【吹奏楽曲解説】交響詩「鯨と海」(阿部勇一)
お久しぶりです。前回の楽曲解説からだいぶ時間が空いてしまいました…。今回紹介するのは阿部勇一作曲、『交響詩《鯨と海》』です。
■参考音源
佐川聖二指揮/グラールウインドオーケストラによる初演時の演奏。
■作品について
作品について紹介していきます。引用部分は作曲者による楽曲解説です。
・1小節~15小節(参考音源冒頭~0:50頃)
低音楽器群によるロングトーンの上にファゴット、バスクラリネット、ピアノなどによる波のうねりを表現したような連符で曲はスタートします。
この時点ではまだ鯨の全体像ははっきりと見えず、音楽もどこか不気味でありながらも神秘的な雰囲気です。
編成上コントラバスクラリネット、バストロンボーンなどはオプション扱いですが、この辺りの低音の厚みを表現するためにも極力含んだ状態で演奏した方が効果的かと思います。
・16小節~36小節(参考音源0:50~2:10頃)
フルートのソロを皮切りに木管楽器群の連符で音楽に動きが出てきます。金管楽器も徐々に加わり「鯨」の姿が徐々に明らかになっていきます。
ティンパニのロール後に一瞬のパウゼを挟み、鯨が海上にその全体像を現します。
この部分の表現がまさに圧巻なので、ぜひ聴いていただきたいです。
(個人的にはここで心をグッと掴まれました。)
・37小節~140小節(参考音源2:10~3:30頃)
壮大な雰囲気が一変し、付点二分音符=80とテンポが速い3拍子の音楽が始まります。時に金管の上行形の音階や力強い裏打ちのリズムなども交えながら一気に駆け抜けます。
・141小節~240小節(参考音源3:30~8:00頃)
冒頭のフルートソロが形を変えてフルート、ピッコロ、オーボエによって奏でられ場面が変わります。6/8拍子でしばらく木管楽器による優しい旋律が続きます。
トランペット、ホルンと金管楽器も徐々に加わると音楽が前向きになり盛り上がりを見せますが、すぐに落ち着きます。
クラリネットによって再度旋律が奏でられますが、今度は先ほどの優しい旋律にさらに深みが加わり、息の長いフレーズになります。
似たようなフレーズが続く部分ではありますが、リズムや演奏する楽器、音の高低を少しずつ変えることで聴いている人を惹きつけます。
・241小節~284小節(参考音源8:00頃~8:45)
クラリネットによる無窮動風なソロにより、直前までの穏やかな雰囲気は一変します。天候の悪化により海が荒れてくる様子を表しているような音楽となります。
・285小節~ラスト(参考音源8:45頃~ラスト)
曲の前半で流れた「北の国の伝説をイメージした古風なメロディ」や中間部で流れたフレーズが形を変えて再度現れます。跳ねるようなリズムに乗っていままでのシーンを回想し、そのまま力強く曲は閉じられます。
■収録CD
・福本信太郎指揮/昭和音楽大学 昭和ウインド・シンフォニー
新風シリーズの第4弾。技術面・録音面いずれも良好で安心して聴けます。カップリングで収録されている高昌帥作品、酒井格作品もそれぞれの作曲家らしさが出ていて面白い作品です。
■最後に
全曲通すと12分近い大曲ですが、場面描写も分かりやすく聴いているとあっという間に曲が終わります。
出版社表記のグレードは5となっていますが、阿部勇一作品というと『交響詩《ヌーナ》』『黎明のエスキース』『われらをめぐる海 ~レイチェル・カーソンに捧ぐ~』など重厚なハイグレード作品が多いですが、今回紹介した『交響詩《鯨と海》は』それらの作品と比べると手が出しやすい印象です。
いままで阿部勇一作品に手が出なかった団体でも演奏出来る(それこそ人数が揃っている高校生バンドであれば充分取り組むことが出来る)作品だと思いますので、これから演奏する団体がぜひ増えて欲しい1曲です。