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舞台「もしも彼女が関ヶ原を戦ったら」感想
はじめに
IMMシアターにて絶賛公演中の舞台「もしも彼女が関ヶ原を戦ったら」を観てきました。これを書いている時点では明日の千穐楽を残すのみとなっているので、ほとんどの方が観劇済みとはおもいますが、ネタバレありの感想になりますので、ご注意ください。
また、小早川秀秋および山井飛翔くんに偏りまくった感想となりますので、併せてご了承いただければ幸いです。
小早川秀秋という武将
DARMA2024に続いて、山井飛翔くん2回目の外部舞台出演が決定!という報を見て、想像していたよりも早い出演におどろくと共に、今回はどんな内容のどんな役をやるんだろうと公式サイトを見てみたらなんと「小早川秀秋」!!関ヶ原の合戦で東軍に寝返り、西軍が敗北するキッカケとなった武将という、ややマイナスイメージな教科書程度の知識はあったものの、それ以上はなにも知らなかったので速攻でググってみたところ「豊臣秀吉の甥」「秀吉の養子となるも実子が生まれ養子に出される」「7歳で元服、15歳で朝鮮出兵、18歳で関ヶ原、21歳で肝硬変のため逝去」と彼のトンデモない波乱万丈な人生を知ることに。
性格も「アルコール依存症で酒を飲むと暴言暴力をはたらく酒乱」と書かれつつも、「気が弱く小心者」とか「幼少期は舞や蹴鞠が得意だった」とか山井飛翔くんに似た一面もあり、一体この作品では小早川秀秋がどんな風に書かれ、山井飛翔くんがどんな風に演じるのかと観劇日を楽しみにしていました。
いざ観劇
ネタバレ感想を書いておいてなんですが、個人的に物語は一期一会とおもっていて、登場人物の生きざまを自分の五感で感じたいとおもっているので、可能な限りネタバレを目に入れないように心がけて観劇当日を迎えました。
山井飛翔くん演じる小早川秀秋(以下、小早川つーちゃん)は、とても見目麗しい見た目ながら、その中身はめちゃくちゃサイコパスで、頭も性格もキレている美少年というのが初見の感想でした笑
「妖艶」すぎる小早川つーちゃん
小早川つーちゃんを一目見た時の感想は「かわいい」ではなく「うつくしい」でした。鋭い視線にツリ目のメイク、揺れる総髪とうなじの相乗効果もあって、見た目にも色気がすごくて、周囲の方との身長差もあって魔性の少年、あるいは傾国の小姓(森蘭丸のような)という妖しくも艶っぽい雰囲気をかんじたのですが、観劇するうちに彼の内面から来る色気が小早川つーちゃんのオーラとして色気を纏ってるんだなと気が付きました。
序盤に書いたとおり、自身が望んだわけでもないのにその出自のおかげで周囲の大人たちの都合で波乱万丈な人生を歩まされた小早川秀秋。
現代風に置き換えるなら、子どもの頃から周囲の大人たちに言われるがままに習い事や勉強に打ち込んだけれど、結果が出なかったがために大人たちがそれまで一生懸命やってきた習い事や勉強を取り上げ、「この子はダメな子」と烙印を押されたような状況で、グレてしまった小早川秀秋といった感じでしょうか。
生きること、生きる意味目的なんて全て大人たちに着せられたものでしかなく、誰かに利用されるだけの人生。彼の生まれが、生きた時代もあるでしょうが、周囲の大人たちを信用しなくなり、世をひねて、どうせ利用されるだけの人生なら、いっそ自分がおもしろいと思うがままにふるまってやる!となったのが舞台に登場した時点での小早川秀秋なんじゃないかなとおもいました。
「ぼくサバ松山くん」との相似
大人を信用せず世の中を斜めに見てるという点で、小早川秀秋というキャラが、映画「ぼくらのサバイバルウォーズ」で山井飛翔くんが演じた松山くんとあまりにも似ていることに気付いた人も多いとおもいます。
小早川つーちゃんが最初に発する、いかにもといった偽悪的な笑い方。まさにぼくサバで松山くんが登場したときの笑い方と同じすぎて、この笑い声を聞いた瞬間に、これはまた沼に落ちざるを得ない当たり役だと直観しました笑。
いいですよね、世をひねて拗ねてしまった少年。大好きです。
「色気」の根源
話は少し逸れましたが、小早川つーちゃんの色気の根源は、立身出世どころか人生さえも、引いては自分の命さえも捨てている事にあるわけです。
命を捨てているということは、死にたがりというわけではなくて、自分の命さえもどうでもいいとおもっているという事で、自身をとりまく世界のすべてに絶望し、虚無をのぞき込んで、破壊衝動にあふれてしまっている状態で、「面白さ」のためなら全てを犠牲にしてしまいかねない危うさ。
風と木の詩のジルベールのように自己破壊の衝動にかられていなかったのがほんとうに不幸中の幸いですが、同じようにタナトスの危うさが艶やかな退廃的エロティシズムとして立ちのぼっている少年。
小早川秀秋をこんな風に演じてくるとは思いもよりませんでした。
「面白くない」世界
小早川つーちゃんが、他の戦国武将たちが話しているとき、身じろぎもせずただただ鋭い眼光を飛ばしながら話を聞く姿。
真剣に話を聞いているならば、話の最中にうなずいたりするものですが、まったくそんな素振りもしないという、もはや話を聞きながら心の刃を研ぎ澄ます、反抗期の少年みたいなムーブです。きっと彼の心のなかには「面白くない」という想いが去来していたことでしょう。
それでもただ、話を聞いていないわけではなく、時に思案をめぐらせるように、話者から目線を外して斜め下に目を伏せていたのが印象的で、他の武将の話のなかで自分が「面白い」とおもえる着想を得られるヒントになるものがないかをずっと探っていて、すべてに絶望しながらも「面白い」という価値観に執着しているのが見て取れるシーンでした。
「面白い」とはなにか
小早川つーちゃんにとっての「面白い」とは、世界に絶望しきった彼が見つけた、唯一の執着であり、生きるうえでの指針であり、希望だとおもいます。
物語の序盤では「大人を出し抜くこと」「毛利元就を思うままにあやつること」が彼にとっての「面白い」だったようにかんじました。
彼にとっての主君である毛利元就。戦国時代においては主君は世界の代名詞であり、小早川つーちゃんにとっても、望んで仕えているわけではないにしろ権威であり「大人」の象徴であったこととおもいます。
絶望しかない世界を作り変えることは周囲の大人を出し抜き、大人の象徴である毛利元就を意のままにすることと同義で、「PREP」を駆使して毛利元就の意見を作り変えていくときの小早川つーちゃんは生き生きとして楽しそうで、生のよろこびにあふれていました。
「面白き こともなき世を 面白く」幕末の志士、高杉晋作の句ですが、これを図らずも?体現しているのが小早川つーちゃんです。
「面白い」の変化
関ヶ原の合戦の最中、史実通りに東軍に寝返る予定だった小早川つーちゃんが、寝返らず西軍の味方として参戦し、物語は史実をくつがえすこととなります。
「石田殿の戦い方、実に面白い」と言って参戦しましたが、果たして彼の「面白い」というアンテナに石田三成が本当に引っかかったのでしょうか?
個人的にはそうは思えません。
戦況を見守るなかで、自分が「世界の命運を変えられる立場にいる」ことに気付き、これまでの「面白い」の最大の対象であった毛利元就から離れ、戦場へと赴いたのではないでしょうか。
自分を取り巻く大人たちが支配していた世界から、自分が直接世界と対峙して、自分が面白いと思える、自分が生きたいとおもえる世界に変えられるという希望を胸に、自ら戦場に飛び込み刃を交えていく姿。
物語冒頭の彼のままであれば、破壊衝動にあふれたただただ戦闘狂にしか見えなかったであろう姿ですが、「面白い」が変化した彼の表情は、刀を振りながら高笑いするでもなく、人を殺めてニヤリとするでもなく、口を閉じ、とても凛々しく自らの道を切り拓いていく男の表情となっていました。
切り結んだあと、石田三成をおちょくる姿は、これまでの「大人を馬鹿にした」感じとはちがう、成長させてくれて「ありがとう」という感謝の念すら感じられる愛のあるイジりになっていたように感じられました。
これら全てが小早川つーちゃんが物語のなかで成長した証だとおもいます。
殺陣
ダルマ2024では役柄的にカッコいい殺陣とはいえないシーンしかありませんでしたが、今作では山井飛翔くんらしい、綺麗なターンを活かした回転切りや、階段を駆け上がりながらバトンのような刀裁きを見せてくれて本当に感動でした!!
そしてダンスのような華麗さだけではなく、力強いタメとキレのある刀裁き。相手をまとめて突き刺し、タメを作ってから刀を抜きつつその勢いで反対側の相手を斬り、クルリと回って相手の首元から縦に背骨を貫くシーンはダルマさんが降臨していたとしかおもえなかったし、山井くんが殺陣師さんにこういう動きを入れたいと言ってたら最高だなと妄想してしまいました笑
自分が見た回の中で、最後の納刀に失敗して刀を鞘に納められなかった時があったのですが、まったく動じずにそのまま納めなおすこともせず、鞘と揃えて持ったまま日替わりのアドリブシーンを演じてたのも、ファンとして誇らしかったです。
最後に
みなさんもご存じのとおり公演初日の夜、ジュニア界隈全体を大きく揺るがす出来事が発表されました。
私たちファンだけでなく、当事者たる本人が一番不安な状況。そんな中で、観劇に来てくれたひとにそんな不安を感じさせず、この舞台を楽しんでもらおうと翳りの表情ひとつ見せずにステージに立つ山井飛翔くんの姿。本当に素晴らしくて、本当に誇らしくて、本当にカッコよくて、まさに「SHOW MUST GO ON」の言葉を体現してくれていて。
衝撃的な発表を目にしてマイナスな感情にへこんでしまった自分が恥ずかしくなるほどです。
つらさも、苦しさも、悔しさも、それら全てのマイナスを煌めきに変えて光輝く世界に立つ山井飛翔くんと同じように、マイナスな感情も応援に変えていきたいと思える舞台でした。
もはや、「つ俺誇」の心境です笑
ぼくサバやダルマ2024を思い起こさせる、経験を糧にして成長した演技を見せてくれた山井飛翔くんに、これからもたくさんの演技のお仕事が来ることを願ってやみません。
そして山井飛翔くんにこんな素晴らしい機会をくださったキャスティングの方々、主演を務めると共にたくさんのフォローをしてくださったであろう五関くん、その他この舞台に関わったすべての人に、感謝の言葉を贈りたいとおもいます。
いつものことですが、4000字超えの長文となってしまいました。
最後までお付き合いいただき、誠にありがとうございました!