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【CDレビュー】長生淳 アド・アストラ(光ヶ丘女子高等学校吹奏楽部)

 久しぶりのCDレビューです。
 普段私は吹奏楽のCDについてはプロor音楽大学の団体のものしか購入しないのですが、選曲に惹かれてこちらのCDを購入したところ思いの外良かったので、紹介も兼ねてCDレビューのnoteを書きました。


CD基本情報

◆タイトル
長生淳 アド・アストラ

◆発売日
2024年4月10日

◆収録曲
1.白鯨と旅路をともに(委嘱作品)/R.ガランテ
2.アド・アストラ/長生淳
3.いざ咲き匂はざらめやも<コンクールカット版>/長生淳
4.コンサートマーチ「風薫る五月に」/保科洋
5.カリバーナ/O.トーマス
6-7.カム・サンデー/O.トーマス
 1.テスティモニー(信仰告白)
 2.シャウト!
8-11.シンフォニア/周天
 第1楽章 夜
 第2楽章 トランジット:ニューヨークの地下鉄
 第3楽章 アリオーソ:上海の秋祭り
 第4楽章 大陸横断鉄道完成 D-O-N-E

◆演奏
指揮:日野謙太郎(1-3,8-11),高木啓暉(4),仲田守(5-7)
T.Saxソロ:仲田守(6)
演奏:光ヶ丘女子高等学校吹奏楽部

CDレビュー

 収録曲をいくつかピックアップして感想などを書いていきます。

白鯨と旅路をともに(委嘱作品)/R.ガランテ

 2020年に光ヶ丘女子高等学校による委嘱により作曲された楽曲。
 原題は「Sailing With Whales」なので直訳すると"クジラとの航海"ですが、部員による邦訳で「白鯨と旅路をともに」というタイトルになっています。

 曲は勇ましい三連符系のファンファーレで始まり、すぐにトロンボーンによってクジラとの胸躍る旅路を描いた壮大なメインテーマが奏でられます。
 中間部はテンポを落とし、日没時の穏やかな海を悠々と泳ぐクジラを表現した美しく叙情的なテーマが演奏されます。
 後半部ではテンポが再び速くなり、冒頭のファンファーレが戻り力強く壮大に閉じられます。
 5分半ほどの短い楽曲ながらも表情豊かで華やかな楽曲なので、演奏会のオープナーとして使いやすそうなイメージです。

アド・アストラ/長生淳

 中央大学学友会文化連盟音楽研究会吹奏楽部の創部75周年を記念して2017年に作曲された楽曲。このCDの表題曲でもあります。

 まずは、この楽曲を全曲版で収録していただいたことに感謝です…!
 このCDが発売されるまで、『アド・アストラ』の全曲版を聴くためには委嘱団体である中央大学学友会文化連盟音楽研究会吹奏楽部に直接問い合わせて定期演奏会のCDを購入するか、光ブラス応援団さんがYoutubeにアップしている演奏(以下)を観るか、という方法しか無かったのです。

 Youtubeにアップしていただいたものを聴くのも手軽ではあるのですが、長生作品は個人的にウォークマンやiPhoneのミュージックに取り込んで繰り返し聴きたい派なので、手軽に購入できるCDが発売されて非常にありがたいです。

 CDブックレットに記載された作曲者本人による楽曲解説によるとタイトルの意味は以下の通り。

 "Ad astra"は直訳すると「星に向かって、天に向かって」という意味ですが、"Per aspera ad astra"と続くのが本来の形で、「困難を通じて星へ…苦難を克服して栄光を獲得する」といった意味になります。

長生淳氏による初演時のプログラムの解説より抜粋

 15分を超える大曲で、大まかに明→暗→明という構成の楽曲。終盤のクラリネットソロが特に印象的です。
 これだけの大曲で演奏自体も定期演奏会のライブレコーディングなので、細かい傷などはあるものの全体的にはかなりのクオリティで安心して聴けます。

いざ咲き匂はざらめやも<コンクールカット版>/長生淳

 2曲続いての長生作品収録で、千葉県立幕張総合高等学校シンフォニックオーケストラ部の委嘱作品で2018年に作曲された「いざ咲き匂はざらめやも」です。

 カット内容としては2021年の全日本吹奏楽コンクールで光ヶ丘女子高等学校吹奏楽部が演奏した内容と同じです。
 こちらの作品も全曲版の音源が一般には発売されていない(光ヶ丘女子高等学校以外の音源だと、委嘱団体の千葉県立幕張総合高等学校シンフォニックオーケストラ部のコンクールカット版音源のみ)という状況でしたので、個人的にはこの作品も全曲版を収録していれば言うことなし、と思っていただけに若干残念ではあります…!

カム・サンデー/O.トーマス

 近年活躍中の作曲家、オマール・トーマスによる人気作「カム・サンデー」です。この作品は昨年発売された昭和音楽大学のCD(以下)でも収録された作品ですが、そちらは2022年6月の演奏。こちらは2022年3月の演奏ということでこちらが日本初演の演奏となります。
 (同じくO.トーマス作曲でこの楽曲の1つ前に収録されている『カリバーナ』も同様)

 昭和音大の音源と比べてどちらが良いか、という点は甲乙つけがたいですが、光ヶ丘女子高等学校吹奏楽部の演奏は(この楽曲に限らず)全体的に丁寧な音楽作りが印象的です。

 客演指揮を務める仲田守氏が1曲目の「テスティモニー」前半部の重要なT.Saxソロも演奏する"吹き振り"をしており、ソロの存在感は昭和音大のCDと比べてもこちらが圧倒的です。笑
 2曲目の"ノリ"や"熱狂"の表現はさすが音大生、ということで昭和音大の方が上手ですね。
 それぞれの良さがあるので、ぜひ両方の音源を聴き比べてみてください。

シンフォニア/周天

 このCD表題曲である『アド・アストラ』と並んでもう1つの目玉であるのが中国出身のアメリカ人作曲家、周天(ジョウ・ティエン)による「シンフォニア」の全曲版の収録です。

 この作品はアメリカ吹奏楽指導者協会およびジョン・フィリップ・スーザ財団により開催される吹奏楽曲の作曲賞である「スーザ/ABAオストウォルド賞」を2022年に受賞した作品です。 

 今年9月の東京佼成ウインドオーケストラの第166回定期演奏会でも取り上げられる予定で、ようやく日本でもぼちぼち演奏されるようになってきた楽曲なのですが、とにかく音源が無いという悲しい状況…。
 このnote執筆時点だと他に全曲版が収録されているCDは恐らく2024年2月に発売されたアメリカのベイラー大学ウィンド・アンサンブルのCD(以下、AppleMusicで聴けます)のみでしょうか。

 オストウォルド賞を受賞していながら録音機会に恵まれていない楽曲でしたので、今回このCDに全曲版の音源が収録されたのは非常に意義深いことかと思います。

 第1・2楽章は全体的にシリアスな雰囲気。
 第3楽章はフルート、オーボエ、ファゴットなどの木管楽器や、トランペットに受け継がれていく長いソロが印象的です。「上海の秋祭り」というタイトルが付いていますが、お祭り騒ぎというイメージではなく終始美しく静かな雰囲気です。
 第4楽章はモールス信号をモチーフとした同音連打や、金管楽器のフラッタータンギングなどが印象的な楽章。テンポを落とさず駆け抜けるように、そして力強く曲が閉じられます。

総評

 長生淳の『アド・アストラ』全曲版、そして周点の『シンフォニア』全曲版の収録という選曲に惹かれてこちらのCDを購入しました。定期演奏会のライブレコーディングからのセレクションということで正直あまりクオリティは期待していなかったのですが、どの楽曲も完成度か高く驚きました。

 定期演奏会でこれだけの新レパートリーの開拓を行い、さらにCDとして発売するのは素晴らしいことだと思うので、この活動が今後も続くよう応援していきたいですね。

 CDの購入は冒頭で紹介したCAFUAレコードのホームページなどからどうぞ!

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