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三角柱の残る一面
『幸せになる勇気』にある三角柱の話。
三角柱の持つ3つの面。
そのひとつには、
悪いあの人
もうひとつには、
かわいそうなわたし
では、残された最後の面には、何と書かれているでしょう?
「心の三角柱」残された面には
哲人:この三角柱は、われわれの心を表しています。いま、あなたの座っている位置からは、三つある側面のうち二面だけが見えるはずです。それぞれの面になんと書かれていますか?
青年:一面には「悪いあの人」。もう一面には「かわいそうなわたし」と。
哲人:そう。カウンセリングにやってくる方々は、ほとんどがこのいずれかの話に終始します。自身に降りかかった不幸を涙ながらに訴える。あるいは、自分を責める他者、また自分を取り巻く社会への憎悪を語る。
カウンセリングだけではありません。家族や友人と語らうとき、相談事を持ち掛けるとき、今時分がなにを話しているのか自覚することは、なかなかむずかしいものです。しかし、こうやって視覚化すると、けっきょくこのふたつしか語っていないことがよくわかります。きっとあなたも、心当たりはありますよね?
青年:…「悪いあの人」を非難するか、「かわいそうなわたし」をアピールする。まあ、そうとも言えるでしょうね…。
哲人:でも、われわれが語り合うべきことは、ここにはないのです。あなたがどんなに「悪いあの人」について同意を求め、「かわいそうなわたし」を訴えようと、そしてそれを聞いてくれる人がいようと、一時のなぐさめにはなりえても、本質の解決にはつながらない。
青年:じゃあ、どうするのです!
哲人:三角柱の、いま隠れているもう一面。ここにはどんなことが書いてあると思われますか?
一つの世界、複数の見方
この三角柱の話は、突然出てきたものではありません。
哲人は、「過去などない」という。
青年は、過去がないなんてのはめちゃくちゃな暴論だと噛みつく。
たとえば歴史。
私たちが学校で学ぶ歴史は、過去である。
しかし、哲人は、歴史も含め、過去というのは、「現在」という視座から作り上げた、単なる「物語り」に過ぎないのだ、と。
その証拠として、哲人は、あるカウンセリングの事例を紹介する。
ある男性が子どもの頃、犬に噛まれた。当時は野犬などがいっぱいいて、母親から、野犬に遭ったら、急に逃げ出したりしたらかえって危険だと教えられていた、と。
そして、男性(その当時は少年)は、ある日友達と遊んでいるとき、野犬に遭遇してしまう。
友達は逃げ、少年は親に言いつけられた通り、その場にじっとしていた。
ところが、彼は野犬に足を噛まれてしまったのです。
噛まれたのは事実でしょう。
だけど、この話には、本来「つづき」があったはずだ。野犬に噛まれたその後の話が。
哲人:カウンセリングの初期、彼は「世界は危険なところであり、人々はわたしの敵である」というライフスタイル(世界観)を持っていました。その彼にとって、犬に噛まれた記憶は、この世界が危険に満ちた場所であることを象徴する出来事だったのです。
しかし、少しずつ「世界は安全なところであり、人々はわたしの仲間である」と考えるようになってきたとき、それを裏づけるようなエピソードが掘り起こされていきました。
その男性がカウンセリングの回を重ねるうちに思い出した、「つづき」の物語とは、「犬に噛まれてうずくまっていたところ、自転車で通りかかった男性が彼を助け起こし、そのまま病院まで連れて行ってくれた」というものでした。
野犬に噛まれたという「事実」「できごと」は一つながら、光の当て方で、物語はまったく「逆の意味」を持つという事例です。
・親の言う通りしたのに、犬に噛まれた!「なんて絶望的な世界だろう!」
・犬に噛まれてうずくまっていたら、見知らぬ人に助けられた!「ああ、なんて優しい世界なんだ!」
三角形の最後の一面には何と書かれていたか?
三角形は、「わたしたちの心」を表しています。
ひとつの面には「悪いあの人」
もう一つの面には「かわいそうなわたし」
そして最後の一面には、
これからどうするか
と書かれています。
青年は、「しかし、もしもわたしの"これから"を真剣に考えるというのなら、まずは前提となる"これまで"を知っていただく必要があるでしょう!」と食い下がります。
しかし、それに対しても哲人は、あなたはいま、私の目の前にいる。だから目の前にいる「あなた」を知れば十分だと、却下します。
なおも食い下がろうとする青年に、最後、哲人はこう諭します。
(略)普段、われわれカウンセラーは、この三角柱を相談者にお渡ししてしまうこともあります。そして、「どの話をしてもかまいませんので、いまからしゃべる内容を正面にして見せてください」とお願いします。すると多くの方が、自ら「これからどうするか」を選び、その中身を考え始めるのです。
人の話を聞いてイライラするときって
昔、親友と絶交したことがある。
数年連絡を取らなかった。
それは、愚痴を聞いても聞いても、何も進まない、何も解決しないということを、次第に悟ってきたからだった。
というか、自分が愚痴を聞くことで、「ガス抜き」になって、また同じような失敗を繰り返しいて戻ってくる、そんな繰り返しに嫌気がさした。
私が当時、この三角柱を知っていれば、絶交しなくて済んだのかもしれないと思った。
これからどうするか
もしまた同じことが起こったときに備えて、私は今日、三角柱を作っておこうと思う。
それにしても、餅は餅屋だ。
心理カウンセラーって、すごい。
とりあえず、今から三角柱、作ってくる。
アデュー!