20代半ばの松村北斗似の消防隊員と付き合いたい
運がいいのか悪いのかわからない
と思うような出来事を
幾度となく味わうと
上には上がいるし
下には下がいる
という現実を説得力を以って説明出来る位には仕上がる。
今朝はそれはそれは慌ただしい朝だった。
目が覚めてSNSの通知を消化して
久々にゲームアプリを開いた。
しばらく夢中でこなしていると
サイレンの音が聞こえる。
治安どうなってんだよ。
なんて思いながらも指を休ませる事はない。
サイレンの音が止まった。
めちゃめちゃ最寄りやないかい!
私は携帯を放り投げカーテンを開けた。
ドアを叩く音と消防隊の声が聞こえる。
「すいません!!
どなたかいらっしゃいますか!!
すいません!!
...まだドアは開けない方がいい」
最寄りとはよく言ったもので
それはうちの建物だった。
「ベランダも鍵がかかってますね。
不動産屋さんに連絡して!」
緊迫した声が飛び交う中
私は猫ひろしスタイルという
完全なる無防備な出立ちながら
緊張感だけはグルグルに身に纏っていた。
出火してた場合持ち出すものは
SixTONESの日めくりカレンダーと
北斗のポスターと切り抜きと
北斗のうちわと...
と一通り優先順位を決めて
とりあえず着替えて部屋を出ると
既に野次馬が集まっている。
私のライブのお客さんよりいるわ
そんな悲しい事を思いながらその場面から状況を解析する。
状況を解析...
状況を...
え?
え?
真下かよ!
最寄りも最寄り、真下の部屋だった。
はい、話を整理すると
目覚めてゲームしてたら
真下の部屋に消防車3台来た。
ここまでいいかな?ついてこれてるね?
では時を戻そう。
(とにかくこれを言いたかった)
気がつくと私は消防隊の仕事を観察し始めた。
なぜならそれは
私の身に何かがあった際に
どのような動きで
私を見つけてくれるのか
知っておきたかったからだ。
ここからは私を見つけてくれるシュミレーションも兼ねて頭の中でイメージしていた。
ベランダの窓の小窓が開いたらしい。
「小窓が開きました!そこから臭気、熱気、煙はナシです」
よし!
私も自室からOKサインを出していた。
さあ次はどうする。
不動産屋と連絡がとれた様子。
「不動産屋は鍵を持っていないらしいです」
なに!!?
そこは消防隊よりも声を張ってしまいそうな位に驚いた。まじかよ。そんな事あんのかよ。
呆れ果てる私を置き去りに
消防隊は次の手を打つ為に報連相を繰り返す。
どうやらベランダから突入する事になったようだった。
火災報知器の音が聞こえる。
「ちゃんとトイレも確認して」
いつどんなお客さんがあるかわからないから
やはり日頃のお掃除が大事ね。
そんな事を思った。
それにしても火災報知器の音なんて聞こえなかったんだよなあ。
隣の青年の部屋に週末に来る笑い声が汚い女の
セッススに付随する声はゴルゴに一仕事依頼するレベルで聞こえるのになあ。
なんて思いながら建物の構造について推測しているうちに
消防隊は仕事を終えたらしい。
堂々と様子を見る為にコンビニに行く事にした。
その時には野次馬も私のライブのお客さんの方が多いくらいには散り
(目安がわかりづらい)
隊員は引き込まれた放水用のホースを片付け始めていた。
コンビニで買いたくもないものを買って戻ると
3台いた消防車は1台になっていた。
おそらく住人は不在だったのだろう。
私は消防隊員に話しかけた。
大丈夫だったんですか?
「はい!お騒がせしました!」
爽やかだ。
爽やかが過ぎるくらい爽やかだ。
北斗には全く似てないけど
悪くない。
脳内で嵐のLove so sweetのイントロが流れた
いえいえ。お疲れ様でした。
そう言って私は帰宅した。
ってこれ何の話だっけ。
と思ったあなた
消防隊がカッコいいという話ではない。
消防隊員と付き合いたいという話でもない。
私が、運がいいのか悪いのかわからない体験が異常に多い、という話。
おしまい(闇芝居風)