き、自分の考える鍼灸師像に近づくためにはどのような知識や技術、経験を積めばよいのかを考えることが重要となってきます。
鍼灸師10年目までの流れを見てみよう
鍼灸師としての「キャリア」を考えるにあたって、まずは卒後10年目までの流れと、訪れるであろうターニング・ポイントについて見てみましょう。
専門学校あるいは大学:3~4年
就職先・臨床研修病院の選択
自分のキャリアの第1歩となるターニング・ポイントです。「とりあえず経験も積みたいし、大手チェーン店の説明会に行こうかな…」などと考えてしまいがちですが、鍼灸師としての将来像を考えながら、自分に適した環境はどんな鍼灸院かを考えてみましょう。最近では、大学病院などでも研修を希望することができ、業界の最前線で活躍している先生に指導をいただける機会もあります。
私の1stターニング・ポイント
私は卒後、大学病院などの医療機関での研修を希望しました。それは、①現代医学を幅広く学び、医師を含めたメディカルスタッフの各々の役割や業務内容などを把握したかった、②今後のキャリアを積むうえで鍼灸師としての差別化を図りたかった、③最前線で活躍している先生の下で勉強したかったなどが主な理由として挙げられます。それらの条件をクリアしたのが福島県立医科大学会津医療センターでした。同センターでは、鍼灸研修生は准職員としての役職を与えられ、日給が8,200円も支給されるため、学びながらお金をもらえる環境というのも魅力のひとつでした。
鍼灸師:2年目
転職活動・後期研修先・大学院への進学などの選択
実際に働き始めて臨床なども経験し、鍼灸師としての働き方もイメージがついてきた頃に、3年目以降の進路について考えなくてはいけません。別の職場への転職するかを考えているなら、その職場の雰囲気はどうなのか、給与はどのくらいなのか、など事前に情報収集が必要となってきます。これは前期研修から後期研修に移行する場合でも同様です。また、必ずしも就職する必要はなく、大学院へ進学し、臨床で感じた疑問を研究するなど進路は多様です。
最近であれば、全日本鍼灸学会が専攻鍼灸師ならびに認定鍼灸師の制度を制定したので、専門分野を選び、学ぶこともできるようになってきました。ですから、まずは自分が「ここに決めた」と思えるようなところを選ぶのがポイントかもしれません。
臨床以外の道
「どうも臨床がしっくりこない…」とそんな風に思ってしまうこともあるかもしれません。鍼灸師になったからといって臨床だけがすべてという訳ではありません。教員養成課程を経て教員になる道も、鍼灸の関連するメーカーに就職する道も、前述した大学院への進学を経て、研究者の道を進まれる方もいます。また、最近ではコンサルティング会社への就職などといった進路を選ぶ先輩もいます。
私の2ndターニング・ポイント
会津医療センターでの前期研修が修了し、その後の就職先は埼玉医科大学東洋医学科ならびに同大学かわごえクリニック、そして神保町十河医院附属鍼灸院の3施設を選択しました。鍼灸師として早く一人前になりたかったので、同時期に複数箇所の施設で実臨床を経験しました。ハードではありましたが選んで良かったです。それは都心部と地域、施設間における鍼灸の役割を肌感覚で学べると同時により多くの臨床経験を積むことができたからです。
鍼灸師:3〜10年目
都心部 or 地域?
キャリアを形成していく上でこの問題は常に念頭に置いておいたほうが良いです。「都心部で働きたい」「地元で鍼灸院を開業し、地域に貢献したい」「家族との時間を大切にしたい」など仕事とライフスタイルを考える際に、どのような場所でどのような形で働いているかというのも大事なポイントです。また、鍼灸師は腕だけではなく人柄も重視される職業のため、場所にこだわる必要も実はありません。相手が遠方からわざわざ足を運んでくれます。「ここだ」と思える場所を選ぶのがポイントかもしれません。
仕事にも余裕が出てくる
鍼灸師5、6年目くらいまでは、誰しもがむしゃらに仕事をします。一方で、それ以降となってくると、鍼灸臨床の基本的なことは、あらかた1人でもうまくできるようになります。仕事のリズムもわかってきて、仕事に強弱をつけられるようになります。また、家庭ができたりすれば、家庭の仕事も出てきます。それまでは仕事に打ち込んでいた鍼灸師も、家庭と仕事の両立に悩みながらバランスを調節するようにもなります。
自分の将来について考える
鍼灸師5、6年目くらいまでは、症状・疾患についての知識不足と経験不足、技量の向上などについて悩みます。また、鍼灸師10年目に近づくにつれて、自分の将来のキャリアをどうするかについても悩んできます。それは自分の描いていた成功のイメージとはかけ離れていたり、仕事の成功だけが人生のすべてではないことも分かってくるからです。
自信のついてきた鍼灸師であれば、開業も真剣に考える時期でもあります。ただし、鍼灸院は開業しやすいため、市場はすでに飽和状態です。またこのように飽和した市場で起こることは淘汰と寡占であり、開業した個人治療院の約8割が、3年以内に廃業する現象が現実に起きています。開業することのリスクを理解しておく必要があります。
私の3rdターニング・ポイント
埼玉医科大学に勤務して2年目からは、大慈松浦鍼灸院での勤務も始めました。つまり、同時期に4施設での勤務をしていました。各施設における仕様や来院する患者層にも違いがあり、鍼灸師としてのレベルを向上させるためにはこれとない環境でした。ただ、私にも家庭ができ、仕事との両立に悩む時期でもありました。家に帰る時間も遅くなりがちで、日曜日も学会などに参加する生活では家庭を円満にすることも容易ではありませんでした。
また、この頃から医学博士の取得を目指すよりも、地域に根差した鍼灸師としてキャリアを築いていきたい気持ちが強くなってきました。それは都心部と地域に従事することの良さも実感していたためです。鍼灸師としての経験を十分に積んでから、具体的な研究テーマを持って通信制の大学院へ進学するのも遅くはないと判断したため、現在の働き方になりました。つまり、家庭ができて仕事との両立やそのバランスの調節、何かを始めることに遅いことなんかない(むしろ経験を積むからこそ考え方が変わることもある)ことに気がつけだからこそ今の自分がいます。大学時代に思い描いていた未来像とは少し異なる部分はありますが、今は鍼灸師として働けていることに誇りとプライドがあります。
ここまで鍼灸師10年目の「キャリア」についてお話ししてきました。鍼灸学生なら、これからの鍼灸師としてのキャリアの積み方に夢を抱き、すでに鍼灸師の方であれば、10年目までのキャリアをどのように築いていくべきなのか真剣に悩まれるかと思います。実際、私も悩んでいます。これはがむしゃらに働いてきた鍼灸師であるほど悩むものです。
また、家庭を持つのであれば、家庭と仕事の両立は容易ではありませんが、家族と過ごす時間を大切にして、仕事にも熱意を持って業務を遂行してこその一流だと私は考えています。
次回、また余裕があれば、鍼灸師として成長するためにはどのような項目を達成すれば良いのか、また鍼灸院を繁盛するために必要なことにはどのようなことが挙げられるのかなどをお話しできればと思います。