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【楽曲解説】交響組曲第3番「GR」(天野正道)

 本日紹介するのは天野正道作曲の『交響組曲第3番「GR」』です。

 私のnoteではこれまで『交響組曲第2番「GR」のシリーズ(管弦楽全曲版、吹奏楽全曲版、トレインチェイス・エディション)の解説を行なってきましたが、今回は組曲の番号が異なる『交響組曲第3番「GR」』の解説です。

 第2番シリーズとの違いも含め分かりやすく解説しようと心がけますので、複数バージョンある「GR」の版の違いの整理になれば幸いです。

[本noteで解説する内容]
 ・交響組曲第3番「GR」より(管弦楽版・吹奏楽版)

[本noteで解説しない内容]
 ・「GR」よりシンフォニック・セレクション
 ・「GR」より明日への希望
 ・交響組曲"GR"「地球が静止する日」
 など

[既にnoteで解説済みの内容]
 ・交響組曲第2番「GR」(管弦楽全曲版)

 ・交響組曲第2番「GR」より(吹奏楽全曲版)

 ・交響組曲第2番「GR」より トレインチェイス・エディション(管弦楽版・吹奏楽版)

■参考音源

・吹奏楽版

牧野 誠指揮/富山ミナミ吹奏楽団による演奏(一部カットあり)

・管弦楽版

天野 正道指揮/ワルシャワ国立フィルハーモニー管弦楽団による演奏(一部カットあり)

■作品について

タイトル:交響組曲第3番「GR」
作曲:天野正道
時間:約16分
難易度:グレード4
出版:CAFUAレコード
初演:
・管弦楽版
天野正道指揮/ワルシャワ国立フィルハーモニー管弦楽団
※初演時期不明。吹奏楽版より先(1999年〜2000年頃)と思われます
・吹奏楽版
2000年7月30日 牧野誠指揮/富山ミナミ吹奏楽団(砺波市文化会館にて)

 2000年の全日本吹奏楽コンクールでは浜松交響吹奏楽団が交響組曲第2番「GR」より、富山ミナミ吹奏楽団が交響組曲第3番「GR」よりという2つの「GR」をそれぞれ初演しています。

 吹奏楽版の交響組曲第3番「GR」誕生の経緯は富山ミナミ吹奏楽団の指揮者である牧野氏によると以下のようです。

 ある時、浜響吹さんの「交響組曲第2番"GR"」を聞く機会があり、私は感動に震え涙が止まりませんでした。(中略)私はすぐに浜響吹の音楽監督に連絡を取り、是非ミナミでも演奏させて頂けないかと打診しましたが、コンクールを控えている事とその年の冬にこの曲をメインにCDを制作することが決まっており実現不可能と思っていた時に、「交響組曲第3番"GR"」が天野さんの手によって生まれました。 ※以下省略

牧野 誠指揮/富山ミナミ吹奏楽団 『天野正道 交響組曲第7番「BR」より』
CDブックレットより引用

 上記の通り「浜松交響吹奏楽団の演奏した交響組曲第2番「GR」をどうしても演奏したい!」→「それは諸事情でNGだけど交響組曲第3番「GR」なら」、という流れで同時期に2つのGRの吹奏楽版が生まれることになりました。

 余談ですが、富山ミナミ吹奏楽団 『天野正道 交響組曲第7番「BR」より』のCDには天野正道氏側の視点でも上記のやりとりがユーモアも交えて記載されていて面白いです。笑
 興味がある方は是非CDを買ってみてください!

■一言でまとめると

  • OVA全7話の楽曲から『交響組曲第2番「GR」』シリーズで使用しなかった楽曲を抜粋して構成したものが『交響組曲第3番「GR」』

  • 『交響組曲第3番「GR」』にはサントラ以外のCD(「管弦楽曲 ジャイアントロボⅠ 完全盤―地球が静止する日―」)から抜粋している楽曲もある

■解説

 『交響組曲第3番「GR」』の解説に入る前に、交響組曲第2番「GR」シリーズを改めて整理します。

 これまでの解説noteでは以下の内容を解説しました。

  • サントラ(全100曲超)から17曲を抜粋して作成したものが管弦楽全曲版にあたる『交響組曲第2番「GR」』

  • 『交響組曲第2番「GR」』から5曲抜粋し、吹奏楽用に編曲したものが吹奏楽全曲版にあたる『交響組曲第2番「GR」より』

  • 『交響組曲第2番「GR」より』の別バージョンとして、『交響組曲第2番「GR」』から6曲抜粋したものが『交響組曲第2番「GR」より トレインチェイス・エディション』

 『交響組曲第3番「GR」』でも原曲のサントラからの抜粋曲があるのは変わらずですが、交響組曲のナンバリングが異なることからも分かる通り、交響組曲第2番「GR」シリーズでは使用されなかった楽曲で構成されています。

 さらに、『交響組曲第3番「GR」』ではサントラの楽曲以外からも抜粋しているのが、交響組曲第2番「GR」シリーズとの大きな違いです。
 具体的には以下の「管弦楽曲 ジャイアントロボⅠ 完全盤―地球が静止する日―」というCDからの抜粋曲があります。

序曲、悲劇は再び、トレインチェイス、ジャイアント・ロボ、国際警察機構、BF団、ウラエヌスの出現、アルベルトの襲撃、載宗の逆襲の全9曲

 上記のCDはOVAの中で使用したサントラの楽曲からイメージを膨らませ、「映像から離れて純粋に音楽作品として成り立つ曲」を目指して作られた9曲を収録したCDです。
 アニメの中では2分しか使われていなかった楽曲を9分に拡大して収録、といったサントラの拡大版というイメージですね。

 『交響組曲第3番「GR」』 はこのCDの中から「序曲」「国際警察機構」の2曲を使用しています。
 国際警察機構のテーマはアニメの中(=サントラの中)でも何回か出てきますが、こちらのCDに収録されたものは約4分半の時間をかけてたっぷり演奏される壮大な楽曲となっています。

■使用楽曲について

 『交響組曲第3番「GR」』は交響組曲第2番「GR」シリーズと異なり4楽章構成となっているので、楽章ごとに使用楽曲を整理していきます。

 『交響組曲第2番「GR」より トレインチェイス・エディション』の解説と同様、楽曲の使用時間(x:xx〜x:xx頃の表記)および該当のCDの番号(=OVAのエピソード番号、曲順)についても記載していきます。

 なお、楽曲の使用時間については以下のCDに収録されている管弦楽版の『交響組曲第3番「GR」より』を参考にしています。(冒頭Youtubeで紹介した管弦楽版の音源と同一です)

収録CD:『天野正道・交響組曲セレクション』(QLM-0005)
(天野正道指揮/ポーランド国立・ワルシャワ・フィルハーモニックオーケストラ)

第1楽章

0:00〜0:40頃 →  炸裂!噴射拳・逆襲の載宗(1-16)

 第1楽章は2曲続けて演奏されますが、そのうちの1曲目が「炸裂!噴射拳・逆襲の載宗」の楽曲です。こちらはサントラからの抜粋楽曲です。

 低音楽器の持続音に乗っかりホルン、トロンボーン、トランペットなどがファンファーレを演奏する楽曲で、何か壮大な映画の幕開けのような音楽が奏でられます。

 サントラとしては1分40秒ほどある楽曲ですが、『交響組曲第3番「GR」』の中で使用されているのは冒頭の40秒程度です。ファンファーレ部分が演奏されると、そのまま次の楽曲に続きます。

0:40〜3:20頃 →  序曲(1完全版-1)

 「炸裂!噴射拳・逆襲の載宗」に続けて演奏されるのは、「管弦楽曲 ジャイアントロボⅠ 完全盤―地球が静止する日―」のCDからの抜粋作品で「序曲」です。

 序曲は序奏-A-B-A(-コーダ)といった構成になっており、楽譜上はCDに収録された楽曲がノーカットで演奏されます。

 弦楽器の高音の持続音の中からフルート、ファゴット、オーボエといった木管楽器が短い室内楽的なソロのフレーズを演奏し、トランペットがそれに受け応えるといった静かな雰囲気で序奏がスタートします。

 序奏部が唐突に終わると3連符の打ち込みが2小節演奏され、金管楽器によって勇敢なテーマが演奏されます。このテーマをもとに序奏の音楽は展開していきます。

 途中、チェロやホルンなどによって長いフレーズの音楽が奏でられる中間部が挟まります。この中間部は大空もしくは大海原を連想させるようなスケールの大きい音楽です。
 中間部が終わると再び金管楽器の勇敢なフレーズが戻り、そのままの勢いで序曲が締めくくられます。

 "楽譜上はCDに収録された楽曲がノーカットで演奏される"と記載しましたが、実は参考音源として挙げた吹奏楽版(富山ミナミ吹奏楽団)、管弦楽版(ワルシャワ国立フィルハーモニー管弦楽団)はいずれも序曲の序奏部分が丸々カットされた状態での音源となっています。

 現在出版されている楽譜と、CD収録時の楽譜で差分があるのかもしれませんが、『交響組曲第3番「GR」』の演奏の際に序曲部分については「管弦楽曲 ジャイアントロボⅠ 完全盤―地球が静止する日―」に収録された楽曲の方を参考にした方が良いかと思います。

第2楽章

3:20〜5:30頃 → 反撃の時~大作の決意(7-9)

 第2楽章はサントラから「反撃の時~大作の決意」の音楽の抜粋です。
 第1楽章で使われていたのはアニメのエピソード1の音楽なのに対し、第2楽章で使用されているこちらの楽曲はアニメのエピソード7(最終エピソード)の音楽なので、ストーリー的にはだいぶ飛びますね。

 サントラの「反撃の時~大作の決意」は5分ほどの楽曲ですが、第2楽章で使用されているのはそのうちの前半2分ほどなので、"反撃の時"部分が抜粋されているのかと思います。

 木管楽器などの強烈な不協和音の上にピアノなどの鍵盤楽器がクラスター的な連符を奏でる印象的な音楽で始まります。同じ天野作品で言うと『おほなゐ』の第1楽章の一番激しい部分と似たような、聴いていて怖くなるような響きです。

 その後、金管楽器の勇敢な音楽が何回か繰り返し流れますが、どこか決着がつかないような煮え切らない感じでこの楽章は終わります。

 なお、参考音源として挙げた吹奏楽版(富山ミナミ吹奏楽団)の演奏は第3楽章と第2楽章が入れ替えて演奏されています。

第3楽章

5:30〜8:40頃 → 逆襲!ロボVSウェラヌス(2-12)

 第3楽章は16分音符の速いパッセージが続く緊迫感のある雰囲気でスタートします。第3楽章はサントラの「逆襲!ロボVSウェラヌス」の音楽がノーカットで演奏されます。

 緊迫感のある部分が盛り上がると、トロンボーンなどの低音楽器による迫力のある音楽が何回か繰り返されます。4/4拍子→2/4拍子→3/4拍子→2/4拍子のフレーズが何回も繰り返されたあとは、やや雰囲気が明るくなり弦楽器メインの長いフレーズで奏でられる音楽が続きます。

 途中トランペットによるファンファーレも奏でられると音楽は徐々に盛り上がり、盛り上がりの頂点で4小節間のティンパニソロが演奏されます。
 原曲のサントラおよび『交響組曲第3番「GR」』のスコア上はティンパニソロの後にD.S. al Codaがあり、前半部分が再び演奏されるのですが、参考音源として挙げた吹奏楽版・管弦楽版いずれの演奏も前半部分には戻らずティンパニソロで唐突に終わっています。

 第2楽章同様CD収録時の楽譜と現在出版されている楽譜が異なるのかもしれませんが、こちらも原曲のサントラの演奏が参考になると思います。

第4楽章

8:40〜13:10頃 →  国際警察機構(1完全版-5)

 第4楽章で演奏されるのはGRシリーズの中でも特に人気の高い「国際警察機構」のテーマです。

 こちらの楽曲は原曲のサントラでも複数バージョン収録されていますが、いずれも1〜2分程度の短縮版で、『交響組曲第3番「GR」』で採用されているのは「管弦楽曲 ジャイアントロボⅠ 完全盤―地球が静止する日―」に収録された4分半ほどに拡大されたバージョンです。

 「管弦楽曲 ジャイアントロボⅠ 完全盤―地球が静止する日―」の収録された内容がノーカットで演奏され、感動的なクライマックスを迎えて曲が閉じられます。

 「国際警察機構」のテーマは別途解説予定の『「GR」よりシンフォニック・セレクション』でも収録されている楽曲で、正直この楽曲を演奏したいのかどうかで交響組曲第2番シリーズ or 交響組曲第3番・シンフォニックセレクションのどれを演奏するかが分かれてくると言っても過言ではないと思っています。
 (前者に「国際警察機構」のテーマは無く、後者にはあります。)

■収録CD

・天野正道指揮/ポーランド国立・ワルシャワ・フィルハーモニックオーケストラ 『天野正道・交響組曲セレクション』[QLM-0005]

 参考音源として紹介したYoutubeの管弦楽版音源の収録CD。『交響組曲第1番』や『交響組曲第2番「GR」よりトレインチェイス・エディション』の解説でも触れた通り、廃盤のため入手困難。
 本文中でも触れた通り、1楽章の序曲部分にカットあり。3楽章に繰り返しの省略あり。

・牧野 誠指揮/富山ミナミ吹奏楽団 『天野正道 交響組曲第7番「BR」より』[CAFUAレコード CACG-0025]

 参考音源として紹介したYoutubeの吹奏楽版音源の収録CD。本文中でも触れた通り1楽章の序曲部分にカットあり。2楽章と3楽章の入れ替えおよび3楽章に繰り返しの省略あり。

■最後に

 交響組曲第2番「GR」シリーズはサントラからの抜粋で構成されていた"メドレー"のような形式であるのに対し、交響組曲第3番「GR」はサントラからの抜粋+サントラを拡大させた楽曲の使用で4楽章構成とすることで、より交響的な形式になっています。

 交響組曲第2番「GR」シリーズと今回紹介した交響組曲第3番「GR」、どれも魅力的な構成になっているので、演奏する側からするとどの版を取り上げるか悩ましい所ですね。

 途中でも触れた通り、交響組曲第3番「GR」は現在出版されている版通りにノーカットて演奏された音源が存在しないので、どこかの団体が収録してくれるのを気長に待ちたいと思います。

 残りのGRシリーズは『「GR」よりシンフォニック・セレクション』と、先日楽譜の出版が発表された『交響組曲"GR"(新版)「地球が静止する日」』ですね。

 新版の出版までにはシンフォニック・セレクションの解説noteを執筆したいと思いますので、もう少々お待ち頂ければと思います!

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