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優しい同級生
小学校4年か5年の頃のこと。
私は大人しくて自分の意見を言える子どもではありませんでした。
いじめられても何も言えず、誰にも相談できない子どもでもありました。
ある日の給食の時間の出来事。
列に並んでパンやおかずを当番の子に入れてもらっていましたが、その当番の子が、私の食器にお玉でポンと一滴だけシチューを入れたのです。
私は「えっ!」と思ったのですが、何も言えず、何事もなかったように席に戻りました。
いじめるのが楽しいという感じのその子には関わりたくなくて、今日はこのまま黙っていようと思いました。
「パンも牛乳のあるし、これだけあればいいかな」
席について「いただきます」の合図があって少しすると、思いもかけないことが起こったのです。
少し大袈裟かもしれませんが、私にとっては嬉しいというよりも、その行動をしたもう1人の当番の島本君の大人過ぎる優しさにびっくりしたのです。
気が付くと、島本君は私の横に立っていて「おかわりいるよね」と、私の点しか無いシチューの入れ物に、たくさんのシチューを注いでくれました。
諦めから一転、私は大好きなシチューを食べることができたのです。
島本君の【おかわりいるよね】は一点の戸惑いもない言い方で、実にスマートに私の心に届いて、惨めな気持ちを優しくし癒してくれたのです。
島本君は小柄で色黒。
ガキ大将でもなければ、からかわれやすい感じでもなく、静かだけど大人しい感じでもなく不思議な感じの子でした。
私は、そのあと島本君にお礼を言っていない。
ずっと「礼儀のない人間だったな」と悔いています。
ある日、島本君が入院をして学校を休んだ時がありました。
怪我だったのか病気だったのか忘れてしまいましたが、私は同級生の子と数人でお見舞いに行きました。
学校以外でどんな顔をして会ったらいいのか、照れもあって持っていったお見舞いの品を「ポン」とベットの上に置いて、私達は走って病室から出て行ってしまったのです。
何を持っていったのかは忘れてしまいましたが、また失礼な行動をしてしまって、それもずっと悔いが残っています。
中学校は別になったようで、同級生に島本君はいませんでした。
その後、島本君に逢うことはありませんでしたが、ずっと感謝の気持ちで、私の心と脳にポジティブな思い出として残っています。