【エッセイ】一生の思い出になった日の話
#エッセイ #一生の思い出 #露天風呂付スイートルーム #犬の留守番
豪華すぎる景品ゲット
「最後の目玉はなんと、あの豪華ホテルペア宿泊券です!それでは番号を読み上げます・・・18番のカードをお持ちの方、おめでとうございます!」
「え!やったーパパ、私の番号だ!」
ある催しの余興の景品で最後の目玉をゲットしたのは12歳の我が娘だった。
私たち夫婦は思わず顔を見合わせていた。
ー ペア宿泊券てことは2人だよな・・・。誰と誰が行くことになるのか。
2024年11月末日まで有効。
裏には利用期限が記載されていた。
私たちが住む町のリゾートエリアにある高級ホテルのペア宿泊券だ。
この町は観光が主たる産業のひとつであり、町内のイベントでの景品などはこうした町内企業から協賛を募ることが多い。
そして経営理念として地域還元を掲げる企業からはこうしたお宝景品が惜しみなく提供されることがある。
「いやー、それにしてもすごい強運だね」
「ホント、こんなこと初めてじゃない!?」
宿泊券をマジマジと見ながら私と妻は興奮冷めやらぬ様子でいた。
「ねぇ、私が当てたから友達と2人で行っていい?」と娘。
「それはダメでしょ。子供2人はさすがに無理よ。私と2人で行こうよ。パパは犬とお留守番てことで」と妻が言った。
ー まぁ、なんとなくそんな気はしてたけど。
支配人の温かい手ごころ
5人家族の我が家の現在の居住構成は私と妻と娘と柴犬の3人プラス「ワン」の所帯である。
長男と次男は共に高校生で進学のタイミングで家を出て別の町で下宿中だ。
彼らには申し訳ないが今回の慶事は在住者の中で処理させてもらうこととしたい。
「とりあえず忘れないうちに、日程決めて予約入れないとね。期限切れで使えなくなったらもったいないし」
「じゃあ俺、支配人さんのこと知っているから予約が空いてる日がいつか聞いてみるよ」
ということでホテルの支配人さんに電話を入れた。
すると、「今からですと最終日が予約お取りできますがよろしいでしょうか。それと、広い部屋が空いているのでもしよろしければお子様の分を追加でお支払いいただければ3名様でお泊り頂けますよ」という嬉しい提案があったのだ。
「え!いいんですか。ぜひお願いします、ありがとうございます!」私は支配人さんにお礼を言いながら急に体温が上がったような気がした。
まさかこんな展開になるとは。
支配人さんにはこの場を借りて心から改めて感謝申し上げたいと思う。
いつか私がまかり間違って成功者になった暁には何かの形で御礼をしたいと思っている。
今のところ成功者になる予感はないが、御礼をしたい気持ちがあることは間違いない。
まぁ、大切なのは気持ちだし。
一生の思い出となる時間と空間
その日、仕事を終えて家に帰ると先に帰宅していた娘が犬の散歩をしてくれていた。
「パパ、もう5時半だよ。早く用意して行こう。ママは会社から直接行くってさ」と張り切っている娘に急かされた。
「おう。すぐ準備するから犬のエサ明日の朝の分まで多めにあげておいて」
はい!と返事をしていつもよりテキパキ動く我が娘の分かりやすさは親譲りなのだろうか。
「じゃあ、行ってくるね!朝帰ったら散歩行くから良い子で待っててね」
犬に留守番を頼み私と娘は車に乗ってホテルに向かった。
この高級ホテルまでは自宅から車で15分の距離である。
しかもルート上に信号は一つもない。
「あー楽しみだね!」
ホテルに着いてからも娘は浮かれていた。
「ママより先にチェックインして温泉に入っちゃおうかな」
「そんなことしたら逆鱗に触れて微妙な空気になるぞ。俺には分かる」
落ち着け娘よ。浮かれた時こそ平常心だ。
それから私たちに少し遅れて妻が到着した。
「ちょっとー、ロビーからいきなり何もかもすごいね。キャー、もうどうしよう」と妻も思い切り浮かれている様子だ。
そしてスタッフの方に案内されて部屋まで行くと、想像以上の豪華な空間が私たちを待っていたのだ。
なんと露天風呂付のスイートルームだった。
それからの滞在時間はまるで夢見心地だった。
これが世に聞く桃源郷の世界という奴だろうか。
桃源郷のような施設の詳細はこちら↓
「はぁー、ため息出ちゃうね。でも、こんなこともう二度とないだろうね」しみじみと私が言うと妻は「そうだね。もし宝くじで100万円が当たっても町内の高級ホテルに泊まろうは思わないもんね」と現実的なことを言った。
だから今回の思いがけぬ幸運は恐らく一生で一度きりの経験なのかもしれないのだ。
そして現実へ
「ただいまー!良い子にしてたかー。よしよし散歩行くか!」
私たちは車に乗ってわずか15分で桃源郷から現実に戻ってきた。
「あーあ。終わっちゃたね。また宿泊券当たったらいつか行ってみたいね」
「まぁ、世の中そんなに上手くいかないけどな」
「でもだから良いんだろうね。一生の思い出になったね」
幸せとは何か。
たまに訪れる幸運に感謝できる心のありようのことなのか。
娘よ。豪華すぎる景品ゲット、本当にありがとう。
いつか私が成功者になったらお返しするつもりだからこれからも強運で頼むね。と、受けた施しの返礼を相変わらず未来の自分に託してしまう不埒な心構えの私が成功する予定は今のところ無さそうだけど。
以上、今回は一生の思い出になった日の話。
明日もこの町によい雪が積もりますように。