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屋久島ガイド連絡協議会設立|1999年|YNAC通信10号巻頭言|

(再掲にあたり、少し文章を改めています。)

1990年代後半、エコツアーガイドという仕事が少しずつ成長するにつれ、見知らぬ新規就業者や、島内の転職者が増加してきました。それにつれて外部からの懸念や反感、中傷、そしてガイド間での反目や対立が増え始めました。そんななかで粘り強くガイド間の協議を繰り返し、情報の共有と合意形成に努め、苦労の果てに発足したのが屋久島ガイド連絡協議会でした。

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4月、ついに屋久島ガイド連絡協議会が成立した。

屋久島のガイド中にはさまざまな人がおり、仕事を始めた動機も多様だが、その多くは屋久烏の自然の中で自然を活かし、自然を守る仕事に就くことを望んでいた人だ。しかし、そのような仕事に就くことは現実的には非常に難しく、世界遺産になった後でも、年間を通じて屋久島の現場で自然や利用者を相手にすることのできる内容の求職は皆無に等しかった。そのような中で私たちは、屋久島に来る人々に直接対応することのできるエコツアーガイドという仕事を見出してきたのだ。

ガイドという職業には、とても深い思い入れがある。

世界遺産に登録される前の1991年、鯛之川源流の原生林保護運動に関わった。その過程である地元雇用の国有林関係者から突然自宅に電話があり、「おまえは島の生活を何だと思っているのか!」と強く非難された。だが、「自然が残り、それを紹介することで、島が食っていける様にしたいんです」ということを必死に話し、最後に「…あんたの言うとおり、森を残して生活して行けるのなら、本当に良いんだが」と言ってもらうことができた。この経験は決して忘れない。

だからこのガイド連絡協議会の設立には、屋久島でも本当の自然を残すことによってこそ成り立つ業界が生まれたという重要な意味がある。

といっても、我々が自然の守り手だなどとうぬぼれるつもりはない。現実に今に残る屋久島の自然は、事実としてその価値を知った専門家、屋久島を守る会を始めとする島内外の有志、上屋久町・屋久町の議会、関係諸機関の心ある人々など、様々な先達の努力によって守られてきたものだ。

われわれは残された自然をうまく活用しながら、その素晴らしさをいかに楽しみ、遊び、学ぶか、その事を通じて自然の真の大切さが多くの人に伝わるためにどうすればいいか考えた。その現実的なアイディアの一つとして、エコツアーガイドという仕事は生まれた。

多様な自然の姿をもつ屋久島は、さまざまなスタイルのガイドを可能にする。古くからの「ガイド=山好きが日当を貰って山案内」という感覚は遠からず払拭されるだろうし、特にこれからの屋久島のエコツーリズムの充実に、ガイドは大きな役割を果たして行くはずだ。

現在、すでにガイドが誰かいつも山を歩いている状況が生まれ、それが登山道の清掃や、登山客への情報提供、安全管理などに大きな役割を果たし始めている。登山ガイドを別にすれば、国内でもエコツアーガイドは少ないし、職業としても若く、未熟だ。しばらくの間はいろいろ軋轢が生じてくることもあるだろう。しかし、屋久島のガイドはこれからも前向きに研鑽をつんで行く覚悟を決めている。暖かく見守ってやってください。

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追記

不完全な形ではありましたが、鯛之川の森は残り、淀川林道の奥から広々としたその姿を眺めることができます。それにしても本当にあの電話は強烈で、がくがくする手を抑えて必死に話したことは、いまだに記憶が鮮明です。

2000年代に入ってからですが、ある公式な会議で日高十七郎(ひだかとなお)町長から「ガイドの皆さんによって屋久島の山の安全が護られている」と評価していただいたのです。この時は本当に胸にこみあげるものがありました。

実は90年代初頭に設立された日本山岳ガイド連盟(現JMGA日本山岳ガイド協会)の関係者から、屋久島の人たちも、と内々に加盟を誘われ、そちらにも魅力を感じていたのです。またガイド連絡協議会設立にあたっても、その傘下に入るべきだという意見の人もいました。しかしエコツアーガイドは山岳ガイドとは異なる新しいカテゴリだと考え、屋久島ならではのあり方を確立しようと、最終的に独自組織とした経緯があります。現在は屋久島のガイド認定制度の要件の一部にJMGAのガイド資格も取り入れられています。

この辺りのいろいろな経緯に関心のある方は、ぜひYNAC通信のダイジェスト版『屋久島エコツーリズムの軌跡』1994 第一章「エコツーリズム」の松本毅さんによる10年ごとのまとめを参照してください。
https://www.ynac.com/mailorder.html

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