せなが
背中が臭すぎてもはや背中と呼ばれている田中との出会いは小2の頃だった
一緒のクラスになってから毎日の様に遊ぶ様になった
お互いの家に泊まっては仲を深めた
一緒に飯食ったり一緒に風呂入ったり一緒に寝たりしすぎてあの子らホモちゃうかと母親同士が心配していた程だった
田中の家の電話から「今日田中の家に泊まっていい?」と自分の家に確認を取る
「あんた泊まりすぎや!帰ってきい!」
とおかんにドヤされてはよく2人で抱きしめ合って嫌や嫌やと泣いていた
田中の家に泊まれた日には必ず夜にこわいビデオを借りて鑑賞した
今でも思い出に残る作品「死霊のはらわた」
当時は「しれいのはらわた」と読んでいた
今でも愛を込めてそう呼んでいる
両目を両親指でグイーーーンと押しえぐるシーンや何度、斧やハンマーで殴ってもケラケラと笑い続ける女ゾンビが印象に残っている
僕と田中は本気でビビっていたけど天才たーぼーだけはこんなもん作りもんやと一蹴しては終始、女ゾンビのモノマネをし過ぎながらケラケラと一生笑い続けるクレイジーだった
「あいうえお」が習得出来ずにいつも中国人の李じーなんと共に2人きりで居残り勉強をさせられていたただの純粋なクレイジー田中も天才たーぼーから「知恵遅れ」と攻撃的に名付けられた時には意味を理解できないでヘラヘラと一生笑い続けていた
鑑賞が終わると田中のおっちゃんが肝試しに近所の山へ連れて行ってくれた
深夜1時頃だっただろうか
その時間まで起きている事やその時間から外に出られる事がもうたまらなかった
小学生の頃の深夜ほどキラキラと眩しくてドキドキと輝くものはなかった
僕の家にはボットン便所しかなくてピンポンはなかった
だから友達が遊びの誘いに家の前までやってきた時
まいくは小さな声で緊張しながら「ばばくーん」と囁く
たーぼーは大きな声で可愛く「ばぁーばぁーくん」と叫ぶ
みんな子供ながらにそれぞれ親の手前だけでも気を遣ったもんだった
電話越しにお父さんが出ると緊張して名前にさん付けをしたり
そんな中、ギョウ虫検査のセロハンを思っ切り肛門から剥がしたんかの如く汚い声で「ぶぁぶぁーーー!!」とガサツに空気を切り裂くのが田中だった
「おーい直人ー田中君来てんでー笑」
「わかってる笑」
親も僕も田中が来た時だけ一瞬で笑った
田中とたーぼーと僕と僕の親父でお正月にマラソン大会に出た事が何回かあった
いつかのマラソン大会は大雨だった
びしょびしょになって走り終わりびしょびしょになって震えながら自転車で帰っている河川敷の途中でいっつも浅い川が大雨で溢れ返りなみなみと波打っていた
それを指差して親父が「田中泳ぐか?笑」
真冬で大雨
いわゆるボケでふざけで聞いたのにも関わらず田中は震えながら紫の唇で「ごめんおっちゃん今日はやめとくわ」と真剣に伏し目がちになんなら申し訳なさそうに断っていた
それを聞いた親父はアホやなこいつと愛しそうに笑っていた
田中にはガサツを補う様にピュアで天然な可愛いらしさがあった
僕が小4で転校してからサッカー以外では会わなくなっていった(田中ともたーぼーともサッカーチームが一緒で練習がある土日は顔を合わせていたけれど)
中学生になるとサッカーの試合でお互いの中学が対戦しない限り全く会わなかった
時々あいつ今何してんのかなと思う事はあったけど僕は中学生の時に携帯電話を持っていなかったので気軽にメールする機会もなかった
田中と再会したのは高校生になった時だった
偶然一緒の高校でしかも一緒のクラスだった
久しぶりの再開で興奮しまくり喋りまくりヤンキーやギャルにお前らうるさいねんと睨まれながらも関係あるかボケとはしゃぎまくった
久しぶりに会った田中はたーぼーと僕にいじられまくり弄ばれていたあの頃の気弱な金魚の糞ではなくなっていた
もうお前らの下っ端じゃないぞというか
たくましくうるさい一国一城の主になっていた
簡単に言えば田中はブラックマヨネーズの小杉から笑いのセンスを完全に抜いた様な男である
声と目と顔と態度とリアクションがでかいのでよく目立った
自分から冗談を言って笑いを取れるタイプではないけれど上島竜兵や出川哲朗からはっきりと溢れている様な愛嬌が田中にも完全に備わっている
田中の周りにはよく人が集まりよく笑いが集まり田中田中田中田中と呼ばれては人気者で誰からも愛される素質を持っていた
田中は自分のことをめちゃくちゃイケメンだと思っているしめちゃくちゃ天才だと思っているしめちゃくちゃサッカーが上手いと思っているしめちゃくちゃ面白いと思っているAB型だけれど全くそんな事はなくて実力も技術も備わっていないのに心意気だけは常に本田圭佑だった
実際にセンターバックで10番を付けてしまうイキり具合だった
それが時に痛く時に可愛く時には激寒いけれどやはり気になってしまうほっとけない存在である
最後に会ったのは5年前ぐらいの友達の結婚式だっただろうか
声が大きいだけで歌は決して上手くはないしただのデブではあるけれど田中は基本的に自分の事を木村拓哉だと思っているので友達の為に中島みゆきの「糸」を歌っていた
やっぱり上手くはなかった
どちらかといえば音痴である
でも気持ちがこもっててよかったとかでもなかった
下手やのに自分の歌声に自分が目立っている事に酔ってもうてる感じがしてきしょく悪かった
ドヤ顔で席に帰ってきた田中に「糸が絡まってボンレスハムみたいになってたで」と伝えると「うっさい馬場!!」(うっさいぶぁぶぁ!!)といつも通りの一個しか持ってないツッコミをほざかれた
ちなみに田中の「うっさい馬場!!」より僕の声が大きかった事は1度もなかった
田中の魅力を紹介する時に必ずお伝えしたいエピソードがある
あれは高校1年生の時だった
予定時刻より30分早く吉野家に到着した田中は息をするより当然に牛丼大盛りを頼んだ
ゆっくりくちゃくちゃと食べ終わった後
お会計にて「ご馳走さまでした!今日18時から面接の田中です!」
いや初めましてみたいに使うな
なんやそのきもいサプライズ
田中は面接の前に平然とお客さんとして牛丼を平らげたのである
例えば面接終わってから食べるとか
今日面接の田中なんですけども先牛丼食おうと思いまして時間より早く来ましたとか
そういうワンクッションがあればおかしくないけれどコミュニケーションゼロの状態でいきなりご馳走さまとセットで自己紹介ができてしまう神経は少しサイコパスだと思う
お前それって変じゃない?順番おかしない?と田中に聞いてみたところ
「え何が?普通やろ。ばり腹減ってたし」
本人は至って真面目だったけど
店長さんも田中みたいなパターンが初めてだったらしく驚きながら笑っていたらしい
当然田中に笑いの意味は理解出来なかったみたいだが
このズレというか妙が田中を現していると思う
その後3年間無遅刻無欠席で真面目に勤め上げた田中は入場曲こそダサいけどしっかりラリアットが出来るプロレスラーみたいだった
そんなハッピーボーイ田中にいつも連絡ができないのは
「本間みんな俺の事好きやな〜」の一員にされてしまうのが嫌だからである
悔しいけれど田中は友達が多いだろうし田中を好きな友達も多いと思う
悔しいけれど当然僕も田中が好きだ
でも田中が誰を好きで誰を嫌いかなんてどうでもいい
田中はめげない
田中は挫けない
田中は崩れない
田中は落ち込まない
だって田中は田中を世界一愛しているから
田中は圧倒的に自分を信じている
その迷いの無さやうぬぼれや自意識過剰が清々しい
あっぱれな生き方である
かっこよくないけどかっこいい男
おもんないけど面白い男
そんな田中に私はなりたいとは思わないけれどいつまでも田中が自分だけが特別で自分だけが正常で自分だけ正義で自分だけが普通で自分以外がおかしくて自分以外なんかどうでもいいんじゃボケとめちゃくちゃ滑りながらも一生人生に蹟かずに楽勝で生きていてくれているのならば嬉しいなあと思う
気持ちがブレそうになったり自分の糞さに吐き気がする夜には田中の臭い背中を思い出して自らを鼓舞するのだった
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