【吹奏楽曲解説】交響組曲第4番「FI」~秘境探検 ファム&イーリー~(天野正道)
天野正道の交響組曲シリーズの解説note、GRシリーズの解説がひと段落して本日紹介するのは天野正道作曲の『交響組曲第4番「FI」~秘境探検 ファム&イーリー~』です。
■参考音源
・管弦楽版
Bernard Le Monnier指揮/ヴェルサイユ室内交響楽団、Françoise Herr合唱団による演奏
■作品について
本作品は管弦楽版と吹奏楽版で大きく構成が異なります。
管弦楽版は「秘境探険ファム&イーリー 交響組曲 1」「秘境探険ファム&イーリー 交響組曲 2」という2つのサウンドトラックCDで全22曲・合計100分近くの楽曲が収録されています。
120分程度のアニメなのにサウンドトラックCDの内容が100分?となると思いますが、管弦楽版CDはアニメの中で使用された楽曲そのまま収録したCDというよりは、アニメで使用した楽曲を拡張したバージョンで収録されています。
「秘境探険ファム&イーリー 交響組曲 1」の1曲目『序曲』を例に挙げてみます。管弦楽版のCDに収録された楽曲だと4分半程度の楽曲ですが、実際にOVAのプロローグ部分で使用しているのはこのうちの1分程度です。
管弦楽版のCDに収録されたバージョンだとオネゲル作曲の交響曲第3番「典礼風」そっくりの音楽が流れてきて驚きます。笑
天野氏が本当にやりたかったのはこっちのバージョンなのかもしれないですね。
吹奏楽版は管弦楽版と比較するとOVAで使用されていた音楽に寄った形で、全5楽章構成で18分半程度の作品です。
吹奏楽版の楽器編成として特徴的なのは、フルート・クラリネット・テューバにTuttiと異なるソロ用の譜面が存在していることでしょうか。Tuttiのクラリネット譜がヴァイオリンの役割で、ソロクラリネット譜がオーケストラのクラリネットの役割と考えると、譜面自体も管弦楽寄りな書き方になっています。
今回は楽譜が出版されている吹奏楽版を中心に解説いたします。
■解説
Wikipediaなどで調べれば詳しい情報は出てきますが「秘境探検 ファム&イーリー」は「秘境探検 ファム&イーリー RUIN・EXPLORER」というタイトルで1992年ごろに連載されていた冒険ファンタジーの漫画ですね。(作:田中久仁彦)
漫画自体は途中で打ち切られているようですが、全4話構成(124分)のOVA(オリジナル・ビデオ・アニメーション)が1995〜1996年に販売されており、こちらのアニメ音楽の作曲を担当したのが天野正道氏という訳です。
そして、『交響組曲第4番「FI」~秘境探検 ファム&イーリー~』はそのOVAで使用した音楽を抜粋・再構成した交響組曲です。OVAの音楽をもとに交響組曲を作曲するという考え方はGRシリーズと同じですね。
それにしても、この時代のOVA制作はお金をかけるのが流行っていたのですかね?OVA原作の録音を担当しているのはヴェルサイユ室内交響楽団という海外の楽団で、別途合唱まで使用しています。
また、アニメの声優自体も当時すでに人気声優という枠組みであった山寺宏一さんを起用するという豪華っぷりです。
アニメ作成にお金をかけていただいたおかげで天野正道氏によるこの作品が生まれたと考えるとありがたいことです…!
第1楽章 - 序曲(Prelude)
「第1楽章 - 序曲(Prelude)」はA-B-Aの三部構成で、金管や合唱によって演奏される重厚な音楽が流れるAパートと、フルートソロが印象的で木管楽器が中心のBパートとなっている2分程度の楽曲です。
OVAの中では第1話の冒頭、物語の世界観を説明する"語り"が入る部分の裏で流れている音楽です。以下のナレーションの「時は流れ〜」あたりからBパートとなります。
第2楽章 - 歓喜と希望(ファム&イーリーのテーマ)(Joie et espoir)
「第2楽章 - 歓喜と希望(ファム&イーリーのテーマ)」はOVAだと第1話の語りが終わって物語に入ってすぐ〜開始10分まで位の部分で流れる音楽を3分半程度で抜粋した楽章です。
前半部分の牧歌的な部分は主人公の一人、のんびりとした印象のファムのテーマでしょうか。オーボエのソロとファゴットの伴奏が良い味を出しています。
後半部分のテンポアップする部分は翌朝の朝食のシーンで流れる音楽で、朝のちょっとドタバタした雰囲気が出ているかと思います。
第3楽章 - 逃走と追跡(Fuite et poursuite)
「第3楽章 - 逃走と追跡(Fuite et poursuite)」は作曲者本人の解説にもある通り、OVAの第1話終盤の遺跡のシーンや、第3話の船上のシーンで流れるジャジーな音楽を4分半程度で抜粋した楽章です。
前半のジャジーな部分で約1分程度、後半部分でも30〜40秒程度のトランペットの大きなソロがあるのが印象的。中間部のシリアスな部分もザ・天野正道作品という感じで聴きやすい音楽です。
第4楽章 - 新たなる道(Le nouveau chemin)
「第4楽章 - 新たなる道(Le nouveau chemin)」は第2楽章前半部分の牧歌的な音楽がテンポを落とし、悲しい雰囲気で演奏されます。
ベルトーンのように徐々に積み重なる木管楽器の響きと、後半で演奏されるフルート、ファゴット、オーボエの悲しげなソロが印象的な2分半ほどの楽章です。原作のOVAでは第4話の前半のシーンで流れる音楽を使用しています。
第5楽章 - 狂信~旅の終わり(La folie~ La fin du voyage)
「第5楽章 - 狂信~旅の終わり(La folie~ La fin du voyage)」はOVAの第4話後半、最後の戦い〜エンディングという物語のクライマックスのシーンで流れる音楽を6分程度で抜粋した音楽です。
前半部分はラスボスとの戦いのシーンの音楽なので合唱もフル活用した重厚な音楽となっています。後半は戦いが終わった後の平和的なシーンとなり、第2楽章前半部分の牧歌的なテーマがホルンによって朗々と奏でられます。ラストはテンポアップして次の冒険への期待を持たせながら終了という構成になっています。
■収録CD
・管弦楽版
・ヴェルサイユ室内交響楽団 『「秘境探険ファム&イーリー」交響組曲 1』[COR-12857]
参考音源として紹介したYoutubeの管弦楽版音源の収録CD。30年近く前に発売されたCDで廃盤のため中古で入手する必要あり。Amazonやフリマサイトなどで出品されているので入手はそこまで難しくはなさそうです。
今回解説した吹奏楽版の1〜3楽章の管弦楽版原曲はこちらに収録。
・ヴェルサイユ室内交響楽団 『「秘境探険ファム&イーリー」交響組曲 2』[COCC-13101]
上に同じく管弦楽版のCDの2枚目。今回解説した吹奏楽版の4,5楽章の管弦楽版原曲はこちらに収録。
・天野正道指揮/伊奈学園OB吹奏楽団・伊奈学園総合高等学校吹奏楽部(合唱)『天野正道 60th アニバーサリー・アルバム 2 「激選」~自選楽曲集』[CAFUAレコード CACG-0025]
天野正道指揮・伊奈学園OB吹奏楽団、伊奈学園総合高等学校吹奏楽部(合唱)による吹奏楽版初演時のライブ録音。今回解説した吹奏楽版が収録されています。価格がリーズナブルで手に入りやすいCDです。
■最後に
今回は交響組曲第4番「FI」~秘境探検 ファム&イーリー~』を紹介しました。演奏会のプログラムに組み込まれているのを見たことがないので、天野正道氏の交響組曲シリーズの中でもかなり演奏頻度が低い作品と思われます。
木管楽器主体の可愛らしい雰囲気の音楽が多い点が『GR』など他の交響組曲シリーズと異なって面白いので、合唱が用意出来てソロの多いオーボエ、フルート、トランペットなどに名手がいるバンドはぜひ挑戦してみてください!
楽譜は以下のページでCAFUAレコードよりレンタルされています。
〜その他の天野正道・交響組曲シリーズの解説はこちら〜
・交響組曲第1番
・交響組曲第2番「GR」
・交響組曲第2番「GR」より
・交響組曲第2番「GR」より トレインチェイス・エディション
・交響組曲第3番「GR」