架空の「ガバメントクラウド認定試験」 #1~#4
はじめに
本記事に掲載されている「ガバメントクラウド認定試験」は、公式なものではありません。これは筆者が個人的に作成した架空の試験問題であり、ジョークとしてお楽しみいただくことを目的としています。
ガバメントクラウドや自治体システムの標準化に興味がある方々向けに作成していますが、難易度はすでにガバメントクラウドの検討に着手されている方を対象としており、一部の用語の説明は省略している場合があります。
なお、本内容は投稿日時点の情報に基づいている点にご注意ください。標準仕様書やガバメントクラウド関連文書群は随時更新されていますので、最新の正確な情報については、必ず公式の資料をご確認ください。
問題
それでは、「ガバメントクラウド認定試験」の問題に挑戦してみましょう。
第1問
第2問
第3問
第4問
閑話休題
さて、ここで問題の回答に進む前に、ガバクラ認定試験を作成するに至った元ネタとして、高橋さんのポストをご紹介します。
ぜひこちらもトライしてみてください。
Xの標準化界隈は非常に勉強になる情報や議論が活発におこなわれているほか、ユニークな方が多いのでおすすめです。
回答・解説
それでは回答編です。
なお、回答や解説は筆者本人の見解に基づいて記載されており、国の公式の回答ではありません。事業者・担当者によっても解釈が分かれる可能性がありますので、内容の取扱いには注意してください。
第1問
正解は、Cの「データの多重バックアップ先としてオンプレを指定する」です。
ハイブリッド構成については以下のようにガバメントクラウド概要解説のなかで説明されています。
上記の説明のうえで、具体的なユースケースごとに「図 6‑8 ガバメントクラウドにおけるハイブリッド構成の許容方針」がまとめられていますので、確認してみてください。
ちなみに、「6.5 ハイブリッド構成」は2024年2月の第5.3版にて追加されたものです。ガバメントクラウド概要解説を最近参照されてなかった方は再度目を通してみてください。
月に1回程度更新されてますので、定期的に確認が必要です。
個々の選択肢への解説をしてみます。
A) 不正解。災害対策は原則禁止の扱いです。ただし、「ガバメントクラウドでは、ディザスタリカバリ環境をクラウド上に構築することを想定している」としつつも、「パブリッククラウドが全面的に利用不能となるような大規模な災害を想定する場合はその限りではない」とされていることから、絶対にNGというわけではありません。
B) 不正解。機密情報保護は、原則禁止の扱いです。ただし、「ガバメントクラウド上への機密情報の保管は、所属する国の行政機関や地方公共団体のセキュリティポリシーに準じて検討すること」とされていることから、絶対にNGというわけではありません。
C) 正解。データの多重バックアップ目的でのオンプレミス環境の利用は、ガバメントクラウドにおいて許容されるケースのひとつです。ただし、「年1回等、複数あるデータバックアップの1つとしての補助的な利用にとどめる」こととされています。
D) 不正解。マルチクラウド構成は、原則禁止の扱いです。ただし「複数のクラウド間でデータ連携を行うようなマルチクラウドは例外的に許容する」とされていることから、絶対にNGというわけではありません。
【参考文書1】
ガバメントクラウド概要解説
6 必須検討事項
6.5 ハイブリッド構成についてhttps://guide.gcas.cloud.go.jp/general/overview-explanation/
【注釈】
GCASガイド自体は非公開とされていますが、「ガバメントクラウド概要解説」については公開サイト内から直接リンクが飛んでいることから、本記事でも引用させていただきました。
第2問
正解は、Bの「共同利用方式の場合、AWSアカウントのルートユーザーはデジタル庁にて作成後、地方公共団体に提供し、以後、地方公共団体が保有して管理する。」が誤った選択肢です。ほかは正しい選択肢です。
AWSアカウントにおいてルートユーザーは、最も強い権限を持ち、システムの所有者として位置付けられますが、単独利用方式と共同利用方式によって扱いが異なります。ルートユーザと管理者権限を持つAdminユーザーとはまた別ですので注意しましょう。
なお、R6年度以降は、GCASアカウントが主となるため、こちらも注意が必要です。GCASアカウントとAWS間の連携ではAWS IAM Identity Center(IdC)が用いられます。
ユーザ管理については地方公共団体がガバメントクラウドを利用する際のセキュリティ方式設計・セキュリティ運用の観点から非常に重要なため、これらの考え方は理解を深めておく必要があります。
【参考文書1】
ガバメントクラウド利用概要(AWS編)
2 ユーザー
2.1 ユーザーの全体像
※GCASガイド参照
【参考文書2】
ガバメントクラウドGCAS移行に備えAWS IAM Identity Centerを理解する
GCASガイドは非公開の扱いとなりますので、直接的な引用は避けています。別途参照してみてください。
サーバーワークスさんはガバメントクラウドに関するブログ記事を多数掲載されています。ぜひ参考にのぞいてみてください。
第3問
正解は、「B) AWS Network Firewall」です。
ガバメントクラウド推奨構成(AWS編)において、インターネット接続における推奨構成が記載されています(P74~76あたり)。
ガバメントクラウドでインターネット接続(マイナンバー利用事務系へのパッチ適用・ウィルス対策ソフトのパターンファイル更新、及びクラウドのManagement Consoleへの接続)を行う際に本構成を参考にすることが求められます。
解説文には「AWS Network FirewallやProxyサーバによるURLフィルタリングを行うことでインターネットとの通信が必要最低限になるよう制御する。」とあり、なんでもかんでもインターネットにつないでよいわけではなく、URLフィルタリングの導入を求めています。
AWS Network Firewallではなく、Proxyサーバ(Squid等)を採用することも可能と解釈できます。
なお、2024年5月22日公開の最新版では、少し構成が旧版からかわっていますので注意してください。
ちなみに、マイナンバー利用事務系におけるインターネット接続利用については「地方公共団体における情報セキュリティポリシーに関するガイドライン」にさらに詳細に規定されていますのであわせて確認することをおすすめします。
【参考文書1】
ガバメントクラウド推奨構成(AWS編) 令和6年5月22日作成
4.2 ガバメントクラウドにおけるインターネット接続
https://www.digital.go.jp/news/ZYzU5DYY/
【参考文書2】
「地方公共団体における情報セキュリティポリシーに関するガイドライン」(令和5年3月28日改定)
https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/kenkyu/chiho_security_r03/index.html
第4問
正しい選択肢はCです。
ファイル連携に関する詳細技術仕様書(第2.2版)において以下の記載があります。
よって、Cの「業務IDのペアごとにバケットを作成する」が正しい答えです。組み合わせをペアと置き換えています。上記の例にもあるように、「住民基本台帳ー印鑑登録」でバケットがひとつ必要です。仮に同じデータを複数業務に配るようなケースでもバケットを分けて格納する必要があります。
バケット数は業務IDの組み合わせから算出できますが、実際には機能別連携仕様上、連携が必要とされているかどうかが次第です。バケット数は最大で3桁になります。
ただし、各ASP事業者によってオブジェクトストレージの利用想定は異なるため(パッケージ特例を適用し、オブジェクトストレージを利用せず直接DB参照などをおこなう可能性があるほか、ファイルサーバ利用も認められる)、すべての団体で必ず同じバケット数になるということはありません。また、独自施策システムや外部システムついてもオブジェクトストレージを利用するかどうかは確認が必要です。
上記をふまえてすべての事業者に方針を確認し、連携一覧を作成し、それぞれ合意するプロセスが必要です。
補足ですが、パッケージ特例については以下の通りです。
これを誰がやるのかは明確に指示はありませんが、オブジェクトストレージ構築主体あるいは地方公共団体の職員がおこなうことになるとおもいます。
マルチベンダの場合は足並みがなかなかそろわず、相当の準備期間が必要になります。場合によっては複数回に分けてバケット作成をスケジュールする必要があるかもしれません。
これらの調整結果をもとに連携一覧は稼働後も継続して整備・改版していくことになります。
ほかにも考えるべきこともたくさんありますので、タスクリストを作って整理しましょう。構成によって異なりますが、参考までに一例を記載してみます。
連携一覧の整備
連携一覧の作成と維持管理
管理項目の確認(構築開始日、バケット名、ロールID、鍵一覧等)
他社調整(事前説明・配付、内容合意)
改版ルールの決定
方式設計における調整事項
認証認可方式の決定(特にマルチCSP環境での対応)
オブジェクトストレージとの通信方式選択(API、SFTP、CLIなど)
ネットワーク構成:通信経路の確保(特にマルチCSP環境での対応では重要)
環境構築における調整事項
IaCの開発
検証環境(疑似本番環境)向けのバケット活用方針 ※権限含む
専用バケットの作成
同一バケット内でのフォルダ分け
本番環境との共用
その他
独自施策システム向け業務IDの採番方法の決定
まずは詳細技術仕様書にさまざまな仕様が定義されていますのでそれを網羅しつつ、不足されている部分は各ASP事業者との調整になるでしょう。
統合運用管理補助者がいればよいですが、不在の場合は地方公共団体の職員さんの負荷が高くなりそうです。
【参考文書1】
ファイル連携に関する詳細技術仕様書(第2.2版)
https://www.digital.go.jp/assets/contents/node/basic_page/field_ref_resources/4d056a04-6eba-4109-9850-a786d3e71971/2cab888a/20240214_policies_local_governments_common-feature-specification_outline_20.docx
【参考文書2】
地方公共団体情報システム共通機能標準仕様書(第2.3版)
https://www.digital.go.jp/assets/contents/node/basic_page/field_ref_resources/4d056a04-6eba-4109-9850-a786d3e71971/7a1137c2/20240430_policies_local_governments_common-feature-specification_outline_02.pdf
【参考文書3】
「地方公共団体情報システム共通機能標準仕様書」に関するリファレンス
https://www.digital.go.jp/assets/contents/node/basic_page/field_ref_resources/4d056a04-6eba-4109-9850-a786d3e71971/c04234f7/20240214_policies_local_governments_common-feature-specification_outline_01.pdf
いずれも回答日時点の最新です。
リンク切れの場合は以下から確認をお願いします。
傾向
第1問
正解はCでしたが、Aが多数派でした。正答率が25.3%と低く、意見が割れていたのが印象的です。解説でもふれたとおり、他の選択肢も認められる可能性があります。
第2問
正解はBで、Bが多数派でした。一番正答率が高く、55.6%の方が正解されていました。
第3問
正解はBで、Bが多数派でした。半分近くの方が正解されていました。
第4問
正解はCで、Cが多数派ではありましたが、Aを選んだ方も多いですね。AとCはまぎらわしいので引っかかってしまった方がいたかもしれません。Aは誤りですのでご注意を。
おわりに
以上、4問を作成してみました。お疲れ様でした。全問正解した猛者はお友達になりましょう。
今回の記事はあくまでも架空の試験問題ですが、今後の自治体システムの標準化・ガバメントクラウド移行に対する理解が深まり、実際の業務で何か役に立つことを願っています。
なお、冒頭・途中にも記載した通り、実際の業務で活用される場合は、必ず最新の公式資料をご確認いただきますようお願いいたします。標準仕様書やガバメントクラウド関連文書群は随時更新されています。また、回答や解説は筆者本人の見解に基づいて記載されており、国の公式の回答ではありません。事業者・担当者によっても解釈が分かれる可能性がありますので、内容の取扱いには注意してください。
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