
【エッセイ】視察受入で講演した話
#エッセイ #四国ツーリズム創造機構 #持続可能な観光 #講演 #地域づくり
横文字のセンス
「それでは意見交換会に先立ちましてこちらの観光地域づくりについて実践されている『先生』にご講演いただきます。よろしくお願います!」
司会の方に言われ私は緊張していた。
ー 俺なんか全然『先生』じゃないっつうの。
2024年11月。
四国「持続可能な観光」推進ネットワークの12名の皆さんが先進地視察ということで私の住む町までやってきた。
私が住むのは北海道にある小さな町だ。人口約5,000人ながら農業と観光産業を軸にきらりと光る地域づくりと人材育成を実践している。
また観光地域づくりの先進地として観光におけるSDGsとGSTCにおいて認証も受けておりBTVにも選出されている。
と、横文字を並べられても実は何のことやら私自身もよくわかっていない。正直なところ最近横行している横文字の羅列には辟易としているのだ。
日本は横文字の頭文字を取って並べただけのセンスに疑問を抱かないのか。
DMOだがDMCだかPDCAサイクルやらKPIがどうの、SDGsとGSTC、UNWTO、JSTS-D、GXにDX、OPEN-AIがChat-GTPでもう、ぽんぽこぴーのぽんぽこなーのちょうきゅうめいのちょうすけ状態である。
(後半部が分からない方は寿限無をご参照ください) ↓
本当に大切なことは何か
だが持続する観光地域づくりにおいて本当に重要なのは金バッジやタイトルの獲得ではない。
そこに住まう人の住民満足度や収入増加実感に伴う幸福度と生活の豊かさなのだと思う。
その原資として観光資源と観光事業者の収益事業があり税収増があるのだ。
わが町ではズバリ雪にまつわるスキーリゾート事業が挙げられる。
たしかに様々な国際認証実績を経て、観光庁やら経産省などから補助金・交付金の類を頂くために、役人が作文を書く時の材料として獲得タイトルが有効なのは分かる。
しかしそのことを地域の観光事業者や住民は理解していないことが多い。
知られていないので誇りに思うこともない。
ということでせめて分かりやすいお話を視察に来られた皆様に、と思い私は約45分の尺を動画や手書きのアニメのスライドなども用いて説明させていただいたのだ。
難しいグラフ表や文字だらけのスライドは一枚も無しだ。
『この町に何が起きているか。
その結果どうなっているか。
数多ある地域課題解決のための財源はどうするのか。
そもそもこの地域が持続しないと困るのは誰か。
困る人たちが当事者となって活動しないと成果は得られない。
なぜなら困らない人たちは成果を出さなくても困らないからだ。
まちづくりは住民主体でこそ意味があり価値がある。
既住者、移住者ともこの町に暮らし続けたい人たちを増やすこと。
そのために教育と人材育成が重要であること。
観光振興や国際認証はその為の手段のひとつであるだけで目的ではない』
的な内容を何度も噛みながらたどたどしい説明で講演をさせてもらった。
大変僭越ながら今回の私の肩書は観光事業者の代表として、ということだ。まだまだ至らないことばかりで『しくじり先生』枠の話として視察受入の講話を引き受けてみたが皆さんに私の伝えたいことは伝わったのだろうか。
やっぱり最後は乾杯か
「えーそれでは懇親会の乾杯のご発声を本日講演頂きました『先生』にお願いしたいと思います」
ー 俺の場合、先生は先生でも『しくじり先生』枠だけどね。
と思いながら私はビールのグラスを持って立ち上がった。
「本日はありがとうございました。四国からはるばるお越しいただき改めて大歓迎申し上げます。このホテルは昭和天皇が昭和29年にお泊りになられた由緒ある施設です。それからこの町の観光を盛り上げていく気運が高まり現在につながっています。これから四国全体の観光がより一層、盛り上がることを心よりご祈念申し上げまして カンパーイ!」
昼間の真面目なムードと違って酒の席では会話も弾む。
話の中で印象的だったのは、四国四県といえどそれぞれの県民性の特徴がありそれが地域の歴史文化に紐づいて今なお県民の精神に宿っている、という点だ。
私の席の周りには愛媛、香川、徳島の3県の方が座っていたが高知の話をするときに少し揶揄するような、それでいて一目置いているような微笑ましい空気があった。
何か互いの四国愛、四国民としての誇りのようなものを感じた。
それは北海道移住者の私にはない土着の土地愛に似た感覚なのだろう。
話を聞きながらいつまでも四国が四国として持続して欲しいと思った。
今、日本の1700余りの自治体の内、4割にも上る数が消滅可能性自治体として挙げられている。
恐らく数十年の間にかなりの数の市町村の統合・合併が進み集約されていくだろう。
地方が生き残るためのヒントを先進地に視察してよき事例を取り入れていく。そんな場面がこれから益々増えていくのかもしれない。
タイトルやバッジも大事だが四国愛のような人と人のつながりが地域を持続させているのだと改めて実感した夜だった。
注がれたお酒が効いてきて、翌朝の犬の散歩は2日酔い確定だ。
『futsukayoi de inu no sannpo』頭文字をとって『FYDINS』か。
センスねーなぁ。