タバスコ
コレ上手いな
彼が言った
そんなに美味しいの?
一口貰った
ウベベッべべ
酸っぱ辛い かけない方がおいしいよぉ
女神は未だお子様口だ
ピザにタバスコなんて自分からかけたことがない。
思い返せばあれは高校を卒業した夏
村の同級生にバッタリ帰省中の街中で出逢った
彼女のあだ名は トン
実家が養豚場を営んでいたから
ふっくらして真っ白なお肌にピンク色の頬
少し太っていた小学生時代とは比べ物にならないくらい
見違えるほど彼女は美しく成長していた
元々外国人のように抜けるような白い肌はそのままに
身長は170を超え ヒールを履き
ストンと伸びた手脚はしなやかで
ラーメン屋さんのエプロンを着けているのはとてももったいなく見えた。
あの中学までのどすこいボディは跡形も無かった
ビックリしていると
ファーフィット・フォーライフという本で痩せたの
とても高かったんだけどそれをやったの
何食べてるの?
辛いもの タバスコ
ピザにもラーメンにもドバドバかけて食べてるよ
真っ赤になるくらいこれでもかってね
そうなんだー!
トンは高校を中退して既に働いていた
学生しかしていないわたしには
とても大人びて妖艶に映った
タバスコにはそのイメージが付いている
ある日
お店であの緑色のタバスコを見つけた
カラフルでポップな箱入りのTabascoをわたしは買った
そして冷蔵庫の卵の下のポケットに入れた
決して食べないのに
なんだか嬉しかった
あれから何年が過ぎただろう
未だにそこにあるタバスコ
封の開けられることがなかったタバスコ
箱を捨ててみた
それからまた
しばらくして
ペリペリとプラスチックカバーを外し
匂いを嗅いでみた
ウベベッベッ
どこが美味しいんだろう?
まだまだ分からなかった
そして
食べるラー油をもうちょっと食べきれないやと
捨て
久びさに
焼き餃子を食べる時
ラー油がない!とハッとして
恐る恐る あの緑のタバスコに手を伸ばした
こわいのだ
あの味が
大人の妖艶な女性と化してしまう
あの味が
もし もし もし
美味しいと感じたならば
わたしは大人の妖艶な女であることに確定してしまうではないか‼️
憧れと軽蔑
そうとは思えない
感じられない自分を
清くも誇り高く思う一方でなんて未熟者なんだろうとも
ビールの美味しさもワインも
珈琲の美味しさも
タバコの美味しさも
わからない
わかるのはその匂いと苦味と酸っぱさや甘ったるさ
頭の痛くなるような揮発する何か
その周波数だけが
飲んだ食べたその人から伝わってくる
人を惑わす不浄なものぐらいの勢いで
タバスコも入っていた
食べてみて
ウン⁈
味が変わる
それまでの美味しかった餃子も美味しいけれど
変化球だ!
味の響き方が全然違う
そのままでも充分美味しい
いくらでも食べれちゃう
だ け ど
飽きる
そんな時が人間にはやってくる
わたしにもその時が訪れたようだ
大人の階段のぼる
君はまだシンデレラさ
シンデレラにもなってなかった
断固拒否してたと言ってもいい
とうとうそんな日が来た
寂しいような
物悲しいような
本当は決めていたんだ
タバスコを買った時に
彼とその階段をのぼろうと
でもその時は2度と訪れなかった
冷蔵庫のポケットでずっと待っててくれていた
賞味期限
… 。
タバスコで良かった
腐りようがない感じだもの
タバスコって^ - ^
ひとりシンデレラになって
恐る恐る
タバスコを色んなものにかけ上がってゆく
わたしは女神
ハムハム女神
今日もお腹いっぱい
ご馳走さま🙏