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【吹奏楽コンクール2024】注目の選曲:編曲作品編

 先日投稿した今年の吹奏楽コンクールの個人的な注目作品紹介note(海外オリジナル作品編・邦人オリジナル作品編)に続いて、今回は【吹奏楽コンクール2024】注目の選曲:編曲作品編です。

紹介するポイントは以下の通りです。詳細は前回、前々回のnoteを参照してください。
・今年のコンクールで個人的に気になった選曲を紹介
・ピックアップ対象は「大編成部門(A部門)」かつ「支部大会(全国大会の1つ前の大会)に出場した団体」の選曲
・今回紹介するのは「吹奏楽編成以外の楽曲の編曲作品」

(前々回のnote:海外オリジナル作品編)

(前回のnote:邦人オリジナル作品編)

 さっそく作品の紹介に入っていきます!

【吹奏楽コンクール2024】注目の選曲:編曲作品編

How to Train Your Dragon(J.パウエル/編曲:藤岡睦穂)

支部大会での演奏団体:岩倉高(東京)

 『How to Train Your Dragon』は日本だと『ヒックとドラゴン』というタイトルで知られている2010年公開のアメリカ映画の音楽です。

 『ヒックとドラゴン』はイギリスの児童文学を原作としており、映画音楽もイギリス出身の作曲家ジョン・パウエルが手がけています。

 J.パウエルは他にも多くの映画音楽の作曲を手がけていますが、『ヒックとドラゴン』の映画音楽で2010年の第83回アカデミー賞作曲賞にもノミネートしており、彼の代表作と言えるでしょう。
 なお、この年のアカデミー賞作曲賞を受賞したのは『ソーシャル・ネットワーク』の音楽を手がけるトレント・レズナー、アッティカス・ロスでした。

 編曲を手掛ける藤岡睦穂氏は映画音楽・ゲーム音楽などを中心に演奏するプロ吹奏楽団"BRASS EXCEED TOKYO"の専属アレンジャーを2014年から務める作曲家・編曲家です。
 2019年3月に行われたBRASS EXCEED TOKYOの第20回記念定期演奏会演奏された藤岡睦穂氏編曲の『How to Train Your Dragon』がYoutubeにてアップされていたのでこちらを参考音源として紹介しています。

 岩倉高校がこちらの楽譜を使用しているのかは不明ですが、上記動画の指揮者が岩倉高校の指揮者でもある大滝実氏ということを踏まえると、使用している楽譜はこちらでほぼ間違いないかと思います。

 『How to Train Your Dragon』の原曲はサントラに収録されている音源で約70分程度、藤岡睦穂氏編曲版はその中から「This Is Berk(バーク島)」「See You Tomorrow(また明日)」「Test Drive(テスト飛行)」「The Vikings Have Their Tea(バイキングはお茶の時間)」「Coming Back Around(トゥースに乗って)」の5曲を抜粋した12分程度のセレクションです。

 原曲のサントラの音源のAppleMusicリンクも以下に貼り付けておきます。

架空の愛へのトロピズム(J.イベール/編曲:川原明夫)

支部大会での演奏団体:高崎女子高(西関東)

 ジャック・イベール(1890-1962)はフランスの作曲家です。吹奏楽では代表曲の『交響組曲「寄港地」』の吹奏楽編曲はもちろん、日本の皇紀2600年奉祝曲でもある『祝典序曲』なども演奏されています。

 『祝典序曲』の方はオケでは滅多に演奏されませんが、森田一浩版・近藤久敦版・天野正道版などの複数編曲版があって、たびたび吹奏楽コンクールでも取り上げられているというのが面白い所でもあります。

 今年の吹奏楽コンクールではそんなイベール作曲の生前最後の管弦楽曲『架空の愛へのトロピズム』を選曲している団体があります。
 『架空の愛へのトロピズム』は全体で24分ほどの作品で、上記参考音源だと1つのトラックにまとめられていますが中身は9つの楽章に分かれている楽曲だそうです。

 9つの楽章はそれまでイベールが作曲で触れてきたバレエ音楽、劇付随音楽、ジャズ、協奏曲…等々を1つの曲の中で混ぜ合わせたような楽曲で、良く言えば「イベールの集大成的な自由な構成の作品」、私のようにイベール作品に詳しく無い人が聴くと正直「よく分からない様々な要素のごちゃ混ぜ」にしか聴こえない作品です。

 同じくイベール作曲の『室内管弦楽のためのディヴェルティスマン』も様々な性格をもつ複数楽章から成る作品ですが、ディヴェルティスマンと比較すると『架空の愛へのトロピズム』の演奏頻度は天と地ほどの差があります。
 イベール最後の管弦楽曲であり、"珍曲"ともいえるこの作品をどのように演奏するのか気になる所です。

 ちなみに高崎女子高は『架空の愛へのトロピズム』編曲者の川原明夫氏のアレンジ作品を2011年ごろから取り上げており、過去の選曲はヴィラ=ロボス作曲『ブラジル風バッハ第8番』、フローラン・シュミット作曲『映画音楽「サランボー」』など、独特な選曲をしています。
 今後の選曲にも期待です!

ミュージカル「オペラ座の怪人」より(A.ロイド・ウェバー/編曲:郷間幹男)

支部大会での演奏団体:大阪桐蔭高(関西)

 アンドリュー・ロイド・ウェバー(1948-)はミュージカル作品の音楽を数多く手掛けるイギリスの作曲家で、『オペラ座の怪人』が代表作ですが他にも『キャッツ』などのミュージカル音楽も作曲しています。

 ミュージカル「オペラ座の怪人」の吹奏楽編曲版といえば、フルートソロで演奏する「The Music Of The Night」で幕を開ける7分程度のハイライト版であるポール・マーサ編曲版と、15分程度で壮大な構成のヨハン・デ=メイ版が比較的良く演奏されます。

(P.マーサ編曲版↓)

(ヨハン・デ=メイ編曲版↓)

 マーサ版は2010年ごろまではコンクールや演奏会で聴く機会が多く、デ=メイ版は2010年以降ちらほらと聴く機会が増えてきたという印象でしたが、郷間幹男氏による編曲版はこれらの版に続く『オペラ座の怪人』の新たな版となるのか注目です。

チャッコーナ・アラルガータ(J.S.バッハ/編曲:田村文生)

支部大会での演奏団体:松山東高(四国)

 チャッコーナ(ciaccona)は「シャコンヌ」のイタリア語。アラルガータ(allargata)は同じくイタリア語で「拡大」といった意味の単語です。

 『チャッコーナ・アラルガータ』はそのタイトルが示す通り、"バッハのシャコンヌ"と呼ばれる「無伴奏ヴァイオリンのためのソナタとパルティータより パルティータ第2番ニ短調 BWV. 1004 - 第5楽章"シャコンヌ"」を拡大・編曲した作品です。

 調べた中で正確な作曲年度が不明だったのですが、渡郶謙一氏が音楽監督を務める北海道教育大学スーパーウィンズの2023年の演奏会や、同じく2023年の第29回日本管楽合奏コンテストで鶴岡東高によって演奏されているので2023年ごろ作曲された作品と思われます。

 "バッハのシャコンヌ"は管弦楽編曲版だとストコフスキー版、齋藤秀雄版、他にもマイナーな所だとシテインベルク版があります。
 吹奏楽版だと森田一浩版、伊藤康英版、根本直人版などが存在し、オリジナルの無伴奏ヴァイオリンでの演奏だけでなく、管弦楽・吹奏楽問わず広く演奏されている作品です。

 田村文生編曲版は参考音源として紹介した北海道教育大学スーパーウィンズ2023の演奏を聴いていただけると分かる通り、単純な編曲(所謂トランスクリプション)では無く、"再作曲"とも言えるような大胆なアレンジが行われています。

 しかしながら原型はしっかりと"バッハのシャコンヌ"なのが面白いところで、田村文生氏の代表的な編曲作品である『バッハの名による幻想曲とフーガ(フランツ・リスト作曲)』と同様、創意工夫に富んだアレンジが楽しめます。

 余談ですが『チャッコーナ・アラルガータ』のラスト、タンバリンの張り裂けんばかりの一撃で終わるのが衝撃的すぎて、同氏のオリジナル作品「アルプスの少女」を思い出してしまいました…。笑

エイゼンシュテインのための映画音楽「イワン雷帝」 (S.プロコフィエフ/編曲:A.ヤジザデ)

支部大会での演奏団体:東海大付属相模高(東関東)

 『イワン雷帝』はセルゲイ・プロコフィエフ(1891-1953)の作曲した映画音楽です。
 プロコフィエフ作品といえばどうしても『バレエ音楽「ロメオとジュリエット」』『バレエ音楽「シンデレラ」』『交響的物語「ピーターと狼」』などの作品が有名なため、『イワン雷帝』はお世辞にも有名とは言えない作品です。

 オーケストラでの演奏機会も少なく、直近だとスタセヴィチ編曲版を2017年にNHK交響楽団が取り上げた程度でしょうか?
 吹奏楽編曲版はブリヂストン吹奏楽団久留米が2012年に榛葉光治氏による編曲版を取り上げてからちらほらと吹奏楽コンクールなどで演奏する団体が出てきましたが、今回のA.ヤジザデ(恥ずかしながらこの作曲家のことを私は全く存じ上げていなかったのですが…)編曲版という新しい版が演奏されることに驚きです。

「ミサ」 〜歌手、演奏者とダンサーのためのシアターピース〜(L.バーンスタイン/編曲:M.スウィーニー)

支部大会での演奏団体:セントシンディアンサンブル(関西)

 バーンスタインの『「ミサ」 〜歌手、演奏者とダンサーのためのシアターピース〜』はワシントンD.C.のケネディー・センターのこけら落としのために作曲され、1971年に初演された作品です。

 バーンスタイン自身が「この作品は私の全てであり、私の人生だ。」とも語った、集大成とも言える渾身の作品ですが、とにかく編成が大きい作品です。
 オーケストラ、合唱のほか、18人の独唱者、児童合唱、ロックバンド、ブルースバンド、ダンサーなどを要するので、海外でも滅多に実演されません。

 2017年に井上道義指揮・大阪フィルハーモニー交響楽団で演奏され話題になりました。(国内での上演は23年振りだったそうです…!)

 マイケル・スウィーニー編曲の吹奏楽版はベイラー大学の2014年のミッドウエスト・クリニックでアメリカのベイラー大学ウィンド・アンサンブルが演奏した音源がAppleMusicにありましたので、こちらを参考音源として紹介しました。

 1時間50分程ある原曲は以下リンクからどうぞ。

■最後に

 【吹奏楽コンクール2024】注目の選曲:編曲作品編と題して今年のコンクールで個人的に気になった編曲作品を6作品ほど紹介しました。

 個人的には編曲作品は吹奏楽コンクールにおいて開拓され尽くした感があるかと思っていたのですが、今年のコンクールでの選曲をざっと見てもそうではないと分かって驚きました…!

 面白い作品を掘り出してくる団体や過去に流行した作品を新バージョンで選曲する団体も多く、レパートリー拡大に務める指揮者・団体の皆様には頭が上がりません…。

 今年のコンクールで気になった選曲の紹介noteはこれにて一段落の予定ですが、時間があれば小編成部門の選曲で同じように気になった作品もそのうち紹介するかも…?
 気長にお待ちいただければと思います。

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