高島屋で盗まれた金の茶碗、定価1040万6千円が買取で180万円【なぜこんなにも差が】美術品バイヤーが解説
白昼堂々の盗難事件
2024年4月11日に東京の老舗デパート、日本橋・高島屋にて衝撃の事件がありました。「大黄金展」の会場から約1040万円の純金製の茶碗が盗まれました。
店員や客だけではなく警備員も配置されていた中から日中堂々と盗まれたそうです。
無事、事件から2つ日後の4月13日に犯人が見つかりました。
しかしながら、既に買取店に売却済みだったそうです。
なぜ800万円以上の差が?
商売としては仕入金額と販売価格に差があって当然ですが、あまりにも金額差があってビックリした人が多かったのではないでしょうか。
この価格差の理由を美術品の買取を行っている立場から解説させていただきます。
結論、買取店の180万円はあまりにも安すぎる
ニュースを聞いてすぐ思ったのが安すぎるな・・と。
ネット上で手に入る情報からですがその根拠を紹介させていただきます。
では、販売価格を因数分解していきましょう。
基本的に貴金属はgあたりで金額が決められています。まずは盗まれた作品の重さを調べてみます。
高島屋のパンフレットを見ると盗まれた同様の作品は見当たりませんでしたが、400gの作品が約1130万円、300gの作品が約870万円と掲載されていました。そのため1gで割り返すと約28,000円となります。
盗まれた作品が約1040万円とすると、1040万を2万8千円で割ると重量は約370gと想定されます。
次に現在の貴金属買取相場を見ていきましょう。
業界最大手の田中貴金属さんの買取サイトを見ると24金で1gあたり12,061円(2024年4月13日時点)でした。
ちなみに純金=24金だと思っていただければ大丈夫です。
単純計算、370gの金を12,000円で売却したとして4,440,000円となります。
金の買取は行っていませんが、地金の買取業界の風の噂を聞くと利益率はかなり低いそうです。1~2%もざらみたいです。
なので、800万円以上の差があるのはかなり特殊なケースで普通の良識ある買取店では断られてしまったのではないか?と予想します。
美術品として見るなら販売価格の約半分が原価は妥当
盗まれた作品は金工作家、石川光一氏の純金製の茶碗
石川光一氏とは、今上天皇の皇太子時代のご成婚記念品や、大相撲の金杯などの製作を手がけ、内閣総理大臣賞も受賞した石川工房の三代目です。江戸時代から続く伝統を受け継ぎ、日本を代表する鍛金技術で知られている。
今回盗まれた作品は工業製品ではなく美術品・工芸品となります。それなりの付加価値がついて当然です。
一応、金そのものを購入する際は買取金額とどれくらいの差があるか見てみましょう。
こちらも田中貴金属さんのHPからですが、買取価格と販売価格の差は約100円でした。
今回の作品で見てみると、100円×370g=37,000円となりますが販売価格と比べるとほぼ誤差といっても過言ではないでしょう。
間接的な比較となりますが、同じ美術業界である絵画の原価と比べてみると、多くの作家はギャラリー(販売元)との取り分は折半となります。
ただ、作家が有名になり販売価格が上がっていくと作家の取り分が増えていくと言われています。
販売価格の約1040万円の内約444万円が素材代とすると、そこに職人の工賃がプラスされます。
そうすると、【有名な職人】が【日本橋・高島屋】で販売している作品の原価が約半分を占めているのは全くもって妥当と言えます。
まとめ
今回のニュースのように素材が180万円の価値なら少し高いかな・・と感じてしまいますが、上記のように因数分解して細かく見てもらえると納得感があるのではないでしょうか。
絵画や骨董などは販売価格がいくら高かったとしても、貴金属の芸術品みたいに地金としての価値は担保されていません。
資産+鑑賞する歓び、という側面を考慮すると、金工芸はバランスが良い作品かなと思いました。
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