【旅掌編】セント・キルダの桟橋
この記憶が正しいかどうか自信はないが、セント・キルダには桟橋があった。
夕暮れの気持ちのいい風が吹く時間には、男達が風に吹かれに桟橋に集った。もちろん女達も。
水は透き通っていて、魚影に手を伸ばすと、魚を掴めそうな気がした。
ここにいるとイーグルスみたいなバンドがなぜ生まれたかが良く分かる。
この男たちの一人が歌を口ずさみ、誰かがハモり、別の誰かが膝を叩けば、もうそれはイーグルスだった。
そこでイーグルスが流れてたわけではないが、流れているも同然だった。
「この桟橋はヒッピー桟橋だな」
私はずっとここにいなければと思った。
物理的にではなく。
あれ以来私はずっとそこにいる。
あるいは必ずそこに戻ってくる。
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