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企業価値担保権を追うvol.4_枠組みと要件、効力はどうなっているか

企業価値担保権は、「会社」の将来のキャッシュフローを含む「総財産」を一体として担保の目的物とする。個々の事業ではない。
債務者兼設定者は株式会社、合同会社などの持分会社を含む「会社」である。
個人事業主や法人、組合は企業価値担保権を設定することができない。

会社の総財産(将来において会社の財産に属するものを含む。第二十五条及び第二百六条第一項において同じ。)は、その会社に対する特定被担保債権及び不特定被担保債権を担保するため、一体として、企業価値担保権の目的とすることができる。

事業性融資の推進等に関する法律7条1項

被担保債権は「特定」と「不特定」の2種類がある。
会社に対する債権であって、企業価値担保権信託契約(後述)に定められた債権(貸付金。貸し手は銀行の他ファンドなども想定)である「特定被担保債権」と、それ以外の取引債権や労働債権などの一般債権である「不特定被担保債権」に分かれ、担保権実行(事業譲渡)時の配当の扱いが異なっている。

「企業価値担保権信託契約」とは、債務者と企業価値担保権信託会社との間で締結される信託契約であって、債務者を委託者とし、企業価値担保権信託会社を受託者とするものをいう。

事業性融資の推進等に関する法律6条3項

企業価値担保権を設定するには、事業者である会社が「企業価値担保権信託会社」との間で「企業価値担保権信託契約」を締結することによる。
企業価値担保権信託会社とは、内閣総理大臣の免許を受けた信託会社であり、兼営法の認可を受けた金融機関も含まれる。
   https://www.fsa.go.jp/menkyo/menkyoj/kenei.pdf (信託兼営金融機関一覧、金融庁HPより)
設定者が「委託者」、企業価値担保権信託会社(企業価値担保権者)が「受託者」となる信託契約の内容は、特定被担保債権者(契約内で指定)と不特定被担保権者を「受益者」とし、管理・処分を目的とするものとなる。
貸付金融機関が信託兼営である場合、受託者と受益者が一致することがあり得る。

決議要件については、設定者が取締役会非設置の株式会社であれば、取締役の過半数の決定、取締役会設置会社であれば取締役会決議であり、通常の担保設定と同様である。
しかし、定款に定めることにより、株主総会決議とすることも出来、既にVCが株主となっているケースなどで、株主総会決議事項とする定款変更もあり得ると思われる。
事業譲渡が株主総会特別決議を要求されている事との兼ね合いである。
物上保証は禁止されている(他人の債務を担保できない)ため、利益相反は無いと考えられる。

企業価値担保権設定の決議要件(設定者事業会社)

企業価値担保権の得喪及び変更は、債務者の本店の所在地において、商業登記簿にその登記をしなければ、その効力を生じない。ただし、一般承継、混同又は特定被担保債権の消滅による得喪及び変更については、この限りでない。

事業性融資の推進等に関する法律15条

数個の企業価値担保権相互の順位は、その登記の前後による。

同16条

企業価値担保権の設定、内容の変更は「商業登記簿への登記」が効力要件となっている。
社債の担保が会社の総財産となる「企業担保権」と同様の扱いだが、企業担保法の手続が「企業担保登記登録令」に定められているのに対し、企業「価値」担保権では、事業性融資推進法第六節雑則において、不動産登記法が準用されている。

また、複数の企業価値担保権の順位は「登記された順番」となる。
企業価値担保権は「物権」であり、申請の方法や登記事項などは不動産登記の扱いとなる。
「企業価値担保法」でなく、あくまで金融機関等から事業者への貸付のうち、不動産抵当や経営者保証に依存しない「事業性融資」についての担保が、無形資産を含む会社の財産全てということである。
企業価値担保権が不動産抵当権と同様の頻度で設定されることはあるのだろうか。

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