黒髪が1番
「やっぱり黒髪が1番ですよねー」
高校生の頃、美容師さんに自慢気に言った。
雑誌でも黒髪がモテるって書いてたし。
皆が校則を破って染めてる中、私は意地のように染めずにいた。
何の意地なのか、自分でもわからなかったのだけど。
初めて行った美容院だけど、美容師さんも黒髪だったから絶対同意してくれる、と思っていた。
多分、1度も染めたことがない黒髪を褒めてくれるだろう、なんておこがましい気持ちがあったんだろう。
バージンヘアーをブランドのように感じていた。
あと、自分が女子高生だということも。
あの頃は褒められることも、世界が自分を中心に回ってることも、当たり前だと信じて疑わなかった。
「今まで何色に染めたことあるの?」
「え、いや染めたことはないですけど」
「それじゃ、黒髪が1番なんて何でわかるの。そういう事は、経験してから言わないといけない。
僕はこれまで色んな色に染めたし、色んな髪型をしたよ。
その上で、やっぱり黒髪がいいと思ったから今はこの色にしてるけどね」
目から鱗が落ちる、ってこの事なんだって感じた。
怒られた訳じゃない。ただ、恥ずかしかった。
大学の入学式前日。
「あの…髪、染めようと思います。
傷んで見えたりするのが不安なんですけど…」
「わかった。任せて、可愛くするから」
初めての茶髪。
鏡の中にいる自分はもう黒髪でも女子高生でもない。
綺麗な茶色に染まった髪を触りながら、つい笑みが溢れた。
「私、茶髪似合うじゃん」
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