【旅掌編】ニューヨーク・ピッツァ
「ニューヨーク・ピッツァを食べたか?」
とニューヨーク・オフィスの、キレッキレに仕事ができるM(チャイニーズ・アメリカン)に聞かれた。
「ニューヨークで食べるイタリアン・ピッツァがニューヨーク・ピッツァだろう?」
と上海からの出張者である私(ジャパニーズ)は答えた。
3日目の会議が終わる頃、一緒に上海から来たメンバーY(チャイニーズ)に聞いた。
「今夜、食事どうする?」
「今夜はニューヨーク・ピッツァ」
なるほど、Mとだな。
「ジョインしてもいいかな?」
「ダメ!」
「なんで?」
「MとL(東京からの出張者。日本在住のチャイニーズ)と3人で女子会!」
Yとは基本英語で会話しているが、「女子会」だけ日本語で言われた「じょ・し・かい!」と。
あっさりふられた私はベトナムからの出張者G(ジャパニーズ)を捕まえて、前に何回か行ったことのあるいはイタリアンで、サシで食事をした。
まもなく私と一緒に働く事になる彼とゆっくり話をするいい機会だった。
彼自身のこと、家族のこと、子供の教育のことなどいろいろ聞けたし、自分の事を知ってもらえるようなエピソードも話しできて盛り上がった。
ホテルの部屋に着いたとほぼ同時にYからメッセージが入った。
「もうホテルに戻ってる?」
「私たち今からホテルに戻って2次会するの」
2次会だけ日本語になっている。に・じ・かい。
「ジョインする?」
「もちろん、着いたらメッセージちょうだい」
「ニューヨーク・ピッツァどうだった?」
3人はかわるがわるピッツァがどれほど素晴らしかったかを語った。
ひとしきり語った後に、Mが言った。
「あなたはニューヨーク・ピッツァのことを何もわかっていない」
その後は、仕事の話、東京オフィスのメンバー話、上海オフィスのメンバーの話など、溢れかえる話をしながら、笑い疲れるほど笑った。
この溢れかえる話は、中国語を軸に、英語と、ほんの少しの日本語で行われた。
スマートな彼女たちの言語の切り替え具合が素晴らしく、私は聞き惚れていたし、私の切り替え具合も結構いけていたと思う。
それぞれのバックグラウンドを抱えた4人が、ニューヨークのホテルのバーで、英語ではなく、中国語を軸に会話している痛快さが私だけでなく4人の心を貫いていたように感じた。
結局、私はニューヨーク・ピッツァのことを何ひとつわからないまま、上海戻った。
しかし、それは私がまたニューヨークに来なければならない、立派な理由になった。