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企業価値担保権を追うvol.5_他の担保権や保証との優劣はどうなる

企業価値担保権は物権であり、信託契約の締結時ではなく商業登記簿への登記によって効力が発生する。
担保権であれば、他の物権との優劣や、債権である経営者保証などとの関係はどのようになっているのか。

数個の企業価値担保権相互の順位は、その登記の前後による。

事業性融資の推進等に関する法律16条

企業価値担保権は重複して設定することが認められている。
会社の総財産をいくらと評価するかで、2番手以降の企業価値担保権者が現れ、或いは同時に設定して早い方が優先されることもあり得るだろう。

他の「担保権」との関係は以下のとおりとなる。

企業価値担保権と他の担保権との優劣

「対抗要件具備」とは、不動産抵当であれば抵当権設定の登記申請、動産質であれば占有の継続、債権質であれば質権設定登記(確定日付ある証書による第三債務者に対する通知・承諾でも可)となり、この日付と商業登記簿の日付の比較となる。
同日の場合、オンライン申請であれば申請の時間まで正確に記録されているため、この前後になるのであろうか。

債務者は、企業価値担保権を設定した後も、担保目的財産の使用、収益及び処分をすることができる。

同20条1項

企業価値担保権は可能な限り事業の継続が目的となっているため、設定後も事業用資産の使用・収益・処分・換価が可能である。
しかし、以下の行為その他の定款で定められた目的や取引上の社会通念に照らして通常の事業活動の範囲を超える使用・収益・処分をするには、企業価値担保権者全員の同意が必要となる。(20条2項)
 ・重要な財産の処分
 ・事業の全部または重要な一部の譲渡
 ・正当な理由なく商品、役務をその供給に要する費用を著しく下回る対価で供給すること
同意があれば、事業全部の譲渡も可能とのことで、その場合は譲渡対価で企業価値担保権を抹消することになるだろう。

前項の規定に違反して行った債務者の行為は、無効とする。ただし、これをもって善意でかつ重大な過失がない第三者に対抗することができない。

同20条3項

会社と取引をしたが、会社が企業価値担保権者の同意を得ずに上記の処分等を行った場合である。
この場合の相手方が保護される「善意・無重過失」とは、どのような場合なのか、施行後個別の判断になると思われるが、(最新の)登記簿の確認がポイントになると思われる。

企業価値担保権の契約当事者関係

企業価値担保権の契約当事者を纏めた図表である。
この図の登場人物については、一定の制限がある。

特定被担保債権者(特定被担保債権者に代位する者を含む。)は、重複担保権(債務者の財産を目的として特定被担保債権を担保する質権、抵当権その他の担保権(企業価値担保権を除く。次条第一項第二号及び第三号ハにおいて同じ。)をいう。第五節及び第二百二十九条第二項において同じ。)の実行をすることができない。

同11条

貸付金融機関等は、債務者の財産について、抵当権他の担保権を設定していたとしても実行が禁止されている。(企業価値担保権以外の重複担保権の実行の禁止)

また、同様に経営者保証などの個人保証債務についても、原則権利行使が禁じられている。(12条1項)
ただし、債務者が事業や財務状況についての報告義務を負う場合、虚偽の報告(決算の粉飾など)をしたことを停止条件としての権利行使は例外的に認められており、全面的な禁止ではなく、制限となっている。(同条4項)

事業性融資の推進等に関する法律の目的として、「不動産を目的とする担保権又は個人を保証人とする保証契約等に依存した融資慣行の是正」が明記されている。(1条)
重複担保の設定そのものや個人保証の例外的な行使が認められているように、新規案件だけでなく、既存のデットファイナンスにおいても抵当権設定や経営者保証を解除するまでもなく、企業価値担保権の設定をすることが出来ると考えられる。
また、「無形資産」に着目し評価するとしても、ある一定以上の会社の規模は必要であり、不動産が無くても銀行融資を受けられるというような安直な話ではないと思われる。
会社設立後であれば、信託契約の締結自体は可能であるが、譲渡できるような事業も資産もなくゾンビ化してしまえば、企業価値担保権の設定など全く意味のないものとなってしまうだろう。

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