3分クッキングをどうやって壮大にしたか
2月に公開した、3分クッキングでおなじみのあのメロディをトイピアノとグランドピアノを使ってアレンジした動画が140万再生突破しました。本当にありがとうございます。
キユーピー3分クッキングのテーマ曲はそれ自体として非常に有名ですが、元々はレオン・イェッセルというドイツの作曲家が作曲した「おもちゃの兵隊のマーチ」という曲に基づいています。僕もこの動画を作るまで知りませんでした。
この楽譜を作ったので、僕がどんな事を考えたかをちょっと文章化してみたいなと思ってこの記事を書いています。トイピアノと普通のピアノの両方を用意しないと弾けない楽譜の需要がどこにあるんだ??知らねえ、暇なので書く
未来のピアニストの何らかの助けになれば幸いです!有識者の補足も大歓迎です。
対象読者:音楽の仕組みに興味がある人(理論を知っていれば勉強になるし、知らなくても読み飛ばす程度なら楽しめると思います)
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まず3分クッキングのテーマはトイピアノで始まります。トイピアノの音色はこの曲にぴったりで、原曲の雰囲気を良い感じに再現してくれます。その後3拍子のワルツ調に変化し、右手はトイピアノ・左手はグランドピアノで演奏してきます。
壮大ポイント1: 半音上転調
55小節目(0:58)で、ハ長調から変ニ長調に転調します(半音上)。半音上に転調する時に僕がよく使うテクニックで、Key:CのIの和音の第1音とKey:D♭のVの和音の第3音はどちらも"C"なので、この音を軸にしてCと思いきやA♭7 みたいな転調をします。ハ長調は割とオーソドックスな響きであるのに対し、変ニ長調というのは、温かみのありかつ華やかな響きになりますよね。
壮大ポイント2: USTの響き
60小節目(1:01)のここA♭7の上にFのトライアドが乗っている形になっています。あまり普通でない響きをするかもしれません。しかしこの響きはとても美しいのです。例えば、Everything / MISIAのサビ前のコードがこれです(調もおなじ)。マジで好き
アッパーストラクチャートライアド(UST)などど呼ばれたりします。[コンディミニッシュスケール UST]とかでググると面白いかもしれません。
壮大ポイント3: 可愛いメロディを修正
67-72小節目(1:08-1:12)、ここは原曲とはメロディ自体が異なっていることがわかると思います。本来ではここで5度上のA♭に一時的に転調するような形を取ります。しかしこれは今の3拍子で流れるような雰囲気の中には少し可愛すぎる気がしちゃうんですよね。そこで、一時的に短調のB♭mに転調する形を取ることで、感情の起伏を加えます。本当はメロディ改変はあんまりしたくないんですけどね、やむを得ずです。72小節目で、フッと力が抜けて元の調に戻ります。こうすることで73小節目からの再び現れるメロディに「安堵感」が生まれるのです。
壮大ポイント4: SDmと部分転調
85小節目(1:22)からは、いよいよ壮大たる部分が現れてきます。主旋律のモチーフを意識しつつ自由な進行で展開していきます。87小節目(1:24)のG♭m6はサブドミナントマイナーといって、機能的にはドミナントV7なのですが、IVmにリハーモナイズするだけで途端に感動的なハーモニーになります。基本的ですが、効果は絶大。この曲のあらゆる部分で出てきます。
95小節目(1:30)はA♭をBの13thと捉えたピボットで、部分的に転調します。その後4度上行を繰り返して99小節目のD(1:34)に辿り着きます。これが変ニ長調におけるドミナントA♭7の裏コード(トライトーン)に相当します。この6小節は空気が変わっていることを感じていただけると思います。
壮大ポイント5: I/Vを半音下げるヤツ
105-109小節目(1:40)を見てください。D♭/A♭→C/G→E♭m7というコード進行が僕はとても好きです。なんて言えばいいんだろう。堂々とした姿に垣間見える不安、みたいな...
山中惇史さん編曲の赤とんぼのここ↓とかで出てきます。ところでこのアレンジ本当に美しいのでぜひ聴いて特に中間部...
壮大ポイント6: 同じフレーズの短3度転調
109小節目(1:42)と113小節目(1:45)を聴き比べてみてください。短3度の関係で、同じことが繰り返されていることに気づくと思います。短3度上/下というのは移調しやすい調で、浮遊感や期待感が生まれたり、さらなる緊張が生まれたりします。この場合は浮遊感、ですね。葉っぱ隊の最初とか紅蓮の弓矢イントロとか「龍馬伝」OPテーマ曲とか。パッと思いつくだけでも色々あります。
壮大ポイント7: 余韻の中で鳴るトイピアノ
一番盛り上がった後に回想のような雰囲気になるというのは、ディズニーの曲なんかでよくあるようなイメージがしますね。具体曲思いつかないけど。というのも、この手法ってとても映画的なんですよね。つまり映画って、最後に必ずエンドロールが流れますよね。これによって、盛り上がって終わった後に、映画全体を振り返ることで余韻に浸ることができるんです。曲のクライマックスを最後の最後に持ってこないというのも、壮大さを演出する一つのトリックかもしれません。
壮大ポイント8: 徐々に大きくなる拍感
この動画を説明する上で重要なポイントがもう1つあります。それは徐々に拍の取り方が大きくなっているということです。気づきましたか?
初めは非常に小刻みなリズムで始まります。3拍子に変化したら少しだけゆったりな拍になり、転調後はどちらかというと1小節ごとに打点があるような拍の取り方に変化していきます。85小節目(1:23)で、完全に打点は1小節ごとになりますね。このように、段々と拍を大きくすることでだんだんスケールが大きくなっていくのです。
打点を1小節ごとにする上で大切なのが、3拍目の裏のゴーストノートの扱いです。これがあるのとないのとでは、推進力が全く違います。これがないと少し間延びした感じになってしまいますね。これ完全に無意識でやってたのですが譜面化して初めて気づきました。
壮大ポイント9: スタインウェイピアノ
そりゃ壮大な音も出るわ。買いたい・・
興味を持った方は楽譜の方もぜひ。次の楽譜を作るモチベーションになります。トイピアノがなくても、ピアノの高音の方で十分に代用可能です。
ちなみにチムチムチェリーも販売開始しました。